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新しい時代のフィギュアスケート観戦 ~なぜ全米選手権のKiss&Cryスクリーンに映ることになったのか~


今回、あれよあれよといううちに、気づいたら全米選手権の女子ショートプログラムの演技後の選手たちが座っているキス&クライのうしろの大きなスクリーンに映ったりすることになっちゃったのですが、「これ、どうなってるの?」とたくさんの方に聞かれたので、noteにまとめておきます。

発端は、ファンカットアウトへの応募

ことの次第は、10月のスケートアメリカを見たときに、観客席にファンの皆さんのパネル(fan cutout)を見て、この取り組みいいなあと思ったことから始まりました。

スケアメで知り合いが何人かパネル姿となって座っていたので普通に応募できるのだと知り、もしかしたら全米選手権でもやるかもしれないと、情報を逃さぬよう日々目を凝らして過ごすことに。すると12月上旬、全米でも同じことをやるとの情報が来ました! よしっ!

その情報を知ったのは朝の忙しい時間帯だったのですが、すべての家事、子どもの世話などを放置して、すぐに応募。
1列目は150ドルくらい、2-3列目が100ドルくらい、それ以降が75ドルくらいの設定だったと思います。希望列(上記の3択)を申し込むと、すぐに受理メールが来てひと安心。2日以内にfan cutoutとして観客席に座らせる写真を送ってほしいとの旨でした。

今回私はうちの子どもの写真を送ることにしたのですが、写真の指定(背景は無色、このくらいの型に切っても肩とかもすべて入るように、など)に合わせたいのですが、変顔をしたり、手をあげちゃったり……。iPhoneで何とか撮った写真が大丈夫か若干の心配もあったため、写真とともに「これでOKかどうか教えて」とメッセを送ると「perfect」という返事がきました。ああよかった。

ということで、例年以上に全米を楽しみに待つ1か月ほどを過ごすことになりました。

全米選手権スタート前日(日本時間)にメールが来た!

ということで、全米選手権を待っていた1月14日(木)早朝、突如「U.S. Figure Skating's 'Kiss and Cry Live'」というタイトルのメールが来ました。

内容は、「アリーナでのKiss and Cry Liveっていうプログラムもあるので、どう? キスクラに選手たちが戻ってきたとき、そこに参加者のZoom動画が流れるよ。試合30分前にはMCとのトークもあるよ」的なもの。

その文章の下にあったリンクをクリックすると、すでに男子SPと男子フリーは「FULL(定員いっぱい)」だとのこと。「FULL」の文字を見た瞬間、突如「私もこれに参加したい!」としか思えなくなり、時差計算をしつつ女子SPに申し込みました。申し込み完了。よし!

このメールの内容で私が想像していたのは、普段選手たちがキスクラに座ったとき、目の前にある(けれどテレビの視聴者には見えない位置の)モニターに我々が映って、「おつかれー!(英語で)」とかねぎらったりするもの、でした。

Your Fan Cutout is Seated and Ready to Watch the Competition

そして、全米当日(日本時間)早朝には、「Your Fan Cutout is Seated and Ready to Watch the Competition(あなたの写真は、ちゃんと座って、試合を見る準備できてるよ)」とのメールを受信。

実は前日の練習写真などを見て、ちゃんとうちの子どもが座っているのを確認済みだったので安心はしていたのですが、ちゃんとこういうメールも来るのね、と。
気持ちが高まったまま、全米選手権当日を迎えることになりました。

Kiss and Cry Live-Ladies SP tonight

そして女子SPの数時間前に、「Kiss and Cry Live-Ladies SP tonight」というメールがきました。知ってるよ、まもなくスタートだよねーと、気楽にメールを読むと、試合30分前からのトークには、長洲未来ちゃんも登場するよ、と書かれています。おお、嬉しいぞ!

