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アルビレックス新潟の守備戦術:2023 J1 第13節 アルビレックス新潟×横浜F・マリノス

最高すぎたマリノス戦。全てが最高すぎた!

涼太郎の落ち着いたゴールシーンと三戸のキャノンが派手すぎて印象が薄くなってしまうが、この日の新潟は守備が非常に安定していた。基本に忠実に全員が同じイメージを共有しての442守備。

何も新しいことも難しいこともオシャレなこともやっていない。ただただ全員が基本に忠実に愚直に組織守備を高いクオリティで遂行しただけである。

そんな新潟の守備について解説してみようと思う。

442ゾーン守備

新潟の守備はアルベル時代というか吉永時代もずっと442。走れ新潟!の時代はちょっと違うんだけど442であることは変わりない。これはある意味新潟の伝統と言って良いんじゃないかとさえ思い始めてきた。

442ゾーンと言っても種類がいくつかあるのだが、この日の新潟はマリノスのビルドアップを追い込んでハントというのが効果的に行えていたし、後半開始直後には追い込みの強度を上げた結果として一気に押し切ることができた。

そして、リードしてからはミドルブロックという形で引きすぎず、だけど前に出すぎずという絶妙な位置でグリッドを形成してマリノスのビルドアップを機能不全にさせたのは賞賛に値する。

そんな新潟の守備を細かく見ていこう。

サイド追い込み

新潟の442ゾーン守備は最近洗練されてきて非常に良い感じなのだが、相手のボールと人の動きを操作して追い込んで嵌めるというのが基本になる。

その流れを作るためのハイプレスという手段が派手でわかりやすいのだが、新潟はプレスはするものの「派手だな!」と思うほどの猪突猛進はしない。

ジリジリとタッチライン際に追い込んで追い込んで気が付けばタッチライン際にオレンジのユニフォームが密集しているみたいな状況を作り出す。新潟式ストーミング。

この日は孝司がファーストディフェンダーとしてボールの方向を限定させるところからスタートし、最終的には左サイドに追い込んでゴメスが対人アタックというシーンが多かった。

この状況が作れると、ボールを引っ掛けることさえできればセカンドボールを他の誰かが回収して攻撃に転じるということができるようになる。引っ掛け&回収が相手陣内ならいわゆるショートカウンター発動という状況が生まれる。

鈴木孝司のプレスをトリガーにして外に追い込んで狩る新潟。基本に忠実な組織的な守備。

ごくごく基本的な守備しかしてないが、基礎基本がどれだけ大事かということを体現している新潟のゾーン守備である。誰か一人でも違う動きをすると穴が空いて総崩れになる守備方法だが、本当にみんな共通意識を持ってゾーン守備ができていたこの試合。今まで組織守備に難があった小見も多くの追い込みとインターセプトを決めていた。

加えて、相手のバックパスに対しては積極的に猪突猛進プレスでボールを奪いに行く俺たちの新潟。

これはプレスの基本動作となるが、相手が後ろ向きで蹴ることが予見できるという状況はボールが転がるルートを予見できているということでもある。そのボールに猪突猛進してボールに触ることができればゴール前でボールハントという素晴らしい結果を招くことができる。

安易なバックパスを虎視眈々と狙い続けることをサボってはいけない。ボールに触れなかったとしてもキーパーなどのレシーバーにプレッシャーを掛けてアバウトなボールを蹴らせることができる。前半14:30のシーンは最終ラインまで含めた全員が連動した素晴らしいプレイだった。

ボールの転がる先が明確なら走るべきコースも明確になる。どこに蹴られても出先を全員で潰す。

ちなみに、直後の前半15:00に同じことをマリノスにやられてあわや失点という場面が生まれたのは内緒だ。本当に攻守共に同じことをやっていた新潟とマリノス。違うのはゴール前のデザインだけだった。

ヤンの対人ハント

サイドに追い込むと狩られるということを相手に植え付けると、当然そういう状況にならないように事を運ぼうとするのがメタゲームだし、そこを狙うのもまたメタゲームである。

多くの場合にはロングボールを蹴飛ばしたり、サイドに蹴ると思わせて中央に通すとかになる。ボランチに鎮座する渡辺皓太のポジショニングが上手すぎて唸るしかない。

そんな状況を破壊するのがヤンの狂犬ハントとなる。

相手のボランチやトップ下がボールを持って前進しようとすればヤンが物凄い勢いで噛みついてボールをハントする。ヤンの位置でボールをハントできれば新潟式ビルドアップのスタートをショートカットできているも当然なので、ベクトルを一気に前に向けることができるようになる。

