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史上最強の特別指定(稲村隼翔2024):2024 J1 第21節 北海道コンサドーレ札幌×アルビレックス新潟

稲村が凄いとかそういう次元じゃないレベルなので書かざるを得ない。特別指定で正式入団は2025シーズンからなのにあと4分出場するとA契約締結となってしまうのだが入団前にA契約締結するという事例は過去にどこかのクラブであったのだろうか。俺たちは伝説のプロローグを見ているのかもしれない。大学の試合と並行してJ1の試合もこなすとか色々理解できないことをサラッとやってしまう稲村が本当に凄い。東洋大学様、本当にありがとうございます。

そんな稲村、この試合では交代を絡めた左サイドバックにも入って全編通して高いパフォーマンスを見せてくれた。今後もこのパフォーマンスが毎回続くとは限らないが、このパフォーマンスが永遠に続くんじゃないかとさえ思ってしまう。そのくらいスペシャルなフットボーラーが東洋大学アルビレックス新潟の稲村隼翔である。

稲村のスタイルとしては左利きのセンターバックで182cmという恵まれた体格を持っている。フィジカルバトルをこなしつつ、味方ボール保持時に斜め後方でボールの逃し先になったり落ちてくるアタッカーに縦パスを通したりなどの新潟式ビルドアップを理解していてインストール済みなので違和感のないポジションニングができる。加えて左足から繰り出される抜群のロングフィードという武器を持っている。東京出身のFC東京U-15深川から前橋育英を経て東洋大学に入り4クラブが競合した中で新潟を選んでくれた現在大学4年生の特別指定選手が稲村なのである。スカウトは良くやった。新潟の厳しい台所事情を救う形でトップチームの試合に出場し、ここまで非常に高いパフォーマンスを発揮している稲村隼翔である。

それではプロットを確認していこう。

ボールタッチ

センターバックとしての稲村とサイドバックとしての稲村が混在しているので独特なボールタッチになっている。

スタートは左のセンターバックで後半途中から左サイドバックとなったので独特なプロットになっている。センターバック時にはビルドアップの起点やボールの逃し先として機能し、サイドバック時にはボールの逃し先という役割に加えてアタッキングサードにおける攻撃の圧力を下げさせない役割を担う。

守備タスクも攻撃タスクも両方を高いクオリティで行えるのが稲村の凄さだと発見できた試合でもあった。

パス

阿部やデンや秋山とのパス交換が基本となるが攻撃的な縦パスやロングフィード、サイドチェンジに大きな特徴が出ている稲村のパス。

稲村のパスの特徴はなんといっても左足から繰り出される長距離パスになるだろう。この試合では前線とのタイミングが合わずにミスキックとなる場面が多かったが、この先タイミングが合うようになった時のことを想像するとワクワクが止まらない。新潟式偽9番の効果に超バフを掛けてもらえることが確約している。

前半2:40のシーンでは稲村の特徴のひとつであるロングフィードにチャレンジする姿が早速確認できた。この場面では奥村に合わず札幌GK菅野のところにボールが転がって行ってしまったが、稲村の左足から繰り出される低くて速いフィードは新潟のキーパーやセンターバックの必須要件となっているキックと同じ質のものとなる。藤田なんかが凄く上手いし、マイケル千葉デンらも当たり前のように蹴るキックだが、稲村のキックはさらに低くて速いという特徴がある。低くて速ければ守備が反応してから走っても間に合わないのでアタッカーとのコンビネーションが成立すれば一発でゴール前まで運んで決定機を作れるパスなのである。

前半5:35のシーンではセンターサークル内で島田からボールを預かると落ちた位置から中央目掛けて一気に抜け出す小見に合わせる縦パス一閃を供給する。小見もボールをうまくコントロールしてゴール前まで運び決定機を創出する。稲村のパス能力の高さが良く表現されたナイスプレイだった。35:35には自陣ゴール前中央でボールを持つと素早く左足を振り抜いてレーザービームのような30mパスを奥村が綺麗にレシーブするが、たまたま奥村が中継しただけで実際には走り抜けている小見へのパスだったように思う。

前半41:00には稲村の代名詞となるであろう左足での大きなサイドチェンジが虹を描いた。自陣ゴール前から右サイドを走り抜けようとする松田目掛けてダイナミックなサイドチェンジを行っており、松田がレシーブできなかったがタッチラインの内側だったし松田がちゃんと準備していれば普通にビタトラップできたようなボールである。直後の41:50にも松田目掛けたサイドチェンジが飛ぶがレシーブしきれない松田。前半終了直前には裏抜けする谷口に合わせて狙いを定めたロングフィードを蹴ったりしている。このダイナミックなサイドチェンジは毎回飛び出す稲村のスーパープレイになっているので、今日はいつ飛び出るかな?などとワクワクしながら待つこともできる。

後半87:50には自陣最奥にいる自分へ向かって転がってくるボールをダイレクトで蹴り込んで相手陣内ペナルティエリア前までピンポイントのフィードを通し、その先にウィンガー谷口が走り込んでいるというスーパーダイナミックなプレイを見せてくれた。その後は特に何も起きなかったのだが谷口の選択肢次第では追加点というシーンだった。

