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TESカウンターの「出来栄え」の数字に「あれ?」と思ったことのある方に。

現在、GPファイナル開催中。テレビ中継で観戦されている方も多いと思います。

数シーズン前から、テレビ画面の左上などに表示されるようになった、暫定技術点の表示(TESカウンターと言ったりするようです。TESの読み方は、テスでもティーイーエスでもOK)を楽しく活用している方も多いでしょう。

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これが、TESカウンター。今季スケートカナダでの羽生選手のショートプログラムのトリプルアクセルの時の表示です。

「古いスケート頭」なままの数シーズンを経て、最近、やっとTESカウンターを見つつ演技を見られるようになってきました。ちょっと成長です。

そして気づいたのが、「出来栄え」部分は勘違いしやすいかも、ということでした。ぼんやり見ていたので、てっきり「ジャッジのGOEの平均」かと思っていたのですが、そうじゃなかった。ときどき、「あれ?」と思うことがあり、それでやっと気づきました。

多分、ちょっと「あれ、なんとなく変な気がする」と思っている方もいると思いますので、ここで軽くご紹介しておこうと思います。

■「出来栄え(GOE)」って?

基本的なことになりますが、「GOE」ってワードを聞いたことがある方も多いと思います。「GOE」は「出来栄え」のことで、エレメンツ(ジャンプ、スピン、ステップシークエンスのこと)の出来具合を、+5~-5までの11段階で評価したものです。

出来栄え(GOE)を判定するのは、ジャッジと呼ばれる人たちです。

GPシリーズでは各大会9名のジャッジがいるのですが、それぞれが「今のジャンプは+3」とか「−1」といったように出来栄え(GOE)を出し、その9人のジャッジの出した9つの出来栄え(GOE)を平均したものが、最終的な出来栄え(GOE)になります。このあたりは、感覚として理解できると思います。

ただこの時、ちょっと注意が必要です!

9名のジャッジ全員の判定が最終点数に反映されるわけではありません。9名の出した9つのGOEのうち、最高点と最低点をそれぞれ1つずつカットした残り7つの数字を平均(7つ足して7で割る)したものが、最終GOEとなります。これは、極端に高かったり低かったりという判定が出た場合でも、それによって混乱した数字になってしまわないようにするための措置です。

ジャッジ9人のうち7人分のGOEを平均して、それをそのエレメンツのGOEとする、ということになります。まあ、なんかそんな感じだったな、くらいで覚えておいてもらえるといいな、って感じのところです。


■GOEは、+5~-5をいったん点数化してから、基礎点に加える。

さて、このあたりからだんだん、今回私がお伝えしたかったことに近づいていきます。

先ほどの羽生選手の先ほどのトリプルアクセルの点数を見てみます。

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ちょっと細かいですが、黄色い下線を引いてあるところが、このトリプルアクセルに関する記述です。

中央あたりに、5,5,5,4,5,5,5,5,5と並んでいるのが、ジャッジ(J1~J9までの9人)が出した、このトリプルアクセルのGOEです。9人中8人が、GOE+5を出しているということですので、相当高い評価ですね。

話はそれますが、「GOE+5」っていうのは、これ以上の点数が出ないもの、つまり「満点」ということなのです。すごいですね、満点。

さて、プロトコルに戻ります。

その9つの数字のすぐ左側に「4.00」という数字があり、「4.00」の2つ上を見ると「GOE」と書かれています。つまり、このトリプルアクセルのGOEは「4.00点」ということなんですね。

ん? なんだかおかしいような・・・と感じましたでしょうか。

そう、先ほどの9人のジャッジが出していた数字は、GOE+5が8つ、+4が1つでしたよね。最高点と最低点をカットして残った7つの数字は、全部5。ということは、平均は、5。なのに、GOEの欄には「4.00」と書かれています。なぜ「5」じゃないのか、おかしい、と。

今回、ここをお伝えしたかったのです。結構混乱するところなので、要注意ですね。

結論から言うと、GOEって、「+5~-5」までの11段階の数字をそのまま計算に使うわけでははないから、ということになります。各エレメンツの基礎点に応じて、GOEで出た数値を点数化してから、基礎点に加えて点数を出す、ということになっています。ちょっと複雑なので、具体的な数字でご紹介します。

■「GOE+5」のトリプルアクセル(基礎点8.00点)は、何点?

羽生選手のさきほどのトリプルアクセルが、まさに「GOE+5のトリプルアクセル」なのですが、さて、これは何点になるでしょうか? トリプルアクセルの基礎点は「8.00点」と決められています。

点数の出し方は、「基礎点」+「GOE」ですね。

ということは、8.00+5=13.00点 

と答えたくなってしまいますが、残念ながらそうではなくて、答えは、12.00点になのです。

GOEというのは、各エレメンツの基礎点に対しての割合で計算されています。っていうと複雑・・・と思われてしまうかもしれませんが、考え方はシンプル。

GOE+1のときには、基礎点に+10%(基礎点の10%)の加点がされます。GOE+2のときは、基礎点に+20%加点されて、・・・GOE+5は+50%(つまり、基礎点の1.5倍の点数になる)という風です。

マイナスの方も同じく、GOE−1のときには、基礎点−10%・・・GOE−5のときは−50%(つまり、基礎点の半分になる)と決められています。

ですので、GOE+5のトリプルアクセル(基礎点「8.00点」)というのは、

8.00+(基礎点の50%・・・つまり4.00点)=12.00点

ということになるのです。

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再び、先ほどと同じ羽生選手のプロトコルで確認してみると、トリプルアクセルのGOEは、「4.00」点になっていますし、黄色い下線の一番右、ここは「基礎点+GOEの得点」ということで「8.00+4.00」=12.00点、つまりこのトリプルアクセルは12.00点だった、ということになります。

■TESカウンターの数字は、最終的な数値ではない。

さらにもう1つ、追加で注意事項です。

実際のテレビ画面でのTESカウンターは、こんな感じです(テレビ画面左上を拡大しています)。

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GOEが+5のトリプルアクセル。

TESカウンターを見ても、基礎点は「8.00」ですね。ですが、ここで、また気になることが!

TESカウンターだと、出来栄えが「3.89」です。あれ? 「4.00」点じゃないのは、なぜ? 気になることがいっぱいですね。

このジャンプの最終GOEは「4.00」点で間違いありませんが、TESカウンターは演技中にテクニカルパネルとジャッジが実際につけている点数がそのまま表示されているものなので、演技後に確定されるまで点数は変動します。よって、こういうことが起こるんですね。TESカウンターの数字は、あくまでも目安としてとらえておくといいと思います。

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説明が長くなりましたが、今回一番お伝えしたかったのは、「TESカウンターの『出来栄え』はジャッジが出したGOE(+5~-5)の平均値ではなく、それを点数化したものですので、お間違いなきよう!」ということでした。

GPファイナル、ジュニアGPファイナルともに、佳境を迎えています。楽しいスケート観戦の日々を過ごしましょう!


朝日カルチャーでは、こうしたこともお話しています。12月28日は、「2019-20シーズン前半とは」。普通の視点ではないところから、シーズン前半を振り返ります。5月に開催した昨季の振り返り講座は、その普通じゃない視点に好評をいただいたので、今回はそんなテイストメインで。

1月18日は、「ジャンプを見極める」、2月29日は「ザヤックルール、リカバリーを極める」と、ジャンプ周りを固めていきます。






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