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ビエルサライン:2024 J1 第23節 FC東京×アルビレックス新潟

国立開催でド派手と洗練を見事に調和させた東京シティらしいキックオフ前の演出は本当に凄かった。レーザーと火薬どっちの演出なのか読めなかったのだが自分の直感を信じて設定したカメラがドンピシャでハマった。新潟のサッカーもドンピシャでハマってほしかったがそうは上手くいかなかった。なんでだよ!

この試合における新潟の出来事としては決定機ロスになるだろう。そんなのは選手もベンチもサポもみんなわかっている。わかっているのだが新潟が勝手に外しまくったわけではなくて外れる結果となるようにFC東京のゴール前守備も徹底されていたという事実もあったりする。

そのFC東京が何をやっていたかといえばゴールの決まる確率の低いスペースに人とボールを追い出す、いわゆる「ビエルサライン」の話になってくる。

逆の立場ならゴールを決めるためにはビエルサラインの内側に人とボールを置けば良いということになり、ビエルサライン付近の攻守のやり取りを意識しながらゴール前を観ると違った面白さが見えてきたりもする。ちなみに新潟でビエルサラインの外に追い出すプレイが一番上手いのは間違いなく稲村。オマエ本当に正式加入前の大学生なのか?

ビエルサライン、定義としては「ペナルティエリアの角からゴールエリアの角を結んだ線上のこのエリアで全体の85%のゴールは決まる」というものになる。アルゼンチン人で現ウルグアイ代表監督であるマルセロ・ビエルサ監督が膨大な試合データから導きだした数字である。ビエルサは論理的かつ情熱的であり、サッカーそのものを体現する名将なのである。エル・ロコ(変人)やらクレイジーやら色々言われるけどサッカーへの熱量は誰よりも大きい。

なんかビエルサ本人の話になってしまったがビエルサラインの話だ。図にするとこうである。近年はビエルサラインの内側を守備8人とか9人で埋めてしまえという近代的なバス停めなんかが流行っていたりする。勝てる時の新潟もバス停め方式を良くやっていたりする。

「このエリアで全体の85%のゴールは決まる」というビエルサライン

ということで、このビエルサラインを巡ってどのような攻守攻防があったのか確認してみよう。まずはプロットから。決まらない俺たちの新潟。

ビエルサゾーンから撃ちまくってるのに決まらない新潟。
少ないチャンスを確実に決めるFC東京。

まずは前半2分のFC東京。最終的にはビエルサゾーンから外れているが遠藤渓太のマイナスクロスをディエゴが納めることができていればビエルサゾーンど真ん中というプレーが飛び出る。俺の心臓も飛び出た。

前半5:20にはFC東京の遠藤渓太のゴールシーンが生まれる。ビエルサラインを説明するのに最適な素材のゴールである。ペナルティエリアの角から侵入してきて藤原とタイマン縦突破を匂わせてからのカットインワンステップでシュートコースの角度を確保してからの巻き気味に右足一閃。これはもうスーペルゴラッソ。こんなの目の前で見たくなかったけどこれは遠藤渓太がとにかく凄い。去年のディエゴといいなんでオマエラ俺たちのゴール裏目掛けて意味不明なゴラッソ決めてくれるんだ。俺たちの22番も頑張れよ。

ビエルサゾーンとしては結構難易度の高いシュートだが縦にボールを運んでいたら間違いなく藤原の守備により詰んでいらだろうしビエルサゾーンからも外れていたことだろう。藤原もそれを狙ってビエルサゾーンから追い出す守備を狙っていたんだと思う。実際に、前半13:00に似たようなシーンが生まれたのだが、藤原は見事にビエルサゾーンの外に追い出すことに成功している。

