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フィギュアスケートのオンラインレッスンの今。そしてその先のこと。

不要不急の外出自粛の日々が続き、スケートリンクの多くが完全休館しており、日本でも世界各地でも、スケーターたちの多くが氷に乗れない異例の時間は、もう少し続きそうです。

そんな常ならざる日々ですが、スケーターや指導者の皆さん、関係者の皆さんはすでに、新しい取り組みを始めています。

そのひとつが、オンラインでのトレーニングです。

そこで今回、東神奈川にある、横浜銀行アイスアリーナの専属インストラクターである吉川英里(きっかわえり)先生に、5月上旬時点での取り組みについて、お話をうかがいました。

吉川先生は、2001年から10シーズン、ディズニーオンアイスで活躍し、最後のシーズンにはプリンシパルとしてムーラン役も務め、2017年には「氷艶」にも出演。アスリートヨガの資格もお持ちで、オンラインレッスンに活かしています。

吉川先生のお話がとても前向きで興味深く、削るのがもったいなかったので、5000字を超えるnoteになっています。

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―吉川先生は、すでにオンラインでレッスンをされているとのことですが、いつから始めたのでしょうか。

4月15日からです。私のいるリンクで練習ができたのは、一般営業は3月22日まで、人数制限をした貸切練習も3月31日まででした。練習ができなくなってしまったし、(オンラインレッスンを)やるしかないなと思って始めました。

―オンラインでは、どんなことをどんなふうに行っていますか。

ヨガのポーズや柔軟、ストレッチ、体幹トレーニングなどを、スマホやパソコンを使って、一緒にやっています。

―1対1の個人レッスンですか?

私の生徒でクラブに入って選手を目指している子は10人いるんですけど、この10人のなかの希望者で、まずはグループレッスンをしています。週4日、朝8時から9時までの1時間。ほかに、体幹トレーニングをもっと知りたいとか、ジャンプの回転練習を見てほしいとか、振付けの確認とか何でもいいのですが、希望者には個人レッスンも行っています。

―実際にやってみたオンラインレッスン、率直にどう感じていますか?

やってみたら、すごくおもしろいです! トレーニングとか振付けとかに関して、細かいことを含めてたくさんのことを伝えられるので、いい時間を使わせていただけているなあ、って。

―氷上練習があると、生徒さんたちの気持ちもどうしても氷の方に行ってしまう?

それもあるんですけど、貸切時間から一般滑走中のレッスンまで続くと、6~8時間氷に乗りっぱなし。なので、その後にオフアイストレーニングをする体力が残っていなくて(笑)。

―それは、ハードですよね。吉川先生は普段、氷上のレッスンをしつつ、さらにオフアイスのトレーニングも見ているのですか?

はい。基本的には、オフアイストレーニングは土曜日にやっていたのですが、ここ半年くらいは、土曜日も朝5時45分から13時くらいまで休みなく氷上のレッスンがあって……。

―ものすごくハードですね。

なので、夏休みなどの長い休みや合宿では毎日トレーニングはしていたんですけど、最近はなかなかできなくて。ほとんどの子たちには、私が子どものころからお世話になってきたトレーニングの先生のところに行ってもらっていました。

―そうなんですね。

この半年くらいは、生徒たちの級も上がったこともあって、氷上練習につきっきりでした。オフアイストレーニングに関しては、ずっと時間が足りない、と思っていたので、今、たくさんのことを伝えられて、すごくいいですね。氷に乗れないのは厳しいですし、本当は氷に乗ったうえでこの内容のトレーニングをやってあげたいんですけど、でも有効に使えているなと感じています。

―オンラインレッスンで使っているのは、LINEですか?

はい。Zoomも考えたんですけど、インターネットが得意じゃない親御さんもいるだろうし、もともとグループLINEがあったので、参加する生徒だけONにしてもらってレッスンしています。

普段使っているLINEをそのまま使えるのなら、それがいいですね。オンラインということで、動きに時差が生まれたりすることは?

