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『Astrolabe / Hitomi Nishiyama』 ライナーノート

●ライナーノート(2012年2月執筆)

組曲を作りたい。それは2008年作「Parallax」に収録したInvisible Wolrdという曲を作ってから考えていたことだった。
私は高校の時、イングヴェイ・マルムスティーンやスティーヴ・ヴァイ、ドリームシアターなど、なぜかギター音楽に嵌っていた時期があった。とにかくカッコいいのだ。とても完成された構築美があり、クラシック音楽、ルーツとしてのロック音楽への敬意に溢れていて、大曲とプレイに魅了された。

何の因果か今ジャズをやっているが、ジャズにおいては、ピアノとギターはコード楽器という点において、役割が被る。だから、バンドにはどちらかがいれば良い。
ギターの馬場孝喜とは、学生の頃に一度セッションで会ったことがあるが、それからお互い関西で頻繁に演奏活動をしていても、そういう理由で会うことはなかった。

それが、2005年横濱ジャズプロムナード・コンペティション本選決勝のまさにその同日、ギブソンジャズギターコンテストの決勝本選会があり、どうやら彼もそちらで優勝したらしい、しかも私と同じ選曲スタンダードを弾いて、という話を、関西の共通の知人から沢山聞いた。
どんなプレイヤーになっているのだろう?と、気になっていたその時、なぜかふらっと彼がライブに遊びにきてくれた。
そこで何か一緒にやろうよという話になり、最初に作った曲がChanging(Parallax収録)だ。初演は彼とデュオでやった。Parallax自体がポップスのギタートリオをイメージしている部分があったので、その後Parallaxのゲストで入ってもらうことになり、その一回目のライブのために書いたのがInvisible World、ここで、この方向性でもっと書きたいと、手応えを得てしまった。
しかし、ドラマーの清水勇博が渡米するにあたって、Parallaxというトリオは今後活動休止になる。そこで始まったのが、このデュオ組曲のプロジェクトだ。

この組曲は6楽章からなるが、1楽章ごとに時間をかけて作っていったので、完成に1年3ヶ月かかった。何度も書いては解きを繰り返したが、とても楽しい作業だった。どこか物語を書いているようで、次はどこに冒険しようと考え、書いたものを、馬場孝喜とああでもないこうでもないと言いながら、演奏を模索していく。私と彼の共通項として、大体同じ時期に同じようなギター音楽を聴いていたことがあり、イメージを共有するのに全く苦労はなかった。おまけに、彼はとても瞬発力の高いジャズプレイヤーだ。勿論アドリブのパートも随所に作っていて、即興性もありながら、どこか「ものを作る」楽しみがあった。

物語の完成後は、やはり本にしたい。最後の製本作業として録音したものが、この作品だ。
1年3ヶ月の間、出来たものを順にライブで発表していったものだから、ライブに来るリスナーも、同じようにこの物語の制作過程に立ち会っている。ならば、最終過程の録音にも参加してもらったらどうか、と、ライブ会場に来た方にだけ1週間という短い期間でサポーターを募集し、録音現場を見学してもらった。

今回の作品は6楽章で完結しているが、個人的にはまだこの物語は終わりではなく、いつか続編を作る時がくる予感がしている。
音楽をすること自体が、仲間と共に悩み、苦しみ、発見し、喜びを見出しながら成長し、旅をすることにほかならない。旅の途中で、新たな仲間もできるだろう。
音楽をしている限り、旅は続く。
この作品制作に関わって下さった全ての皆さんに、感謝します。

西山瞳




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