前半28:30のシーン。押し込んだ状態で秋山と堀米のパス交換している間に長倉と谷口が良いポジショニングをしてビエルサゾーンへの侵入チャンスを創出する。このシーン、DAZNで見ると別になんてことはないのだが現地ゴール裏で見ていた時には2秒後にゴールが突き刺さってるんじゃないかと思った。そのくらい期待値の高いワンプレイだったのだが白井が完璧なショルダー・トゥ・ショルダーのタックルで谷口をよろめかせて流れを切ることに成功する。谷口は谷口で前半34:20にペナルティエリア内でセカンドボールを拾うとターンしながらゴリゴリとビエルサゾーンへの侵入を試みたりする。

長倉と谷口のへのパスコース二択でビエルサゾーンを選択する秋山。蹴る場所を読み取れないキックモーションが素晴らしい。

後半49:00のシーンの谷口。遠藤渓太と同じコース取りから同じようなカットインで守備を外して同じような巻き気味のシュートをビエルサゾーンに切り込みながら撃つも枠を捉えることができない。この時、中央後ろに小見がめっちゃアピールしながらフリーで走り込んでいたのでそこに流せば間違いなくゲットゴールだったとは思うのだがそこは谷口のストライカー属性を讃えたい。

谷口のストライカーショットでも良いが小見に渡せばさらに確率を上げることができそう。長倉はキーパーが弾いたボールを押し込める位置にいる。

後半50:50のシーン。自陣からデンが縦パス一本でカウンターを当てて長倉が中央レーンゴール前まで運んで決定機かと思われたが徳元が後ろから追いついて素晴らしい守備を見せる。ビエルサゾーン手前からシュートモーションに入る長倉だが内側から体を寄せてシュートコースを塞ぎつつ外側へ押し出す。この押し出す動線がビエルサラインを意識したものになっているし、これ以上進んでも詰むだけだと判断してペナルティエリア中央でドリブルをキャンセルして中央の小見にパスを戻す。その戻し先の小見に対しても後ろから小泉慶が詰めてきて前を向かせず、マイクロバス停め方式のシュートブロックで難を逃れる。これはFC東京の素晴らしいカウンター封じだったし、あの形でカウンター被弾した時点でFC東京はアカンやつなのだがそれをカバーした徳元の個人守備戦術が輝いたワンプレーだった。

カウンターでビエルサゾーンど真ん中に突撃する長倉をビエルサライン外に追い出す徳元の素晴らしい守備。それでも後ろには小見が控えているというビエルサゾーンを巡る熱い攻防。

その後の後半57:00にもゴメスの鮮やかなアウトサイドキックからハセモがハイライン裏を駆け抜けてビエルサゾーンに突入して決定機を創出するが今度は岡がビエルサゾーンを埋める形で体を投げ出してコースを消してハセモに万全の体制を作らせない。この時も中央をフリーで長倉が走り込んでいたのでパスの選択肢があればビエルサゾーンど真ん中からのシュートが撃てたのかもしれないが、そうさせない岡の個人守備戦術である。本当に良く訓練されているFC東京の守備陣である。

後半72:10にはこの試合が国内ラストマッチとなる松木がビエルサ中央ゾーン内に入ってきてフリーでミドルを撃つ。かろうじてデンがゴール前で弾いたものの新潟が敷いているバス停めブロックは薄かった。勝てる時の新潟は戻りが速くて強固なバス停めを8人で作るのだが、こういった部分が勝ち点を取りきれない要因なのかもしれないのだが、シュートシーンの直前で藤原とのタイマンに勝ってビエルサゾーンまで運んで撃ち切ってしまう松木が凄い。プレミアかトルコかわかんないけど海外でも頑張れ。

勝てる時の新潟はバス停め守備の構築が素早い。松木のシーンでは壁が1枚しか形成できず。

後半75:30のシーン。ビルドアップからサイドチェンジして松田がボールを前に運ぶと後ろからハーフスペースを駆け上がってくるのは藤原。松田の横パスを受けてワンタッチで加速してビエルサ中央ゾーンに突入して最終ラインも全部振り切って勢いそのままにキーパーの至近距離で右足振り抜くも野澤大志ブランドンにセーブされてしまう。股下を狙ったキックだったんだろうか。これは素晴らしすぎる藤原ロールだったのだがゴールという結果には惜しくも結び付かず。この形は藤原の大きな特徴となっているのでこの先何度でも見たい。ゴールネットが揺れるシーンもたくさん見たい。

