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アトロク〈ピアノ特集〉聴くべし!

先ほどまで聞いていた、TBSラジオ「アフター6ジャンクション」の音楽ライター・小室敬幸さんによるピアノ特集、ぜひ皆さんにシェアしたく、紹介いたします。


私は音大に行って、一番〈音大に行って良かった!〉という実感があった授業は「ピアノ構造論」でした。
先生は青山一郎先生、1クラス50人ぐらいの講義でしたが、ピアノの歴史や構造を学ぶ授業で、先生の話も面白くて、とっても好きな授業でした。テキストも大事にとってあります。


私は元々クラシックを学んでいて、18歳でジャズピアノをはじめましたが、17歳まではクラシックピアノで音大を受験するつもりでした。

小学校の頃からピアノを弾くことが好きで一生懸命やっていたので、その時のピアノの先生に「あなたは早めにソルフェージュをやっておいた方がいい」と強く言われて、ピアノに加え、ソルフェージュを先生に教わるようになりました。たまたま勘も良かったようで、結構複雑な聴音もしていましたね。

中学に入ってもピアノを弾く情熱は持ち続けたままでしたから、やはりその先生の勧めで、先生のレッスンと並行して中学の後半から京都芸術大学の教授のところに月1回レッスンに通っていました。
ハノンだけで終わる日もあったし、バッハの平均律とハイドンとベートーベン、ショパンのエチュードまで、音大に入るのに必要なことをやっていました。たまたま、中学校の吹奏楽部でも先輩の姉弟子がいて、その人がなんでもできちゃうので、その先輩みたくなりたい!という気持ちもあって、頑張っていました。(その先輩は後に、この京都系の先生の弟子筋ではご法度の京都以外の大学を受験したいということで、関西じゅうの音楽学部で受験できるところを片っ端から受験して、全部受かって、その中から本当に志望していた神戸大学の音楽系の学部に入られました。それもすごかった。)


コールユーブンゲンを何周もして、高校1年生の時には大阪音大の入試適正テスト(楽典、ソルフェージュの入試をパスする実力テスト)で、もう学部入学の試験はクリアしてたんですよ。
でも、ピアノは好きだったんですけど、先生から言われるハイドンとかシューベルトが本当に大っ嫌いで、ドビュッシーとかラヴェルが好きなのにシューベルトはかなりキツくて、結局コンクールでシューベルトを弾いて無理ー!って思って心が切れてピアノやめてしまったんですけど、あれで一度やめないと今の人生はなかったので、それはそれで良かったのだと思っています。

そうやって、音大をクラシックで受験するための一通りをガッツリやっていた後で、メタルを経由してジャズが好きになり、「ジャズ科」と呼ばれる音楽大学で一番ヒエラルキーが下のコースに入りましたから、音大に入って心底良かったなあと思ったのは、共通科目のクラシックの授業だったりします。

「合唱」のクラスは、90人のクラスなのですが、先生が「シャボン玉の中に入っているように〜!」とか、「雨の日だと思って〜!」とか、本当に訳のわからない抽象的な指示で指揮をしていると、90人がほんの少しずつ意識を変えたらめっちゃ音が変わることを体感できました。先生の指示は考えれば考えるほどわからない文言ばかりでした。

「和声法」の授業は、2年生の時はなんと川島素晴先生で(現代音楽の作曲家)、大阪音大で勤務する1年目だったので、多分一番貧乏くじのジャズ科・ポピュラー科の担当になったんでしょうね(笑)。だって、ジャズドラム専攻も、ポピュラーヴォーカル専攻も、まともに音符書ける人の方が少なかったですよ。あんなクラスに講師で入ったら、大変だったと思います。
私は普通に音大に入る程度の勉強をしていましたから、そのクラスでの課題は簡単すぎたしもっと面白いことをやりたかったから、毎回別で追加で課題を下さったりしていました。バス課題とかでも「攻めた方がいい」的なことを時々おっしゃっていたのが印象に残っています。


長くなりましたが、そして「ピアノ構造論」ですよ。
必修ではなかったと思いますが、私は興味があったのでその授業を取りました。結果、一番面白い授業だったと記憶しています。音大に来た価値があったなあと、心から思う授業でした。

先生の小話も面白くて、ダンパー・ペダルの時には「上手なピアニストだったら20段階ぐらいは踏み分けることができる」とか、「グランドピアノの打鍵の跳ね返りの回数が標準14回/1秒(アップライトは8回/1秒)だけど、中村紘子は20回いける」とか、ホンマか嘘かわからないような話も多くて、結構そういうことが頭に残っており、1821年エラールがダブルエスケープメントを、とか、なんか特に頑張って勉強したわけでもないのに、数字から何から、めっちゃ授業の細部を覚えています。覚えようとしてなかったのに、先生のおかげでスルスル頭に入ってきてたんですね。

一度ピアノをバラす授業があって、おもしろかったですね。これこそ音大じゃないとできなかったかなと思います。
ピアノ技術者の学校なら当然のことでしょうが、ピアニストに向けてのピアノを弾くために機構や歴史を教えてくれる授業は本当に有意義でして、知りたい意識は強くなりました。