こういった素晴らしい稲村の縦パスはこれから先にたくさん見れることだろう。

デュエル&エアバトル

デュエルやエアバトルは基本的に負けない。LOSE表示も実際には結果としてはイーブンである。ストライカーとのタイマン勝負におけるパフォーマンスは圧巻。

稲村は対人守備で負けることはほとんどない。勝てないにしても明らかに負けるというシーンはほとんど見かけない。対人守備能力の高さも稲村の特徴のひとつとなる。

前半3:00のシーンでは札幌が後方から高く蹴り上げたボールに対してセンターサークル後方で場所取り合戦で張り合う稲村の姿が。エアバトルとしてはボールに触れることができなかったが強すぎる体幹で相手を身動き取れなくする光景は圧巻。前半20:05にもエアバトル時のポジショニング合戦で体を押し付けるが相手が耐えきれずに稲村はファウルを取られてしまう。これからプロになってフィジカルトレーニングに励んで鋼の肉体を手に入れてほしい。前半23:05のシーンでは最終ラインから出足速くセンターサークル内にいる札幌の大森にクリーンなタックルをかましてボールを奪うことに成功する。

前半7:50のシーンでは札幌が蹴り出したボールをセンターサークル付近で競り合うことなく勝つという完璧なポジショニングを見せてくれた。18:10にもやはり完璧なポジショニングで競り合うことなくボールを弾き返すし、26:10には札幌のクリアボールを完全に読み切ってハーフウェイラインを超えたあたりでインターセプトして新潟のターンを手繰り寄せる。27:25のシーンではセンターサークル付近で完勝と呼ぶにふさわしいエアバトルを披露する。跳躍する姿が凄く絵になる。

稲村の守備の特徴としては遠藤と同じくちょっと低い位置でボールを受けようとするフォワードに対してガツン!と当たりにいくスタイルである。このスタイルは若さゆえなんだろうか。この当たり方だとターンでかわされたりブロックでキープされたりしてはいけないのだが、稲村はそのようなことになる場面がほとんどない印象がある。前半43:15には武蔵への鋭いライナークロスを一足速い出足でクリアする。苦笑いの表情をカメラに抜かれる武蔵。

そして特筆すべき後半55:40のシーン。前節激闘の広島戦でも見せたゴール前におけるストライカーとの決定機タイマン勝負。広島せんは大橋が相手だったが今回の札幌戦はの相手は武蔵となる。カウンターからの決定機で守備が薄くタイマンで対応するしかない状況、稲村は内側から外側にプレスを掛けることでストライカーを外に追い出すことを最優先とし、ストライカーをゴールライン近くまで移動させてから最終的にアタックしてコースを消す。コースも完全に消す訳ではなくニアポストにポジショニングしているキーパーへのコースは空けつつマイナスクロスを蹴っても引っ掛かるという絶妙の位置で対応する。これら一連の動作を瞬時に判断して間違いのない選択をして行動しているのだが、これは本当に凄いことである。このプレイは毎回見たいと思いつつも、このような状況にならないことが一番大事なことでもある。それにしても稲村の対人守備が本当に凄い。広島戦では一連のプレーの後にガッツポーズしていたので本人もイメージ通りにできているプレイなのだろう。派手さは無いが後半78:00のクロス対応も完璧なブロックという結果を見せてくれた。これはファンダイクになってしまうのかもしれない。

左サイドバックとしての稲村

後半65分の3人同時交代の中でゴメスが下がりデンが入ると稲村はゴメスのいた左サイドバックにポジションを移す。今までは全てセンターバックとしての出場だったので左サイドバックとしての稲村がどのようなパフォーマンスを出すのか全新潟が注目したことだろう。基本的な役割は対人守備でアタッカーを止める役割だったように思うが攻撃タスクではゴメスと同じく大外から組み立てる役割をこなすことができていた。

後半66:10のシーン。相手陣内でスローインをゲットした新潟は左サイドバックとして攻撃参加している稲村へボールを投げる。大外でボールを受け取ってどうするのかな?と眺めていたら元気いっぱいに縦突破ドリブルにチャレンジする稲村。しかも2人を鮮やかなステップでかわしてるし3人目に引っ掛かったけど無理矢理ボール奪い返そうとしてるし。稲村は押し込んだ状態におけるセカンドボール回収要因としての機能も果たすようで、ハセモがゴール前を掻き回して溢れたボールを大外で稲村が拾ったり稲村に逃したりというシーンがいくつかあった。試合終盤のオープンな展開でアタッカーとしても機能しそうな稲村が凄い。

後半68:45のシーンではハセモが中継ポイントとなって右サイドから左サイドへ大きく展開することに成功するが、その展開先として稲村が左ハーフスペースを後ろから爆走しているというのは面白かった。左サイドに空いた広大なスペースを走る182cmの漢が爆走する光景は迫力満点である。そのまま前線の小見にボールを預けて決定機のトリガーとなる稲村が凄い。その後も流れの中で相手陣内におけるボールの戻し先や逃し先として機能する大外の稲村。後半70:30に藤原の横パスを受け取るために上がってくる稲村の頼もしさよ。攻撃の圧力を下げないための行動が取れる左サイドバックとしての稲村がとにかく凄い。

