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Enrico Pieranunziの『No Man's Land』『Seaward』リマスター再発盤(2017年12月ブログ記事より)

2017年12月19日ブログ記事より (2020年10月加筆修正済み)


Enrico Pieranunzi(エンリコ・ピエラヌンツィ)の旧作、『No Man's Land』(89年)と『Seaward』(95年)が、日本のキングインターナショナルから、再リリースされました。
『Deep Down』(86年)とともに、古くからヨーロッパのピアノトリオを追いかけているファンには、エンリコのSoulNote作品の金字塔となっているアルバムです。

最近エンリコを聴き始めた方の中には、この3枚を全部聴いていない方も結構いらっしゃるようで、SoulNoteというレーベルが現在無くなってしまって、なかなか再発されなかったこともあるのでしょう。この記事をご覧で、まだ聴いていない方がいれば、これはマスト中のマスト中のマスト中のマスト(無限大)です。

私自身がエンリコを聴き出したのは、『Deep Down』がきっかけです。このアルバムを最初に聴いた時の衝撃は、自分の音楽に対する価値観形成の最も大きなものとなっていて、それは今も変わりません。
その後、作品を集め出すのですが、どれもよく聴いたのですが、『Deep Down』(86年)『No Man's Land』(89年)と『Seaward』(95年)の3作は、特によく聴きましたし、3枚全ての曲をコピーしたので、私にとって本当に大事な3枚です。

この3枚、同じレーベルなのですが、全てトリオのメンバーが違って、録音の方向性も全然違います。

『Deep Down』がこの3作の最初に発表されたもので、こちらは『Dream Dance』(2004年スタジオ盤)『Live at Village Vanguard』(2010年ライヴ盤)までのレギュラートリオ(マーク・ジョンソンbass、ジョーイ・バロンdrums)での録音。今となっては耳馴染みのあるこの3人のトーンですが、前作同メンバー初録音の『New Lands』(84年)がスタンダード中心のソロを聴かせるセッション寄りの作品だったのに対して、『Deep Down』はハーモニックなオリジナル曲をメインに据えた、内省的でありアート作品のような趣のある作品です。

演奏の素晴らしさ、コンポジションの素晴らしさについては、もう何も述べることがありませんが、『New Lands』で閃きと交感を得て、同じメンバーでもう一歩踏み込んで『Deep Down』を録音、レギュラートリオのトーンを確立したのが、この作品だと思います。即興演奏でのセッションがメインのジャズにおいて、レギュラーバンドは、そのメンバーでしか出せないバンドのトーンを獲得できるかが、非常に重要なところだと思います。

この『Deep Down』をベーシックな音とすると、『No Man's Land』オリジナル版は、かなりソリッドな方向で、ピアノ自体はわりとペラっとした音でした。今回の再発盤では、かなり良い音になっていると思いました。
この作品、なぜかドラマーがトライバルテックのスティーヴ・ホートンなんですよ。(カーク・コヴィントンの前任) 私自身が、エンリコよりも前にトライバルテックを聴いていましたから、エンリコのディスコグラフィの中ではホートンとの共演はこれしかないですし、「何でここでホートンなの?」とずっと気になっていたんですよね。
その理由が、新しく書き下ろされたご本人のライナーノートで、やっとわかりました。
また、店舗特典でご本人の「No man's land」の直筆譜面が付いてくるのですが、答え合わせのよう確認したところ、最初のメロディはご本人が書いている譜面のようには全く聴こえていませんでした。ちなみに、別の曲でもご本人直筆譜面を持ってるんですけど、ちょっと個性的な読みにくい譜面です。

『Seaward』は、私はなぜか3枚持っていて、まあ3枚持っているぐらい好きな作品なんですよ。今回出た盤で、4枚目です。
ハイン・ヴァン・デガインbassとアンドレ・チェカレリdrumsという渋いメンバー、この3作の中では一番地味で暗い印象なのですが、私はこの作品が、偏愛と言っていいレベルで、内容も音も大好きなんですよ。
オリジナル盤は、全体がかなり奥行きのある暗めの音色です。エンリコのピアノそのものは、普段から相当に明晰なタッチなんですが、この録音は全体の印象がダークです。ピアノの個体自体も、これは絶対スタインウェイじゃないし、新盤の音を聴くとこの音は多分ヤマハだと思います。しかもフルコンよりは胴の短い楽器でしょう。あまりスコーンと明るい音がしない落ち着いた音色の、バランスの良い楽器なんじゃないかなと思います。今手元に旧盤がないので比較できないのですが、再発された盤は、全体が少し明るくクリアに聴こえますね。レイヤーが少し前に出てきた感じがする程度なので、激変したわけではなく、少しエモーションが前面に、立体的に聴こえてくる印象を受けました。

3作品の音楽の内容については、きりがないので割愛しますが、今、やっと再発されたこの機会に、しかもご本人のライナーノートも追加されていますし、まだお持ちでない方はご購入をお勧めします。

『Deep Down』に関しては、重量盤のアナログが出ていて、こちらの音が非常に良かったのですが、サインを頂いたジャケットを額に入れて飾っていたのですけども、今日久々に聴きたいなと思って出したら中身が入っていなくて、レコード収納場所を探しても行方不明です。自宅のどこかには、絶対あるんですけども。

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