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ファツィオリの話(2009年12月ブログ記事より)

2009年12月14日からのブログ連投記事(2020年10月加筆修正済み)


私とファツィオリとのご縁ですが、最初はエンリコ・ピエラヌンツィを聴いていたから馴染みがあったという、それだけでした。

というのは、エンリコはEGEAというイタリアのレーベルで沢山録音しているのですが、EGEAの作品はほとんどファツィオリを使用しています。
それを意識するようになったのは「Canto nascosto」という作品で、このアルバムはソロですがSteinway、Kawai、Borgato、Fazioliというピアノ・メーカーの弾き比べをしています。同じ曲を違うピアノで録音してくれたりしているので、ピアノファンには嬉しい内容。曲もとても良いです。
このアルバムでファツィオリって良い音がするなと思ったら、他のEGEAのアルバムもファツィオリだったわけです。EGEAはファツィオリを聴いてほしくて、こういう企画をしたのだと思います。



それからファツィオリが気になっていたのですが、関西でライブ企画もされてたある強力なピアノファンの方がいらっしゃいまして、その方がある時「栗東のさきらホールにファツィオリがあるそうだから、聴きに行って来る」とおっしゃって、関西にファツィオリがあるんだと初めて認識しました。

そうこうしているうちに、滋賀のファンの方が滋賀でコンサートを企画して下さって、05年に滋賀のスティマーザールというホールでベーゼンドルファーのインペリアルを使って演奏する機会がありました。その時「エンリコが使ってるピアノが滋賀にあって、珍しいピアノなんですよ」とか話をしていたんですけど、お友達のクラシック・ギタリスト田中靖二さんのお取り計らいで、翌年さきらホールでファツィオリを押さえてもらって、コンサートをすることができました。

実は事前に、ピアニストや調律師さんや一般的な評判から、ファツィオリは扱い難く難しい楽器だと、散々聞かされていました。私自身も弾いたことないし想像つかないから、ちょっと不安もあったのですが、当日現場に入って弾いてみたら驚くほどスムースで、難しいとか何とか言う前に、とても心地良くフィットする感覚があり、その時の新鮮な驚きは忘れられません。
後になぜ私がそういう感覚を得たのかと考えてみると、おそらくエンリコの音をファツィオリの音で散々聴いていたからだと、それしか思い当たりません。大抵の録音物はスタインウェイが多いですが、私の20代前半は他の方と比較してファツィオリを聴いている時間がかなり長かったと思います。技術云々の話ではない部分で、自分のイメージする音=憧れの音=エンリコの音=ファツィオリの音と、リンクしてたんでしょうね。

そんなこんなで、08年のレコーディングでは再びさきらホールでファツィオリを使用したのですが、正直なところこの時はバンドのレコーディングですから、ファツィオリのサウンドを聴くとかそういう問題じゃない曲も多かったので、一曲ちゃんとファツィオリが聞こえるように、ソロ曲を入れたりもしました。
この時、さきらのファツィオリの技術さんが、06年のコンサートの時から人が変わったので、2年前とはまた全然違う音になっていて驚いたのを覚えています。調律師さんでここまで音が変わるんだなあと、とても強く実感しました。

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(08年栗東さきらホールでのレコーディング)



08年にファツィオリを使用して録音したCDが出た関係で、雑誌ジャズライフ08年12月号のピアノ特集で、私がファツィオリのレポートを担当することになり、初めてファツィオリのショールームへお邪魔しました。

実は、08年レコーディングの時は神戸のペルレという会社が担当されてたのですが、この年の8月に総代理店が株式会社ピアノフォルティに代わり、お披露目レセプションにもご招待頂いてたのですが、レコ発ツアーと重なって行くことができませんでした。ブーニンさんや中村紘子さんの演奏もあったそうで、せっかくご招待頂いたのに本当に残念でした。そういう経緯もあったので、ジャズライフの取材でショールームにお邪魔し、社長さんとお話しする機会も持てるということで、本当に楽しみにしていました。

