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アウトリーチの記録

11月の学校公演の後に体育館のピアノという記事を書いてから、他の原稿や演奏仕事が立て込んでいてなかなか書けず、かなり時間が経ってしまいました。
瞬発力で書くタイミングを逃してしまったので、記録程度に書いておきます。
(もしアウトリーチ公演にご興味ある方がいらしたら、ご連絡下さい)



「小学校からジャズ・アンサンブルの授業があったらいいのに」
そんな同業者の呟きを、ずっと何年もSNS上で、年に数件は目にしていました。見るたびに、本当にそうだよねと思っていました。

だって、めっちゃ楽しいんですよ。
人とアンサンブルしたらめっちゃ楽しいし、音を出しながら人とわかりあえたらもっと楽しい。

ジャズ・アンサンブルには、音楽の中の話だけではない、人と生きることの大事なコミュニケーションが沢山あり、人の気持ちを想像して人と一緒に気持ち良く過ごすこと、人の話をしっかり聴くこと、誰も置いていかないこと、わかりあえたらとても嬉しいこと、書けばシンプルなことですが、そういう学びに溢れています。

知らない人が見たら、譜面はないし、難しそうな音だし、いつまでも延々と演奏しているし、なんだか難しそうに見えることが多いと思いますが、実は普段の言葉を使った会話と全く変わりがないもので、言葉が音に置き換わっているだけ。
だから、楽器の技術に熟達していなくても、知識がなくても、極端な話、楽器がなくてもできるし、〈誰かに何かを伝えたい〉と思えば誰でもコミットできるんですよ。

完成芸術ではなくコミュニケーションがその根本にあり、その面において実は誰に対してもハードルが低い音楽でもあるので、子供の頃にその考え方や姿勢だけ触れて貰えば、もしかしてこれからの人生で音楽を大事な友として生きていくことができるかもしれません。

ただ聴いてもらう「音楽鑑賞会」だと、楽器ができないから関係ないや、とか、そういう音楽に興味がないから関係ないや、など、子供によっては〈自分には関係ない〉と思う可能性があるので、スタイルとしてのジャズを演奏していくだけの内容ではなく、なるべく皆が参加していいんだと感じることのできるようなコミュニケーションの楽しさの伝わる内容にしようと考えていきました。


今回は、夫のテナーサックス奏者の橋爪亮督とデュオで7公演してきました。
夫は、ジャズ教育の複数のプロジェクトに長年関わっており、アメリカで出版された理論書の翻訳監修ジャズビッグバンド指導、海外ミュージシャンのワークショップの通訳など、教育分野でも仕事をしています。夫の方が経験豊富なので、司会進行は夫がしました。といっても、プログラムは大まかに決めるだけで、ほぼアドリブです。

今回、ハードルが一つありました。
それは、コロナ禍で、児童に声を出すことを推奨できないこと。参加して欲しいけど「声出してみよう!」とは言えない状況なので、学校に着いたらまずその学校の先生に、声を出すのはOKか、質問コーナーなどしてもいいか、など、指示していいことの確認から始めました。平常時だったらこんなこともないのでしょうけど。

演奏曲については、「教科書の鑑賞項目に載っているRhapsody in Blueをやって欲しい」ということと、「子どもが知っている最近の曲やアニメの曲を混ぜて欲しい」の2点以外は任されていたので、

1.聖者の行進
2.Take the A Train
3.4. My Favorite Things、Over the Rainbow、Stella By Starlightの、どれか2曲
5.Rhapsody in Blue〜I Got Rhythm
6.カイト(嵐)
7.質問コーナー
8.Cry Baby(Official髭男dism)

という構成で、それぞれの枝葉は適宜変えて、演奏しました。
公演の中でどこかに入れていたことが下記の点。

・児童に立ってもらって、足踏みや手拍子で曲に参加

・完全即興
夫がボイスパーカッションやホーミーのようなこと、私も声を発して、即興で会話。徐々に楽器に持ち替えたりビートを出したりして、声でやっていたことから楽器の音へ、何か応答しあっていることが分かりやすく見えるように。

学校や学年によって反応は様々ですが、低学年がいると笑い声も大きい。中には、こちらの話すことに反応して、いちいち上野動物園のシャンシャンの子供の頃みたいなスッテンコロリしてる子が多かった学校もありました。

夫が「幼稚園に演奏に行くと、大体”おなら”って言われる」と以前から言っていましたが、低学年はサックスでブッと音を出すとやっぱり「おなら!」と言って笑っていました。いいなあ。サックスって本当に色んな音が出ますからね。