あまりないですね。振付けの確認をしているときには、一瞬ズレているかなと思うこともあるんですけど、思ったよりちゃんとできている感じです。
このあいだ勉強のために、私が普段通っているヨガスタジオのレッスンをZoomで受けたんですけど、LINEもZoomもあまり変わらないかなと感じました。

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―吉川先生のオンラインレッスンの生徒さんたちですが、年齢は?

新小学校2年生から新高校3年生までです。

―小学校2年生くらいの小さな子でも、オンラインでレッスンはできるのですか?

そうですねー、年上の子たちは、6年とか8年とか私とずっと一緒にやってきているので、細かい注意をしなくても動けます。ですけど、ここ半年くらい私もトレーニングができていなかったので、小学校2年生、3年生の子たちは、最初はついてこられないところもありましたね。でも、ヨガの太陽礼拝のポーズのYouTube動画とかいろいろなものを送って、レッスン前や終わりに、「こういう内容をやるよ。ウォーミングアップだから覚えておいてね」って伝えたんです。

―そうしたら、ついてこられるように?

名前を呼んで指摘したりするので、結構みんなプレッシャーを感じているみたいで(笑)。普段会っていたけど突然会えなくなった仲間と、画面上で会いながら一緒にやる、っていうのも、刺激になっていいみたいですね。

―想像していたオンラインレッスンより、かなり人間的な感じがします。1回のレッスンでは何人一緒にやっているんですか?

多い時は、9人です。

―9人! 先生も入れると10人だから、1人分の画面は小さめサイズですね。

なので、ちょっと見にくいときもあるんですけど、でももう、私が見本を見せなくても、みんなだいたい流れが頭に入っているので。
オンラインレッスン、思ったより、いいですよ! 今、学校も休みなので、朝、ダラけ始めていた子もいたようだったし、親の言うことを聞かない年齢の子もいますよね。でも、グループでやるとなると「友達が出るから私も」っていう気持ちになりますし。予習復習をものすごくストイックにやってきて、この1~2週間で見違えるくらいなんでもできるようになっている子もいるんですよ。
それにオンラインだと、お母さんもレッスンの様子が見える状態です。そうなると、子どもが毎回どれだけ同じことを言われているのかということも、お母さんに伝わるんですよね(笑)。かなり、やってよかったなという気持ちです。

―「あなた、ちゃんとやりなさいよ」って、生徒さんたちにはお母さんのチェックも入るわけですね。

ふふふ。あと、室内トレーニングだけだとスケートでの瞬発力とか肺活量が落ちてくるので、「空いている時にマスクをして外を走る」とか「ジャンプの回転練習をする」、「インラインスケートがもし買えたら、やってもいいよ」といったメニューは、すべて渡してあります。

―インラインスケートは、フィギュアスケートの練習としていかがですか?

私も選手の頃にやったことがあるんですけど、氷の上と違って、転んだときの怪我がすごいんですよね。今の時期だとあたたかいので、半袖手袋なしの格好で氷と同じ感覚でやってしまうと、転んだときにすごい怪我になっちゃいます。だから、やるなら肘あて膝あてをしてね、って。靴も昔よりよくなって、ダブルジャンプとかも跳べるようになっているみたいですね。まあ、軽い上り坂をダッシュするような、パワースケーティングの練習とかがいいかな、と。

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―オンラインレッスンは、先生おひとりでやっているのですか?

そうですね、完全に1人で、自分の生徒たちにやっています。

―ほかの先生たちも、オンラインレッスンをされているか、ご存じですか?