後半77:00のFC東京追加点のシーン。綺麗に横幅いっぱいを使われてダイアゴナルに走り込んでくる野澤零温に決められた失点も当然ではあるがビエルサゾーンど真ん中でシュート練習の状態となる。何も言うことはない。

後半80:30には小野の柔らかいクロスをビエルサゾーンど真ん中の長倉が頭で合わせるもバーの上。当然ではあるがクロスが決定機として効果的である理由はゴール正面のビエルサゾーンにボールを供給できるからである。ボールをビエルサゾーンに蹴り込みつつ同じゾーンに人がより多く配置されていればゴールの確率は上がることだろう。81:45には松田がビエルサゾーンに走り込む小野へ目掛けてグラウンダーのアーリークロスを蹴り込むがタイミングが合わない。84:50には高い位置でボールを引っ掛けてこれ以上ないくらいの状態でショートカウンターを発動させるもビエルサゾーンから蹴り込んだ松田のシュートはバーの上。ここでも岡が内側のコースを消しているところは見逃しちゃいけない。内側ファーに蹴っても岡の足に当たるしニアに蹴ってもキーパー正面というキーパーまで含めた個人守備戦術である。

その後も試合終盤でビエルサゾーンからシュートを撃つ新潟だがゴールネットを揺らす雰囲気はなかなか出ない。

ビエルサゾーンからシュートを撃つことは非常に重要だし、ビエルサゾーンの外から撃っても入らないというのもまた重要なことである。

それにしてもここまでシュートが決まらない新潟なのだが、今に始まったことではないが改善ポイントであることは間違いないし、そんなことは選手もベンチもクラブもみんなわかっていることである。

長倉やハセモのポテンシャルはこんなもんじゃないだろうし、谷口と小見は2桁得点獲れるだろうし、秋山ミドルはこれからバンバン決まるだろうしという未来があるので補強補強とか安易に言わずに現有戦力のポテンシャルを引き出し切る新潟であってほしい。

松田はとにかく決めろ!

試合雑感

国立開催、FC東京の方が派手な戦力なのだが空気を読まずに勝ち点3を持ち帰りたい。

クラモフ東京の前回対戦は屈強な442守備にやられたという感じだったので遠藤のタスクは量も質も求められることになるだろう。遠藤はこの試合のスタメンに選ばれたということに自信を持ってプレイしてほしい。

とりあえずの確認ポイントとしてはFC東京が433プレスでくるという前提ならば新潟は秋山と島田が代わる代わる落ちてボールを捌くことになるのだろうが、どうしても遠藤が気になってしまう。遠藤はプレッシャーが無ければ捌けるのだが強度を高めてプレスされた際に慌てず対応して、前に来るなら後ろ、後ろで構えるなら偽9番、偽9番に食い付けば裏ポンという新潟の基本をひたすらに落ち着いて対応してほしい。遠藤に限らず全員がではあるのだが。復帰の長倉はパフォーマンスどんなだろうか。

一方のFC東京の攻撃はサイド中心になるとは思うのだが中央高い位置に鎮座するであろう仲川がめんどくさそう。スプリントの速いトップ下なのでカウンター要員なんだろうか。そういえば前回対戦時はそんなシーンだったな。そして楽しみなヤン。

ド派手なキックオフ前の花火と爆発の演出が本当にはじめてスタジアムに来る人には最高のエンターテイメントだったと思う。新潟もキックオフ前からアイシテルニイガタの大合唱でほんとうに凄い熱量だった。行って良かった国立競技場。