読み進めると、「Remember, you will be live on a giant video screen in the Kiss and Cry as skaters take and leave the ice.(覚えておいて。選手たちが氷に降りる時と上がってくるときに、あなたはキスクラの巨大スクリーンにライブで映るからね)」との一文が。
え? キスクラの巨大スクリーンにライブで映る?
読み間違えたのかと思ってゆっくり読み返してみたものの、私の頭の中での和訳は間違っていなかった様子です。

さらに進むと、服装規定などもありました。

・アリーナにいるような格好で、派手すぎないもので
・変なサインとか広告とかはダメ
・バーチャル背景もダメ
・画面上にテレビ画面が映らないようにね
など。

各人の画面での映り具合まで指定されているってことは、どうやら本当にKiss and Cry Live参加者の姿がパブリックに流れちゃうらしい。何度読み返しても、そうとしか読めない。そんなつもりじゃなかったんだけど。
えっと、どうしましょう……仕事しながらのんびり観戦しようと思ってたんだけど、これはもうがっつり観戦だと気持ちを切り替え、ちょっと着替えて待機することにしました。

Kiss and Cry Liveがスタート

開始30分前にZoomにつなげると、参加者は16人くらいで、MCの Rusty Kathさんと未来ちゃんが、ものすごいスピードのアメリカ英語でトークをスタート。私の耳と脳は、過去10年で一番くらいの集中力で働き始めました。内容は、女子の試合展望や未来ちゃんの最近のことなど。私が聞き取れたのは多分半分くらい。

あっという間に30分が経過し、第1グループの6分練習がスタート。でもまだマシンガントークは続く続く。お茶の準備もできなかったです。

いったい自分がどんなことになっているのか全然把握できないままスタートした1番滑走の選手のキスクラを見ると、後ろのスクリーンにいきなり自分の姿があり、「ああ、本当に映るんだ」と認識。多分、マシンガン英語トークできちんと説明されていたと思うのですが、なにせ、半分しか聞き取れなかったので。

第2滑走の選手のあとは、寝ているネコを無理やり引き寄せて一緒に映ってみました。なんだ、これ、ちょっと楽しいぞ! ネコは迷惑そうだったけれど。

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大変に忙しい観戦に

試合中は、PC画面上で、Zoomでのアメリカのテレビ局のライブ放送とZoom仲間たち(16名くらい)の姿、自宅のテレビ画面上でJSPORTS、という3種を同時に視聴していく形になりました。

Zoom上での演技映像には解説などないので、JSPORTSの解説を聞きながら見たかったのですが、若干のタイムラグ(Zoomの方が早い)があり……。
演技中はテレビの音声を消して、やや画質の粗いZoomで演技を見て、選手の演技が終わるや、PCのカメラに向かって笑顔を向け手を振りながら、もう一方の手でテレビのリモコンで音を大きくして日本語の解説を聞く、という大変に忙しく混乱の極みのような視聴となりました。

当たり前だけど、PC上のZoomに映っている自分と、キスクラ後ろのスクリーンに映っている自分とには数秒のタイムラグがあるため、気を抜いた表情などが映ったりすることも(苦笑)。

Zoomの参加者たちは全員音声ミュートされているけれど、映像は映っています。なので、みんながどんなふうに観戦しているのかが見られて、それも結構興味深かった。

1人で見ている人もいれば、リビングと思われるところで家族と一緒に見たり、ボーイフレンドと一緒だったりする人も。「USA!!」的なウエアを着ている方(服装規定の「アリーナにいるように」に則っていらっしゃる)もいるし、フレンチフライやピザなどを食べながら見ている人もいました。

そして、私のメールやLINEにも何人かから、「今、長谷川さん映ってなかった?」的な連絡が。ああ、みんなご覧になっているんですね。全米の会場でまさに取材中のライターの大先輩からも。お忙しい中、嬉しかったです、ありがとうございます!

