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エンリコ・ピエラヌンツィENRICO PIERANUNZI「ハインドサイト - ライヴ・アット・ラ・セーヌ・ミュジカル」

2024年6月19日発売、エンリコ・ピエラヌンツィENRICO PIERANUNZI「ハインドサイト - ライヴ・アット・ラ・セーヌ・ミュジカル」を、一足先に聴かせて頂きました。

レビューというより、私のミュージシャンとしての個人的な感想と思い出も含めて書きます。

まず最初に、今作の録音は2019年、現在に近い2024年近辺の演奏ではありません。
世界はコロナ禍を挟み、我々もそうですが、秀でた芸術家は特にコロナ前の自分には戻れない、ある程度違う人間になっている可能性があります。
世界が変わる前の演奏ということは念頭に置いて、聴きました。

エンリコ・ピラヌンィ(piano)、マーク・ジョンソン(bass)、ジョーイ・バロン(drums)のトリオなら、ピエラヌンツィを聴いてきた人は誰しも、大きな期待をするでしょう。
私も勿論、このトリオが至高とは思っていますが、『Dream Dance』があまりにも完璧な作品すぎて、その後このトリオで活動がないのも必然だと思っていました。

『Dream Dance』は本当に素晴らしいアンサンブルだと思っています。
『Live in Japan』も大変に素晴らしいものでしたが、『Dream Dance』は特別。あんなにトリオとして有機的に一つの生き物のように、かつコンポジションの芸術性を最大に尊重しながら演奏してしまったら、後にやることが無くなって当然というか、それぐらいの作品だったと思います。

私自身も、いつかどこかに書いたかもしれませんが、2013年の来日の時に『Music in You』を聴いてもらった後に呼び出されて、色々お話させてもらって一度死んだというか(笑)、なんだか区切りがついて、真似事は卒業せねばならないと思い、その後は以前のようにピエラヌンツィを細部まで毛穴を開いて聴くようなことをしていなかったんです。

それでも、やはりこのトリオのリユニオンは、嬉しい。
私の生涯に残るベストコンサートの一つが、このトリオでの横浜赤レンガ倉庫ホールの時の演奏で、その後何度かピエラヌンツィは別メンバーやソロで来日していますが、あの時の感動は超えらません。

それから、私の周りのマーク・ジョンソンのファンは、来日しても「来日は嬉しいけど、俺はエンリコとやっているマークが聴きたいんだよ!!」と言っている人が100%なので(偏っています)、今回のコンサート音源のリリースはもう垂涎ものなんじゃないでしょうか。ねえ?

今作、『ハインドサイト - ライヴ・アット・ラ・セーヌ・ミュジカル』は、8曲全部が、以前から演奏されている曲です。

スタンダード化しているピエラヌンツィ代表曲「Je Ne Sais Quoi」、「Don’t Forget The Poet」、「Castle Of Solitude」などの再演も嬉しいし、
「B.Y.O.H. (Bring Your Own Heart) 」、「Molto Ancora (Per Luca Flores)」など、別の共演者と録音しているものをこのトリオで聴けるのは、大変嬉しいです。

アルバムタイトルを「Hindsight」に決めたのはレーベルかもしれませんが、この曲は過去にドイツのyvpレーベルでの『Space Jazz Trio vol.2』に収録しており、全体的にフリーに寄った演奏をしている中で、Hindsightが唯一はっきりしたコンポジションで、20歳ぐらいの私は「これしかトランスクライブできるものがないじゃないか…」と思いながら、曲とソロをとったのを覚えています。2024年に今頃これがアルバムタイトルなんだと、少し驚きました。良い曲なんですよ。

私が今作で素晴らしいなと思ったのが、「B.Y.O.H. (Bring Your Own Heart)」でした。今まで2、3回録音しているはずですが、今回が一番官能的で、このトリオのために作ったのではないかという、素晴らしいアンサンブルだと思います。
といっても、エンリコ自身の演奏は他テイクと物凄く変わっているわけではなく、明らかにマーク・ジョンソンとジョーイ・バロンのバッキングが素晴らしく音楽的であることの上でのアンサンブルだと思います。
マーク・ジョンソンの、ピアノの一挙手一投足への判断、ピアノの呼吸に合わせて減衰感も調節していますね、ほぼ何もしていないようなバッキングに聞こえるかもしれませんが、呼吸が見事すぎて溜息が出ます。
そして、ジョーイ・バロンの出す微細なグラデーション、音色と表情が繊細にどんどん変化していくパルスを聴いているだけで、幸せな気分になります。これ、セパレートしたドラムだけのトラックを聴きたいです。美しいですね。

「Don’t Forget The Poet」は私が一番最初にエンリコの音楽に触れた曲なのですが、初出の『Deep Down』での演奏を、やはりメンバーにとっても大切なもので、大事にしているのではと、今回の演奏を聴いて思いました。(詳しくは書きませんが)
「Castle Of Solitude」は、最初に生で聴いた時は、『Dream Dance』の演奏に対して「あれ、こんな陽キャな曲なのか」と驚いたのですが、その時はラリー・グレナディアとジェフ・バラードだったからかなと思っていたのですけど、今作を聴いても同じだったので、コンサートチューン扱いなんですね。
「The Surprise Answer」での、マーク・ジョンソンのウォーキングのとエンリコのタイムのコンビネーションは、久々にこれが聴けた、という感じです。私が好きなやつ。そして私以上にマーク・ジョンソンのファンが好きなやつです。気持ちが良いですね。

以前こちらの記事に「レギュラーバンドは、そのメンバーでしか出せないバンドのトーンを獲得できるかが、非常に重要なところだと思います」と書いたのですが、このトリオは本当に「このトリオならではのトーン」があり、それこそが言語化できない、言語化するとわかった気になってしまうから、あまり言葉で触れたくない部分でもあります。
しかし、沢山聴いてきた中でも非常に特別なものだということは、重ねて言っておきたいです。

6月19日発売です。
またこのトリオで生で演奏が聴ける日が来ることを、願っています。





エンリコ・ピエラヌンツィENRICO PIERANUNZI「ハインドサイト - ライヴ・アット・ラ・セーヌ・ミュジカル」

1. Je Ne Sais Quoi 6:54
2. Everything I Love 5:28
3. B.Y.O.H. (Bring Your Own Heart) 7:23
4. Don’t Forget The Poet 9:16
5. Hindsight 7:27
6. Molto Ancora (Per Luca Flores) 5:54
7. Castle Of Solitude 5:21
8. The Surprise Answer 6:00

Enrico Pieranunzi - piano
Marc Johnson - bass
Joey Baron - drums

2019年12月13日
パリ オーディトリウム・ドゥ・ラ・セーヌ・ミュジカルにて録音






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