仲のいい先生に「どう?」って聞かれたので、「すごくいいよ。子どもたちとの絆も切れないし、楽しいよ」って伝えたら、その後、振付けとかダンスとかをオンラインで教えているみたいです。あとは、子どもたちとの絆を切らせないために週1回面談している先生とか。私がコンタクトを取ったのは3人ですけど、多分みんな、何かしていると思います。

―生徒さんたちも、毎日会っていた先生と会えなくてさみしかったでしょうし、嬉しいでしょうね。

嬉しいかどうかはわからないですけど、ピリッとはしたかもですね(笑)。お母さんたちから「朝起きなかったのに、助かります」とかね。

―インタビュー前にイメージしていたのより、かなり明るい話をお聞かせいただけてよかったです。

今まで毎日、100人とか200人の人とすれ違ったり、しゃべったり、振付していたのに、どうしたらいいのか(笑)と思って、いろいろ考えています。どうやって子どもたちのモチベーションを保っていこうかな、とか。

―生徒さんたち、モチベーションを保つのも楽じゃない状況ですよね。

去年、野辺山(全国有望新人発掘合宿)で(全日本ノービス選手権への)シード権をもらった子がいたんです。西野太翔(たいが・2019年全日本ノービス選手権ノービスB 2位)ですけど、今年も野辺山合宿への選考会を楽しみにしていたんですね。なのに選考会が中止になってしまって、モチベーションどうしよう、って。でも今は、週に1回、新しいプログラムの振付けを細かいところまでやっています。

―すでに、新しいプログラムは作っていたんですね。

選考会に向けて、数か月前に作っていたんです。結構難しいプログラムを作っちゃったんです、今年は絶対優勝させたいという目標があったし、本人も曲を気に入っていたから。そう思うと、逆によかったかな。このタイミングで、細かいところまでしっかり見てあげられるので。

―オンラインレッスンって、先生にとっても、いいものなんですね。

ものすごくよかったです。しっかり見てあげられるし、子どもたちに会えないのが寂しくなっちゃっていたので(笑)。それに、スケート離れしてしまう子もいるかもしれないと思ったので、この時期が終わった時、全員でリンクに戻りたいという思いもありますね。

―素敵なお話をうかがうことができました。ありがとうございました!

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吉川先生にお話をうかがうまで私は、オンラインレッスンについて、「氷なしの今、できることは限られている」→「できること=オンラインレッスン」→「ほかに選択肢がないから、やっている」のではないかという思いを、どこかぼんやりと持っていたように思います。「オンライン」というワードからも、クールでひんやりした印象を受けていたのかもしれません。

でも、実際は違いました。オンラインレッスンとは、いつもだったらできなかったことを、時間をかけて丁寧にできるものであり、以前よりしっかりとつながっている感覚を受けている人も少なくないもの、のようです。

氷に乗れないこの時期にはこの時期だからこそできることがあって、「この時期だからこそできること」を経ることは、毎日氷に乗って過ごした先にあったものとはまた違った未来のスケーター像につながっていく。そしてそれは、以前のままだったらたどり着けなかったスケーター像だったかもしれないわけで……。

リンクが使えないのは本当に厳しい事態ではありますが、そんな今を、初めてポジティブに、じわじわと嬉しい気持ちが広がってくるような思いで受け止めています。世界中のスケーターたちが、「以前のままだったらたどり着けなかったスケーター」になるのだとしたら……次のシーズン、次の試合、まだ不確定ではあるけれど、こうした未来のあれこれを、明るく強い気持ちで待つことができる、そんな気持ちになりました。

冒頭の写真は、吉川先生のクラブの、とあるオンラインレッスンのひとコマです。みんな、シャクトリムシみたいなポーズで、なんだかかわいらしいし楽しそう。それにしても皆さん、すっきりとしたポーズで美しいですね。写真掲載について、先生と生徒さんたち全員に許可をいただいています(転載不可)。吉川先生、皆さん、ご協力ありがとうございました! 皆さんが、元気に次の試合を迎えられる日を楽しみにしています。


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サンキュです!
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ライター。静岡市出身。1992年からいちファンとして、2002年からはライターとして、国内外フィギュアスケート全般を観戦&鑑賞。雑誌や書籍、世界選手権やNHK杯、アイスショーの公式プログラム執筆。スケートの一筆箋も(https://storehigasa.stores.jp/)。