整氷中には……

第2グループが終わると、スタッフから、「Friends, You’re doing fantastic」とお褒めの言葉が。

さあ整氷、この間にお茶の準備をしてお昼を食べようと思っていたのですが、整氷になるやいなや未来ちゃんとMCさんが登場し、再び、マシンガン英語トークがスタート。もちろん離席してもいいんだけど、なにか面白いことがあるかも、と離れられず。まあ、英語、半分しか聞き取れないんだけど。

参加者はたぶんほとんどすべてアメリカ在住の方だったと思うのですが、1人、名前を見ると日本人の女性が。マシンガン英語トークの最中、その方が「未来ちゃん!」という紙を画面に見せているのを見て、私も真似して「未来ちゃん!!」と紙に書いて、提示。未来ちゃんもたぶん認識してくれたし、その日本人の方も私の姿をわかってくれたみたい。

マシンガントークがまだまだ続くので、「●●さん、私、東京から見ています」と、その方の名前を書いて画面に見せると、その方は「●●です」とアメリカの地名を表示してくれました。おおー、楽しいー!

しばらくすると、マシンガントークの真っ最中の未来ちゃんが、「Hitomiは東京から参加しているし、●●も●●から見ていてくれている」的なことを盛り込んでくれて、日本人2名、気持ちが一気に上がる!(って、その方の気持ちまで勝手に想像)

それにしても、あのマシンガントークの合間に、漢字を含めた日本語のやり取りを読んで確認していたとは、未来ちゃんすごいっす。

整氷中は、クイズ(スケートとあまり関係ない感じ?)をやったりしていて、案の定、第3グループの6分練習終盤になってもまだまだ続いていました。しかもクイズ回答者も、「もう一回、選択肢を聞かせて」なんて、のんびりムード。日本人な私ははらはらしちゃったり。

6分練習が残り1分くらいになったところで、トーク終了。私は慌ててお湯を沸かしてトイレに行き、お茶を準備。
ああ、忙しかった。

カレン・チェンありがとう!

そして第3グループ。
だんだんZoom参加者も慣れてきて、ぼんやりと視聴してしまっていたようで、選手の演技が終わるとスタッフから「Friends, You’re LIVE on screen(君たち、今スクリーンに映ってるよ!)」など注意喚起され、みんなはっとして、急に笑顔で手を振り始めたりすることも。洋の東西を問わない動きぶりに、心の中で笑いました。

嬉しかったのは、カレン・チェンが戻ってきたとき。
キスクラ後ろのスクリーンにむかって「あーーー!!」と手を振ってくれたからです!

このとき、私(たち)は初めて「キスクラに戻ってくる選手たちを、本当に出迎えている」ということを知ったのです!
ていうか、そういうことになっているとは伝えられていたけれど、テレビ画面にそのシーンが映らないので、何が起こっているのかいまいち確信を持てないままだったんですね。

多分カレンは、スクリーンに映っている家族や知り合いなどに向かってわーーって言ってたのだと思うのですが、それでも、私(たち)は、嬉しかったよ! ありがとう、カレン。

アリサ・リュウのかわいさにノックアウトされ、Zoomの仲間たちも(それぞれの画面内で、各自)大盛り上がりしていたのですが、リンクサイドに戻ってきた彼女が、「あれー、なんでそこに映ってるのー」とスクリーンに映った家族か友人に話しかけているのを確認しました。

キスクラ後ろのスクリーンには、選手たちの家族や友達なども映っていたのですが、それは、私たちのZoomとは別ラインであり、それをスタッフが裏で上手にキスクラに映していた、という状況だったようです。
そもそも、私は選手の家族たちが映ることを知らなくて、試合途中で「私のZoomにいない人が映っているけど、これは家族とかなんだろうな」と気づいた、という状況でした。

観戦していた方はなんとなくわかったと思いますが、選手たち自身も、家族や友達などがキスクラスクリーンに映ることは知らなかったらしく、のちにアンバー・グレンがその驚きと喜びを語っていました(@ペアフリーとフリーダンスのKiss and Cry Liveで)。

演技にがっかりしていたグレイシーには、なんとか元気になってほしいなという思いで、キス&クライに彼女が座っている間、ずっと笑顔で手を振っちゃいました。Zoomの仲間たちの多くも同じ思いだったようで、みんな長く長くリアクションしていました。私たちの様子が、彼女に見えていたかはわからなかったけれど。

Fan CutoutもKiss and Cry Liveも、楽しかった!