前半25:30、内側にボールを運ぶエウベルを完全に潰したヤンのタックルも素晴らしい。即座に出した縦パスを小見が収めきれていればゴール前で3対2という決定機を創出できていた。

何度でも見返したい涼太郎による同点ゴールのトリガーはこれ以上ないくらい高い位置でのヤン狂犬ハントである。

ゴール前密集ブロック

これは新潟の特徴と言っても良いと思うのだが、相手に押し込まれたらほぼ全員がペナルティエリア内に入って密集ブロックを形成する。ただ人を並べるだけではなく、4-4ブロックというグリッドを作る。ラインを一直線にきちんと並べてスペースを埋めるブロックを作る。

この試合ではそこまで極端な密集を作るシーンはそんなに多くなかったが、J2時代から割り切った時の新潟守備はオレンジの壁を作る。クロスなんて好きに上げさせとけくらいのレベルだったりする。J2時代に最小失点で優勝した結果にはこの割り切りも効いていたと思う。

新潟式穴熊でゴール期待値を絶対に上げさせないという強い気持ち。サイドは捨てがち。

加えて、カウンターを受けた時も全員が全力で走って戻って密集ブロック構築に尽力する新潟式穴熊。密集するオレンジや物凄いスピードで戻ってくるオレンジが頼もしい。

この守備は別に新潟独自のものではなくマリノスも同じようなことはやっているし単純にサッカーの基礎基本に忠実な守備、いわゆるビエルサラインの話でしかないのだが試合を通して維持するというのは出来そうでなかなか出来ないことでもある。集中!

ゴールの85%はこのエリアから生まれている。ウルグアイ代表の現監督マルセロ・ビエルサがデータに基づいて打ち立てた理論。

なお、密集ブロック作る前にカウンターで刺されることも多々あるんだが、ひとたび密集ブロックを作ってしまえば戦力差で殴られる空中戦以外ではゴールを破られることは殆どない。戦術大迫を抑え切った神戸戦は本当に素晴らしかった。史哉サイコー!

とはいえ、穴熊だとひたすらタコ殴りをガードし続けるだけで動けない玉が追い詰められるのは時間の問題じゃねぇか!クロス上げ放題じゃねぇか!みたいなところはあるのだが、クロス上げ放題は置いといて、自陣でボールを逃すバリエーションが豊富な新潟なのでマイボールにさえしてしまえば攻撃に転じることができる。前半28:50の小見超決定機となった涼太郎超絶パスに繋がったシーンは本当に美しい。

などと新潟式穴熊最強!みたいに思っていたらマリノスにペナルティエリア浅い位置から放り込まれまくって最後には失点したのだが、あれはもうしょうがない。マリノスもあれをストロングにしているところがある。

安易に蹴らないというのは今後更に洗練されて先鋭化していくと思うが、蹴る時は蹴るし蹴ることが最善の選択肢であれば蹴った方がいい。逃げの選択肢として安易に蹴る姿は見たくない。散り際も美しくあってほしい。

とにかくゴール前密集ブロックを形成するオレンジとカウンター受けそうな時に一気に戻ってくるオレンジの集団が本当に誇らしい俺たちの新潟。

リトリート・ブロック

この試合の75分以降で見せた素晴らしい守備。穴熊せずにペナルティエリア手前で超コンパクトな442ブロックを作ってボールが入る隙間を作らせない。

ペナルティエリア手前で超コンパクトなブロックを作ってボールが入る隙間を与えない。縦に差し込まれても即時潰すことができる。

後半91:50の秋山がインターセプトしたシーンなんかは外に追い込んでボールの導線を中央に誘って刈り取るという442守備のお手本みたいなプレイ。

加えて、試合最終盤の疲労マックスの状態において奪った直後にロンドでボールを動かして盤面をコントロールするというサッカーができるのは間違いなく新潟だけだろう。マリノスは困ったらアンデルソン・ロペスに蹴るというオプションがあるので基本は繋ぎだけど蹴る回数もそこそこあった。

そんな屈強な442リトリートブロック、新潟の場合は自陣に引いた状態、ペナルティエリア手前で行う形になっているが福岡や鹿島が新潟に対してやってきたのはこのリトリート・ブロックをフルコートでやるというものになる。いわゆるミドルブロックというやつ。

