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中国カルチャーを追いかけて(その3)

2008年の北京オリンピックの後、東京に帰国した私は、引き続き、中国のアートやカルチャーを追い続けた。2010年からは、フェスティバル/トーキョー(東京の国際舞台芸術祭)に所属して、ほぼ毎年中国の作品を招聘し東京の劇場での公演を続けた。

2015年、2年後の2017年のフェスティバル/トーキョーで中国特集を開催することが決まった。その時、私の中では既に、テーマは「ミレニアル世代」にしたいと、気持ちが固まっていた。日本で紹介されている中国の演劇やパフォーマンスが、どれも年齢が上の演出家の作品や、京劇のような伝統的な作品ばかりだったからだ。「だったら、私が若手の作品を紹介しよう」そう心に決めていた。

中国特集は「チャイナ・ニューパワー 中国ミレニアル世代」とタイトルをつけた。作品の公演だけでなく、ミレニアル世代に関する4つのトークも開催した。

1986年生まれの演出家、スン・シャオシンの作品は、中国ミレニアル世代の象徴である生配信を舞台上にそのままのせたスタイルで、バーチャルとリアルが曖昧になる不思議な体験だった(photo by KillaiB)。

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中国のエレクトロニック・ミュージック界の先駆者的存在のシャオ・イエンペンは、VJのワン・モンと息のあったクールな空間を作ってくれた。スリーピースバンド、ノヴァハートは、ポップかつロックな音源で会場を盛り上げた。

トークでは、写真、ユースカルチャー、音楽、ファッション4つのテーマでそれぞれのプロフェッショナルをゲストにお招きした。写真集の編集者兼出版社のイエン・ヨウからは、ミレニアル世代の写真家と自費出版の現状を語ってもらった。2008年から中国の若者やユースカルチャーの研究をしている『遊牧』の著者チャン・アンディンは、中国ミレニアル世代の特徴「インディビジュアライゼーション」をテーマに奥深い内容を語ってくれた(冒頭の写真はチャンとのトークの時のものだ)。1997年に北京で設立された音楽レーベル「Modern Sky」の創業者、シェン・リーホイは、中国ミレニアル世代の音楽家の活躍について映像を見せながら語ってくれた。上海のファッション・イベント「LABELHOOD」のディレクター、リュウ・シンシャーは、中国のファッションシーンとミレニアル世代のデザイナーの動向を10年の変化として語った。

中国特集のなかでも、一番反響が大きかったのは、イギリス留学経験のあるチェン・ティエンジュオの作品だった。出演者は、ヨーロッパのパフォーマーと中国人が一緒に舞台に立ち、グローバルな勢いのある作品をみせた。公演当日、当日券を買い求めるお客さんが並んだのも、とても嬉しい光景だった。

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その時、パンフレットに書いたテキストには、中国特集への思いがつまっている。ぜひ、一度ご一読いただきたい。

2015年から約1年間、ニューヨークでも生活した。ニューヨークでは、自分の夢を実現させるために頑張っている留学生やアメリカ人との職場で奮闘しながらも楽しんでいるプロデューサーやキュレーターなど、魅力的な中国のミレニアル世代とも知り合った。狭いマンハッタン島の中に、有名無名、新旧問わず、ありとあらゆる国のアーティストが作り出す、アートやエンタメがぎっしり詰まっていた。昨日ギャラリーで知り合った人に、翌日他のパーティーで会う、なんてことはよくあったし、ダウンタウンで買い物中に「お!」みたいなことも珍しくなかった。アーティストと触れ合う中で多くのインスピレーションも得た。芸術やカルチャーを日常的に楽しむ人たちが大勢いたし、何よりその場にいる全員でその空間、雰囲気を楽しもうという空気が漂っていた。ニューヨークで活躍する中国ミレニアルズの女性たちにインタビューし、「東京ウーマン」でコラムとして紹介もした。

東京に戻ってからも引き続き、中国カルチャーを追い続けている。年二回の上海ファッションウィークでは現地に行き、デザイナーや関係者への取材を続け「装苑オンライン」でレポートを書いている。フェスティバル/トーキョーでは、まだ日本では紹介されていないけれど中国では知名度も実力もあるアーティストを見つけて東京に招聘している。アイドルに関しては、実際に番組の収録現場に行き、娘くらいの年齢の子達に混じり、キャーキャー言いながら一緒に応援したり、涙したり、同じアイドルを応援している大学生の寮まで押しかけて取材をさせてもらったり(広がる推しメンの輪!)。

今思えば「好奇心」が私をいろんな場所に連れて行ってくれ、共通の話題を持つ中国のミレニアル世代と知り合わせてくれた。「好き」という思いは言語、文化、世代の壁を超えられる。次はどんな「好き」ができるだろうか?そして、どんなミレニアル世代、Z世代と出会えるだろうか。まだまだ、興味は尽きない。


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