試合はFC東京の(俺の予想が外れた)442を基本としたブロックに対して、中央を通そうとすると後ろから突撃されて潰されてしまう、ということを見越して両サイドを目一杯広げて新潟ロブを混ぜつつワイドに攻めるというものなのだが、その新潟ロブをFC東京は露骨に狙ってくる。鳥栖にド派手にやられた新潟ロブハントを非常にスマートにやっているのがFC東京である鳥栖は本当にいろいろムチャクチャすぎた。それでもブロックを横に揺さぶって大外にボールを置いてしまう俺たちの新潟が誇らしい。

28分頃だっただろうか、押し込んで大外と思わせてからのポケット谷口に縦パスを差し込んだシーンには痺れた。試合開始早々に大外から失点したというのもあるのだろうが、大外を狙われてると全員で共有してこのプレイが出たと思われるので素晴らしいことである。結局最後までゴール決まんなかったけど。

FC東京も基本は大外を目一杯広げてサイドで爆走なのだがビルドアップ時の仲川がとにかくめんどくさい。偽10番とでも言えばよいのだろうか、トップ下の位置から嫌らしく縦横に動いてボールを引き出してくれる。仲川に守備が付いていくと真ん中にスペースが空いてしまうので本当に厄介。仲川は守備でも442からのひとりプレス要員として振る舞ったりとFC東京は完全に仲川中心のチームではないだろうか。

前半はポコっと失点してしまったがそれ以外は問題ないしカウンターにもキッチリ全員が戻れているしデンの足下が芸術的すぎて痺れる。先制されていることを全く感じさせない俺たちの新潟なので後半何か起こせるとは思う。試合前から最高の雰囲気だったので結末も最高のものであってほしい。

などと願ったのだが、最終的には数えきれないくらいのチャンスをひとつも決められなかった新潟と数少ないチャンスをキッチリ決め切るFC東京という試合になってしまった。攻守のやりとりは前半と一緒で違いは決定機の質だけ。マジでそれだけ。高木と松田の言い争いとか見ていてヒヤヒヤした。

新潟サポの視点では熱量がみるみる下がった試合となってしまったがJリーグとしては夏の三連休の国立開催で57,000人の観客とFC東京の勝利で最近続けていたSNSプロモーションなんかが大きく実った試合だったのではないないだろうか。ここで新潟がスタイルを見せつけてサッカーかくあるべしみたいな未来もあったはずなんだが。

新潟の決定機ロスは本当によろしくないのだが、新潟がダメだっただけではなくFC東京も新潟に決められないようなゴール前守備をしていたりする。いわゆるビエルサラインの話になるのだが新潟が中央からシュートを撃てている場面もあったのでFC東京の守備も完璧というわけじゃなかった。新潟の決定機ロスが招いた敗戦と言って良い。ビエルサはコパ開催期間中にピッチ内外でいろいろ戦っているわけだがサッカーファンとしては本当に熱くなることを言ってくれる。サッカーはこうあってほしい。ウルグアイ×ブラジルの準々決勝はキックオフ前から熱量メーター振り切れてた。

話が逸れた。

何も良いところがなかったかのような新潟だがポジティブ要素としては藤原ロールが試合をこなすごとに完成度が高まっていてアオアシ的にはコンプリートしているということだろう。ただただ凄い。そして国立に集まった10,000人以上の新潟サポーターはーイングのタイミングが良く訓練されていた。ちょっとでもFC東京のバックパスに対してプレッシャー掛けられただろうか。

新潟的にはションボリな試合だったがJリーグ的には大成功というのがこの試合になるだろう。ここからサッカーやJリーグにハマる人たち、この日は知ることのなかった新潟のヤバさ凄さ強さカッコ良さを近い将来知ることになるだろう。松木にとってもFC東京サポにとっても素晴らしい旅立ちとなった。

試合終了後の選手挨拶は拍手半分ブーイング半分くらいだっただろうか。自分自身はブーイングの意味はちょっと理解できなかったが、何が足りていなかったのかなんて選手やベンチが一番良くわかっていることだろう。

試合開始前のボルテージ、本当に凄かったんだけどな。

「これでわかった!サッカーのしくみ」をコンセプトにアルビレックス新潟の試合雑感を中心に書いています。