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ゲルハルト・リヒター#1

 先日、ドイツのドレスデンのアルベルティウム美術館で初めてゲルハルト・リヒターの作品の実物を見る。

 彼の名前だけは知っているという人は日本人でも多いと思う。ドイツ国内では「ドイツ最高峰の画家」とまで言われているそうだ。私の彼の実際の作品を見る前の印象は、彼はアート界で時代の流れを掴むことに成功した人であり、お金や権力を公使して新時代のアートを作り出し成功した人、だった。有名なのは、写真をそのまま精巧に写し取った、「フォト・ペイント」。モザイクのように、いくつもの色を並べた、「カラーチャート」。カンバス全体をグレーの絵具で塗り込めた「グレイ・ペインティング」。どれも無機質な作品である。

そのような今までのアートを覆すような、メッセージ性の強い作品を作るに至ったのも、彼の最盛期を生きていた時代(1950年代)と場所(ドレスデン )が関係しているのだろう。当時はソ連の共産主義体制に置かれており、自由のない美術業界に対して、憤りを感じていたに違いない。

最初にアルベルティウム美術館で見たのは、彼のドローイング。それは写真を写した彼の油絵とは似ても似つかない、鉛筆と数色のパステルからなる、薄く神経質な線と調子。

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ここに載せたのは30枚ほど展示されていた、そのうちの数点である。一枚目は人の顔、二枚目は地表から何かが噴射している様を描いているようにも見える。それが何であるかは私にもわからないのだが、おそらく本人もそれを名付けるようなことはしていない。ただ彼は、鉛筆を立てたり、ねかせたり、描くという行為の幅を最大限行使して、微細な何かをつかもうとしているのが感じられた。それは紙の表面のざらざらした粒子や、鉛筆の粒子の広がりや層、あるいは、もっと概念的なもの。例えば、書くという行為の逆説かもしれないし、描かないという行為の反対の行為かもしれない。

彼は芸術的ジャンルとしての描画に批判的だった。その理由から、彼は版画などの伝統的なテクニックを一切使おうとしなかったし、いつも伝統的なものを破壊しようと努めた。そして彼は紙と鉛筆という媒体に辿りついた。


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