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……を想像して心を揺さぶられること。

2週間ほど前に、この文章を書き始めた。
ネーベルホルン杯も始まるし、2009年9月に観戦に行ったネーベルホルン杯のことを書こうかな、と思ったのだ。

秋の本当に気持ちいい時期に、アルプスのもとにある街で開かれるネーベルホルン杯。
ステファンの引退からの復帰や、素敵だったSPの「ウィリアム・テル序曲」。
公式練習の最後の最後までジャンプの確認をしつづけるファイファーの姿など、五輪枠を取るという覚悟やひりひりとした切実なものがそこここで見られた。
繰り返すけれど、街が本当に気持ちいい。
ちょうど時期なので、ミュンヘンのオクトーバーフェストの会場に行き、大きなジョッキのビールを飲んでサイコーだったし、また行きたいと思っている。

……など書いては修正し、書いては修正しているうちに、今年のネーベルホルン杯が始まってしまった。

文章を書くのはいったんストップし、ネーベルホルン杯のライブ中継を見ることに。
ちょうど初日の男子SPを見られたので、ツイートで感想をつぶやいたりする。
ああ、スケートって楽しいよねーと、気分も高揚したまま男子SPの観戦を終えた。

その週末は、中部選手権なども開催されていたのだけど、こちらはライブでは見られなかった。
ときどきツイッターを開くとたくさんの人たちが中部選手権を見ていて、あの選手の演技がよかったとか、こんなジャンプ構成だった、とか盛り上がっている。

すると急に、私の心にもやがかかり始めた。
「スケート楽しいよねー」と盛り上がっていた数時間前が嘘のように、もやもやは濃くなるばかり。
結果、この文章も予定とは全然違う方向へとむかうことになった。

毎年9月下旬から12月ころまでは、だいたいこんな感じのもやもやと何度も対面している。馴染みのもやもやだ。
もやもやと馴染みになどなりたくないのだけれど、ちょっと仕方ないなとも思っている。
だって、もやもやの原因は、焦燥感だから。

スケートを見始めた2001-02シーズンころ、私はいつもスケート情報に飢えていた。
スケート情報がものすごく少なかったので、できる限りの情報に触れてきた。
だからその後スケート情報が豊富になってからも、世界中のあらゆるスケート情報を享受したい、するものだ、と無意識に思っているのだ。

ところが今は、さまざまな大会が全編ライブなりアーカイブなりでの配信で視聴することができて、世界中のスケートニュースをタイムラグなく知ることができるようになっている。SNSをのぞくと、まるで世界中の人たちが、今、私の見ることのできていないライブ配信を見て演技に感激したりしている、ように見えたりもする。
だから、焦る。
ものすごく、焦るのだ。

このツイートの「いいね」に、かなり救われた。
「いいね」してくれた皆さま、ありがとうございます!

すべての配信や録画を見るなんて、本当は誰にもできていない(はず)。
一日中スケートを見られる境遇にあれば可能なのかもしれないけれど、そんな人は限りなくゼロに近いだろうし、とすると、みんな、全部を見られているわけではないのだ。

当たり前だけど、情報の取捨選択が必要なんですよね。
どの配信を見るのか見ないのか、とか、SNSやメディア情報のすべてを追わない、とかいう。
これこそが今の私に必要なことなので、今シーズンの目標のひとつに加えることにしました。


今年のネーベルホルン杯の話に戻ります。

ブランドン・ケリーのSPでの好演と、最後に賭けたような形になったトリプルアクセルを決めたフリー(と、それによって五輪の出場枠をぎりぎりで獲得したこと)。
ブランドンのこういう演技やあり方、この状況の中でのこの演技に、ただただ胸打たれた。

ブランドンがどんな思いでSPを迎え、フリーを迎え、フリーのジャンプミスでどう感じて……といったことは、今のところわからない。
だから、事実に基づいて、彼の状況や気持ちを想像する。

長くスケートを観戦すればするほど、私のなかにその選手の歴史が積み重ねられ、それが次第に思い入れに変わっていく。
それも、スケート観戦の大きな醍醐味だし、これからも、こういうスケート観戦をしていきたい。

ふと、「まだ、あの演技見られていない」とか「ぜんぜん情報についていけていない」とか思ってしまうけれど、私はスケート情報のレースに参戦しているんじゃないんだと、自分を諫め、改めよう。
私が好きなのは、想像を超えるような技や美に触れること、目に見えるわけではない鍛錬や戦略、成長、深さ、人となり、これから……を想像して心を揺さぶられることじゃないか、と。

ライターとして、いちスケートファンとして、そうしたシーンについて、これからも可能な限り探っていきたい。
と同時に私ができるのは、選手たちが健康でこのシーズンを過ごせますようにと祈ることと、演技を見られるときにはまっすぐに見ていくことなのだろうと思う。

というようなことを、2021-22シーズン序盤の今、考えている。

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