後半72:40には自陣大外でボールを受けると自分でボールを持ち上がる稲村。たまらず守備が喰いついてくればハセモや谷口を絡めたザ・三人目の動きで守備を外してボールを前進させる。後半アディショナルタイム91:30には自陣大外深い位置でタイマンに勝利してボールを奪うと力強くドリブルで持ち上がる稲村。札幌はイエロー覚悟のファウルで止めるしかないみたいな状況を一人で作り上げてしまう。守備タスクから攻撃タスクに試合のなかで切り替えができる稲村の頭の中は一体どうなっているんだろうか。この能力が稲村の本当の凄さなんじゃないかとさえ思えてきた。

稲村隼翔という最強の特別指定選手、これは新潟サポーターの心を掴みまくっていることだろう。頼むぜ!

試合雑感

ゴメスというキーワードしか出てこないスタメン。前節から中3日なのにあんまりいじっていないので疲労の心配があるもののやるべきことをやってキッチリ勝ち点3ゲットと6月無敗の結果がほしい。広島戦に続き良い試合に期待する。

始まってみれば小見が左で谷口は真ん中です。結構機能していた小見真ん中スタートは奇襲だったんだろうか。内容としては札幌の得点数がリーグワーストという事実を実感するのに十分すぎるものだった。クロスを入れてもボックスの中に誰もいないとかゴール前の火力が無さすぎて非常に辛そうな札幌なのだが家泉のワンチャンなどもあったので油断できない。札幌は守備でもセカンドボールを拾えないのでここまでの結果はそういうことかという納得感がある。

新潟はブロック守備がキチンとできていて札幌のミス待ちを徹底している感じ。札幌に蹴らせたら俺たちの勝ちということなのだろう。札幌側の守備の特徴としては、落ちて受けようとする奥村をピンポイントで狩りにきているので奥村は十分に注意してほしいのだがピッチもベンチもそんなことは全部わかっているだろうからハーフタイムで何か修正が入るのだろう。

そして稲村。安定しすぎてどうかしている。守備は当然としてグラウンダーのパスもロングフィードも鋭く正確で藤田のデビュー戦を思い出した。来シーズン新潟で1年過ごしてあっという間に海外行ってしまうかもしれない。稲村にはレーザービームの異名を持たせたい。

などと落ち着いて見ていられた前半、この流れのままキッチリとクロージングしてほしい。ノーモア川崎。

普通にやれば勝てる試合なのだが後半しっかり集中してまずは先制点を奪いたい。スコアレスで終盤まで行ってしまうと何が起きるかわからない。

そして無事に試合が終了してノーモア川崎達成となった。札幌は順位も内容もなかなか辛そうな状況なのだが、この試合ではノーチャンスという訳ではなかったのでなおさら悔しいことだろう。

後半は小見と谷口がポジションチェンジして小見がワントップの谷口左という布陣になったのだが、意図したとおりの海キャノンが炸裂した。ゴメスのボール奪取からの左アウトサイドパスからのカウンター海キャノン炸裂である。ゴメスが守備を惑わせたいのか自分が決めたいのか真実はゴメス本人の中にしかないハーフスペース全力疾走も良い。最高!

後半に変わった部分として、奥村潰し対策なのかどうかは良くわからないが松田へのサイドチェンジ頻度が増えていただろうか。後半からサイドチェンジを増やすという戦術変更が使えるのも新潟ならではだと思うしキーマンとなるのは間違いなく稲村だろう。今日はサイドバックでのプレイも難なくこなしていたのだが、このまま冨安になってしまうのかもしれない。

稲村は今日もカウンター時のコースの切り方が完璧だった。武蔵をあの場所に追い込みさえすればシュートを撃ってもキーパー正面にしかならない。唯一のコースとしてキーパーが反応できないほど強烈なニア上に蹴り込むというものになるのだが、それが決まるのはストライカーのほうが凄すぎたと認めるしかない時だけである。

交代カードを切ったあとの新潟はポジションチェンジで躍動感を失わずに継続して攻撃し続ける。小見のフリーロールがシーズン序盤とは違う形で効果を出しているのが面白い。小見のフリーロールはチームのストロングになるのは間違いないので色々と試行錯誤した結果として今の形に辿り着いたということだろうか。だからこそ小見は決定機をきちんと決めなくてはいけなかった。三戸ちゃんと一緒にオリンピックに出れないじゃないか。

試合終盤には高木の復帰や小野のクロージングという場面もあったが、怪我人が接触に絡むものではなくハムストリングなどの筋肉系であることに不安があったりする。これから夏が始まるのでコンディション調整をしっかりした上で乗り気ってもらいたいです。

「これでわかった!サッカーのしくみ」をコンセプトにアルビレックス新潟の試合雑感を中心に書いています。