と言っても、この形がここまで嵌ったのはこの試合が初めてだったんじゃないだろうかと思うし、この結果に自信を持って以降の試合も守備強度マシマシになるであろう新潟が楽しみでしょうがない。

新潟と同じスタイルのマリノスだから自分たちが苦しめられた方法をぶつければ良いという考えはあったんじゃないかな?なんてことを考えてしまうけど、屈強なブロックを短期間で仕込むのは難易度が低いわけじゃないし、いわゆる意識高い系サッカーが崩壊するのはこういう基礎基本を疎かにする部分だったりする。本当に岩政監督の鹿島はわからん。結局のところ伝統のクラシカル442をやらせておけばメチャクチャ強いし、それにハマる選手を揃えているのが鹿島だろうにという感想しかない。

強度や練度はどうあれ、ずっと442守備でやってきた新潟だったからという要因なのか、442ブロックはサッカーの基本中の基本だからプロレベルで仕込めるのは当たり前の話だというだけなのかは正直わからない。

とりあえず、今後はこの442ブロックの強度をマシマシして欲しい。

途中から小見に変わって左サイドに入った高木も全体の一人として守備の役割をキッチリこなしてくれたしチームとして本当に良い状態で戦えた試合だった。

どんどん素晴らしくなっていく新潟のサッカーを楽しまずにはいられない。

試合雑感

現状のベストメンバーによるスタメン。孝司の偽9番とコミトコンビネーション爆発に期待するなというのは無理な話だ。大爆発させてもらおうか!

新潟の攻撃の仕組みは基本的に柏戦と同じだとは思うが、マリノスは攻守ともリーグトップレベルなのでどこまでやらせてもらえるかという不安は正直大きい。それでも柏戦のようなワクワクを期待するしかない俺たちの新潟。

シマブクにはリトル孝司と言わず孝司がベンチに下がったと思ったらもっと凄い偽9番が入ってきたというような活躍に期待するし、ダニーロのスペースメイキングな個人戦術も観てみたい。

孝司の偽9番、さすがにマリノスの守備にギャップが生まれるとは思えないが、孝司の落ちる動きで相手最終ラインやボランチのポジショニングを動かせるか、空いたスペースに飛び込めるかというのは今日の戦術的な見所にはなるだろうし、柏戦の質の高さからすれば期待するなという方が難しい。

とにかく質の高い試合に期待したい。

期待した前半、凌ぎきれずに失点してしまったが互角ではないだろうか。新潟のサッカーを研ぎ澄ませるとこうなるみたいなマリノス。大吟醸のマリノスと純米吟醸の新潟という感じだが俺は純米吟醸が大好きだ。

全体としてやっていることは新潟もマリノスも一緒で、リーグトップレベルのハイスペック人材で新潟のサッカーをやるとこうなりますというのがマリノス。キーパー以外はカタログスペック上で全部マリノスが上だろう。渡辺皓太が本当に凄い。ポジショニング王にでもなるんだろうか。譲瑠チマも若さ溢れる躍動感あるボランチ。タレント多すぎだろ。

新潟とマリノスで明確な違いがあるのはゴール前で、コンビネーションや守備外しやスルーパスでゴールを狙う新潟に対してマリノスは徹底してペナ外浅い位置からのクロス放り込みだし、そこからゴールが生まれた。地上戦 VS 空中戦。エアバトルにするとコーナーを取ることもできて攻撃継続というマリノスの狙いもあるのだろうか。

新潟は前半多くの決定機を作ったが決まらない。小見の超決定機は叫んでしまったが、なんで決めないの!

なんだが、涼太郎の同点弾が決まる直前の後半56:00のシーン、涼太郎のインサイド裏→表変換による楔打ち込み→島田ダイレクト落とし→三戸軸足後ろ側にボールを通してターン→ペナルティエリア内で最終ライン4人を置き去りにしたシーンは心拍100倍になった。

タッチが大きくなってしまったが、決まっていたら伊藤涼太郎だけじゃない新潟!みたいなお茶の間報道になっていたはず。この試合で三戸はキャノンシュートで十分お茶の間アピールできているんだけど。

密集攻略をエアバトルとか大外から守備を広げて深さを作ってアレコレではなく地上戦中央突破に拘るのはSNSで色々言われがちだけど、俺はこのスタイルを貫き通して欲しいし、このサッカーが世界で一番カッコいいサッカーだと認定している。

あとは守備。新潟もマリノスのゾーンプレスでサイドに追い込んで刈り取る方式なのだがマリノスは露骨にマイケル狙い。新潟サポにはお馴染みのやらかしマイケル(でも失点には繋がらない)にスカウティングでも入っているのだろうか。

後半逆転のチャンスは十分ある。ワクワクしたサッカーを観れてる。

で、歓喜の試合終了。三戸キャノンでお見事な勝利。観たいものが全部観れて大満足だし、今日この日のために勝てなかった日々があったような気がしている。スタイルを貫き通した上での勝利。控えめに言って完璧。逃げずに真っ向勝負での勝利。最高!