ショールームは、遠い憧れだった楽器が一堂に会していて、壮観でした。

社長さんにご挨拶して取材を始めるにあたり、「とりあえず小さいサイズのものから順番に弾いてください」とのこと。
最初の楽器はF156、F183(数字が長さcm)、それぞれC1、C2とほぼ同じサイズの楽器ですが、普段一番よく弾くサイズの楽器なのに、紛れもなくファツィオリの音でとても美しくよく鳴ります。このサイズでの可能性に驚きました。
この楽器群を全部弾いてやっと本丸、今回の取材のメインの楽器F308にたどり着いた時に、それまでに感じたことが確信になりました。
というのは、「これ、楽器も素晴らしいけど、技術さんが無茶苦茶凄いんじゃないの」という感覚が、小さいサイズから順番に弾いている時からひしひしと実感して、それが今まで全く感じたことがなかった感覚で、相当に素晴らしい調律師さんじゃないのかなと感じてたんです。

上手く説明できるかわかりませんが、良い調律師さんというのは沢山いらっしゃいますが、ピアノを弾いた時に、確かに調整はバッチリなんですけど「これ、このピアノの音じゃなくて、調律師さんの出したい音じゃないかしら?」と思うことが、よくあるんですよ。ピアノがガッチリ型にはめられた優秀さになっているというか、ピアノが統制されている感じですね。
確かに、パリっと整ってはいるんですけど、何となく調律師さんの価値観がピアノに反映されすぎているような気がすることが、結構あります。

それが、このファツィオリで全部の楽器を弾いてたら、調律師さんの意思が物凄く控えめだけど楽器の意思をうまくサポートしながら共存していて、この調律師さんの仕事のおかげで楽器が羽ばたいて自由に歌っていることがよくわかって、何て素晴らしいんだろうと思ったんですよ。
なので、F308を弾いてすぐ、楽器の感想を聞かれたのに「調律師さんにお会いすることはできますか?」と言ってしまいました。どんな方が調律されているのか、ぜひお会いしたいと思ったのです。そんな風に思ったのは初めてでした。

その後、取材に同席して頂いて、専門的なお話しなどはサポートして頂きながら、取材を終えました。

そして、その技術者さんに「他の楽器を扱う時と、どういうところが違うんですか?」と伺ったら、「技術者の意志の入り込む余地のないほど素晴らしい楽器だから、楽器に任せてやる」とおっしゃっていたのがとても印象に残りました。
そうなんです、調律師さんの意思は、「楽器が歌いやすいようにコンディションを整えてあげる」、それをとても実感しました。

今度のソロコンサートにご来場頂く方は、終演後にでも、308の中を見てみてください。(※2009年当時の記事です)
確か取材の記事には載りませんでしたが、308を弾いて、というか見てまず驚いたのが、実は鉄骨フレームが湾曲しているのです。他のメーカーの楽器で、こんなの見たことありません。鉄の板もこれだけ大きなものになると、冷える時に勝手に曲がってしまいます。その曲がった鉄骨フレームに合わせ、外側の木のフレームも作っているそうです。
これは極端な話ですが、このように楽器には個体差があるので、そこを技術者が技術者の理想を上からはめ込んでいくのではなく、楽器の個性をどのように活かしサポートするか、ということだと思います。

日本で多く出回っているグランドピアノは、工場で大量生産されたものなので、そういう国内製品メインに触れてきた方と、ヨーロッパのハンドメイドの楽器に多く触れてきた方と、ちょっと視点が違うのかもしれません。
このファツィオリの技術部長 越智晃さんとの出会いは、私にとって大変大きな出来事でした。

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(09年ショールームでのコンサート)


●西山瞳のファツィオリ使用録音作品

2008年「Parallax」(栗東市さきらホールにて録音、F278)
2012年「Astrolabe」(ファツィオリショールームにて録音、F308)
2013年「Sympathy」(烏龍舎にて録音、F228 silver)
2013年「Crossing」(仙川アヴェニューホールにて録音、F228 silver)
2014年「Shift」(高崎市 TAGO STUDIO TAKASAKIにて録音、F278)
2018年「New Heritage Of Real Heavy Metal 3」(高崎市 TAGO STUDIO TAKASAKIにて録音、F278)
2020年「Vibrant」(渋谷ホールにて録音、F212)


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(13年 創立5周年パーティの時の写真)

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(2013年、創業者パオロ・ファツィオリ氏と雑誌「ジャズライフ」内の記事で対談時、記念撮影)


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