そんなKiss and Cry Liveでした。一言でいって、とても楽しかったです。

本当は、試合中にうちの子どものcutoutがどんなふうに映っているのか見たかったし、なにより演技をしっかり見たかったんですが、基本的にあまりそういうことはできなかったです。まあこれは、私がJSPORTSも一緒に見たりして忙しかったからかもしれないですね。

fan cutout参加者のうち希望者(有料)は、自分のcutoutが全米優勝者たち(男子、女子、ペア、アイスダンスの6人)に囲まれた写真を撮ってもらえる、というプログラムもありました。
私は申し込まなかったけれど、ツイッターなどでいくつか、撮ってもらった人の写真を見たのですが、これもいい取り組みですね。

全米選手権という、なかなか実際に行くことはない大会に、fan cutoutという形で観戦している気分になれただけでも楽しかったのですが、さらに無料オプションとしてのKiss and Cry Live(整氷中のスケーターのトーク含む)に参加し、なんだか選手にぐっと近づいたような気持ちにもなれて、本当に充実&思い出深い時間になりました。

このfan cutoutの売上は、アメリカのスケート連盟のスケーターたちの育成にも使われます。それもとてもいいなあ、と。
今回、私はエンタメとして純粋に楽しませてもらったけれど、それだけでなく、未来のスケーターへの支援にもなるというのは、とても嬉しく豊かな気持ちになります。

ということで、女子SP観戦、大変に楽しみました!

あまりに楽しかったので、ほかのKiss and Cry Liveまだあるかなーと見てみたところ、日曜日の「ペアフリー&フリーダンス(大変な長丁場)」があったため、こちらにも申し込んじゃいました。ゲストは、ブレイディ・テネルとアンバー・グレン。(ただし、時差計算を間違えていたため、ブレイディの部分は見られなかった…)

観客席に座っただけでなく、ペアのキスクラスクリーンにも映ったことで、4歳児にとっても忘れがたい2021年全米選手権となったようです。

新しい時代のフィギュアスケート観戦法

コロナ禍の現在、以前のような形で大会を開催することがとても難しくなっています。
全日本選手権のように、大会を観客入りで開催できることは本当に嬉しいのですが、以前よりも観客数を絞ったり、投げ物はなしにせざるをえなくなったり、いろいろと状況が変わってきています。関係者の尽力も、これまでとは比べ物にならないほどなのではないでしょうか。

そんな中のこの取り組み、シンプルにとてもよかった、と思います。
スケアメでも同じことが行われていたのかもしれないし、もしかしたらスケアメの諸々をアップデートしたのかもしれないし、とにかく、とてもよかったなあ、と。

スケアメと全米で、アメリカの連盟はバブル方式を採用して、新しい時代の大会運営法を提示してきました。
そしてさらに全米は(たぶんスケアメも、だと思う)、「ファンにとっての」「新しい時代の観戦の形のひとつ」を提示した大会にもなったと感じました。

コロナ的な時代のあれこれがどのくらいで終息するのかまだわからない今、いろいろと新しい観戦の形というものが求められるし、出てくるだろうと思います。誰にとっても馴染みのないあれこれになるだろうけれど、そうしたものは意外と楽しかったりするのかもしれないなーと、今回fan cutoutとKiss and Cry Liveに参加した1人として感じましたし、そういうものに、積極的に、まっすぐに、参加していきたいと、今、思っています。

観客がいてくれた方が演技しやすいといわれることが多い、フィギュアスケート。それならば、観客である私たちの方からも、何かできることがあるなら少しでも取り組んでいきたい、そう思うようになりました。
これまで以上に、大会を、このスポーツを、スケーターと一緒につくり上げていく、というようなイメージで。


▼下は、ジェイソン・ブラウンのキスクラ。親族&コーチらが勢ぞろい!

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