三戸キャノンは新潟サポなら誰もが「知ってた」と言うだろうが代表視察に来ていた森保監督もビックリ。ディス・イズ・ミトだし、ここからロケットに乗って飛んで行くことだろう。全新潟はオレンジ・ブルーの稲妻を目に焼き付けておかなくてはいけない。

そして何度も畳み掛けたアタッキングサードには痺れた。いくらなんでも中央に拘りすぎだろ!どんだけビエルサ理論を信じてるんだよ!と思っていたのだが涼太郎のゴールが決まった時には「決めるんかい!」と叫んだ。

そしてやはり新潟の特徴であるカウンターアタック。小見同様に孝司も決めきれなかったがスーパー擬似カウンターとでも言うのだろうか、相手陣内スカスカの状況で2対2というシュート練習みたいなシーンを意図的に作っている。なんかJリーグ公式がグティ涼太郎の動画作ってるし!

とにかく最高すぎますが千葉はどんなパフォーマンスを披露してくれるんだろうかと思ったら履いてますよ!

守備についても記録しておきた。プレスというかサイド追い込みは前半からやっていたのだが、DAZNで観てる限りではマリノスが自滅した部分も多かったような気がする。

マリノスが自滅するほどの追い込みをしていた新潟かもしれないし、結果的にマリノスはらしくないビルドアップミスを繰り返して三戸のゴールに繋がったりする。

この辺りは精神的というか流れという言葉で片付けてしまうし片付けることしかできないのだが、ネガティブな心理はプレーに影響してやがて流れに繋がる。

この流れを変える手段として交代がある訳なのだが最後まで流れを取り戻せなかったマリノス。水沼が大外待機で新潟の中央ブロックを緩めに来た時はヤベーなとか思いましたが最後まで流れを渡さなかった俺たちの新潟。

説明になってないが気持ちという要素は結構侮れないし、それがサッカーの面白さでもある。とはいえ、基本に忠実な守備を最初から最後まで集中してやり抜いた新潟が一番偉いのは間違いない。本当にこの日は守備が良くできていた。

譲瑠チマがコメントで新潟の後半守備について言及していたのだがイマイチピンと来ないというかピッチ上だとまた違った感じなんだろうな。

相手が後半、寄せ方を変えてきた中で相手のブロックを越えることができませんでした。それがうまくできれば、あのような失点にはならなかったと思います。FW2枚が寄せてもこないけど、前にはポジションは取っていました。パスの相手を探さずに、動かし続けて、マークのズレを作れれば良かったです。

https://www.jleague.jp/match/j1/2023/051404/live/#player

DAZN観てる分には後半は前半よりアグレッシブに前掛かりにプレスしていた新潟だし、その結果としてインターセプトやゴールなど多くの良い形に繋がった。言われてみれば「猪突猛進プレスではないけど前半より前に行っていた」みたいなところだろうか。絶妙な新潟の力加減だったんだろうな。

新潟にとっては良いサイクル、マリノスにとっては悪いサイクルが後半開始早々にできてしまい、マリノスはそのサイクルから抜け出すことが出来なかった、新潟が守備で主導権を渡さなかったという感想。見返してみれば後半50分以降はスコアは0-1なのに攻守とも圧倒的に新潟という内容だった。小見の守備は本当に良かったしボールを引っ掛ける回数も多かった。

新潟がリードしてからは無理せずブロックで様子見つつサイド追い込みを徹底している時間帯は試合巧者みたいな貫禄さえあった。

マリノスの後半75:00のCB同士のパスミスとかあり得ないし、そのくらい心理的な負担を守備で与えていたんじゃないだろうか。

とにかくいろんな意味で最高すぎる試合だった。泰基のセンターバック起用という記念日にもなった。このまま泰基がセンターバックに定着する未来があったりするんだろうか。

新潟のサッカー、本当に素晴らしくて楽しくて最高すぎる。

「これでわかった!サッカーのしくみ」をコンセプトにアルビレックス新潟の試合雑感を中心に書いています。