その後、ジャズで演奏者として仕事をするようになった初期は、ピアノなんて選べませんし、エレピを持ち込む仕事もかなり多かったです。ピアノのことなんて言ってられる身分じゃなかった。たまにグランドピアノで演奏できる時なんか、本当にそれだけで幸せでしたよ。

それも、2005年を境に変わりまして、それは横濱ジャズプロムナードのコンペティションで優勝してからですけども、ちゃんとキャリアのある人間として扱われることで、ピアノを弾く環境は一気に変わった気がします。
翌年メジャーデビューして以降は、「すでにCDを聴いたり媒体で見たりして来てくださるお客さんに、ぐちゃぐちゃのピアノ環境で聴いてもらうわけにはいかない」という意識が身に付いて、「コンディションを安定させることもプロとして当然のことだ」と思うようになりました。
最初の海外レコーディングの時、ピアノ選びのためにストックホルムのスタジオに行って、スタインウェイDを3台置かれて「好きなの選んで」って、こんな夢みたいな話ある?と、クラクラしました。確か私はNo.8を選んだけど、翌日会ったマティアス・アルゴットソン(p)もNo.8を選んだよって言ってて、なんだかホッとした記憶があります。


ピアノに対して特にこだわりを持つのは、やはりファツィオリを2006年に実際に弾いてからのことです。


ファツィオリに関しては、いろんなところで何度も何度もお話ししており、雑誌のファツィオリ特集などでも度々ジャズでファツィオリを選んで弾いている人間として出させてもらうことが多かったですが、やはり永遠の憧れの楽器です。

https://fazioli.co.jp/news/2014/03/201312.html


それは、敬愛するエンリコ・ピエラヌンツィがずっと弾いており、その音を「良い音」としてずっと聴き込みすぎてきたので、やはり他の人がなんと言おうと、あれがいいんですよ。

何度となくファツィオリで録音し、コンサートをしてきました。
ピアニストにはよく理解して頂けると思いますが、良い楽器を弾くと、自分の課題がすごく見えるんです。
「今の運転技術でこのフェラーリは乗りこなせない」と思ったことは、何十回もあります。本当、情けないと思うことばっかりですよ。
でも、あの立派で気まぐれな天馬を乗りこなしたいと、乗って一緒に旅に出たいと、その思いだけですよね。
良い楽器に育てられることは本当に沢山ありますので、できる限り貪欲に良い楽器を演奏できる機会に喰らい付いて行きたいと思っています。

今年8月には、兵庫県のホールでベーゼンドルファーを、京都のホールでスタインウェイを弾きました。
こちらは両方かなり古い楽器で、演奏中、演奏後の実感としては、自分としては楽器に弄ばれるようなことはなかった(はず)ですが、今週末に福井県のホールでファツィオリを弾くのですが、おそらく同じようには演奏できません。
ただ、この楽器は11年前に録音で使っており、自分が成長してその時よりは楽器と仲良くできたらいいな、と思って楽しみにしています。技術者も、東京から日本最高の技術者と心酔している越智晃さんがわざわざお越し下さるので、なんとありがたい環境でしょうか。

こうやって、良い技術者さん、素晴らしいメーカー、ピアノそのものにチャレンジさせてもらえる環境を頂けているのは、はっきり明言しますが、学生の時の「ピアノ構造論」の授業がきっかけです。
青山先生、本当にありがとうございます。感謝してもしきれません。
後年、倉敷にコンサートに行った時に、会場が青山先生の納入したピアノで、ピアニストと技術者という形で現場で再会することができました。その時は、本当に身が引き締まりました。

「アフター6ジャンクション」のピアノ特集を聞いていて、小室さんの丁寧なお人柄による講義は本当に楽しく、青山一郎先生の授業を思い出しました。
この1時間弱というコンパクトな時間で、もの凄く有意義にまとまっていて、素晴らしい講義なので、こんなの無料で聴けるとかあり得ないですよ!
ぜひ皆さんこれは聞いて下さい。

アフター6ジャンクション(3) | TBSラジオ | 2021/09/14/火 20:00-21:00


そしてnoteにレジュメがある!このきめ細やかさ、、、神か。


青山一郎先生のご著書『1冊でわかる ピアノのすべて 調律師が教える歴史と音とメカニズム』


私の週末のファツィオリのコンサートはこちらです。
が、このご時世で、県外からのお客様はお断りすることもあるとのことで、あまり宣伝できる状態ではないのです。素晴らしい楽器のあるホールなので、状況が良くなったら、ぜひこちらのホールの公演へお出かけ下さい。

9/19(日)福井県美浜町 美浜町生涯学習センターなびあす ホール (tel 0770-32-1212)
西山瞳トリオ 佐藤ハチ恭彦bass 倉田大輔drums
開演15:30/一般 1,000円 高校生以下500円   (全席指定)
終演後CD販売なし・サイン会なし
詳細はこちらをご覧ください 


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