今回はドラムがいない、サックスとピアノのデュオ。
演奏によってはリズムの力点がわかりにくい編成です。
ドラムかパーカッションがいれば、リズムの打点もはっきり伝えられるしダイナミクスも大きくなるので盛り上がりますし、明確に楽しく派手になる。そうすると子供も体を動かしやすいと思いますが、今回はいません。
ということで、どの曲も結果的にブギウギやストライドピアノの形で沢山弾きました。これなら子供もビートがわかるし楽しい。
その昔はPAもなく、酒場のガタガタのピアノ一本で客を踊らせていたということを考えると、ブギウギの形って問答無用にフィジカルに働きかけるもので、とてもプリミティブですごい威力だなと改めて思いました。

質問コーナーはかなり面白くて、
「いつからその楽器をやっていますか」
「何曲弾けますか」
「好きな曲は何ですか」
「サックス以外にどんな楽器ができますか」
「何秒ぐらい音が出ますか」
ということがどの学校も多かったですが、「好きな食べ物は何ですか」みたいなこともありましたね。久々に聞かれたな。

どの学校でも面白い反応があったのが、「いつから楽器やっていますか」の質問で、夫が「バンドは小学生の時からやっていたよ」と話したことです。
これはホウキを持ってエアーバンドをやっていて、「トリプル・クレイジー」というバンド名を付けてオリジナルまで作っていた話なのですが、なぜか各学校でドカーンと小学生に大受けしていました。
私の方は、ある学校で「どうしてそんなにピアノが上手いのですか」と、おそらくピアノをやっている女の子から質問があったのですが、「たくさん練習したからだけど、その前にピアノが大好きだから」「上手いからこういう仕事をしているのではなくて、小学校の頃からピアノが好きで続けていたら、いつの間にかこういう仕事になってしまった」ということを話したりしていました。

日頃レッスンをしていて、ジャズの演奏に取り組む喜びの中でも大きな喜びは、「わかりあえる喜び」だと思っています。
ジャズピアノをはじめた生徒さんが、まずルールを覚えてセッションに参加して、知らない人と一曲演奏できた時の喜びは、紛れもなく自分が練習したことが相手に通じた喜びだと思います。
そのうち、あの曲ができたとか、あのフレーズができたとか、こんな理論を知ったとか、どんどん目標が小さくなっていってしまうんですけども、ジャズの原初的な体験は、「知らない人に英語が通じた!」みたいな喜びで、違う言語を使ってコミュニケーションできる喜び、人と分かり合えた喜びみたいなものだと思っています。
練習の目的は、自分が上手に聞こえることじゃなくて、誰かと何かを共有すること。相手に伝えたいことがあるから、技術を磨く。オリジナル曲を作曲して演奏している私たちも、どういう表現をするかということも勿論考えますが、それを共演者や聴いて下さるお客さんとシェアできた時に、かけがえのない喜びとなります。

「楽器がなくても、上手くなくても、ジャズはできる」
「どんどん間違えていい」
「ジャズの演奏は、友達とお話しするのと一緒」
「好きの気持ちが大事(ジャズや音楽に限らず)」
ということが小学生に伝わればいいかなと、そんなことを思っている大人に触れてもらえればいいかなと思っていました。

こちらはミュージシャンの癖で、一曲終わったり喋った後に一々「イエーイ!」と言っていましたが、こんなにイエーイ!と言うチャラい大人に出会ったのはきっと初めてなのではないかしら。この大人は楽しく生きてそうだという雰囲気だけ感じてもらえたら、何よりですけど。


お金とか物とか数字とか、定量化・物質化された幸せを上回る、人とわかり合える喜び。その瞬間に新しいものが生まれる喜び。その幸せと豊かさに気付いてしまったからジャズ・ミュージシャンをやっているし、ジャズライブハウスの経営者もミュージシャンと同じ気質の方が多い。そして、ライブに来てくださるリスナーの多くも、その瞬間の喜びに価値を見出しているからこそ、レコードだけでなくライブに足を運んで下さる。私の周りは本当に心の豊かな大人だらけです。

小学校の音楽鑑賞会のことなんて、大きくなればあまり覚えていないかもしれませんが、なんとなく頭のどこかに残っていてもらえたらいいな。


先に体育館のピアノについて書いたものも、ぜひご覧下さい。


舞台袖から、3分ほど。こんな感じです。





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