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コロナ禍で奪われた最も大事な学びの機会

2020年の3月末に、オーストラリアでは最初のロックダウンが始まりました。あれから2年半が経ちました。長かったような短かったような、この期間の時間感覚は、正直私も今まで経験したことがないものです。

これまで朝起きて、大学にいって、帰宅して、、、という生活を送っていた学生は、大学に行かずに、家でパソコン(あるいはタブレットやスマートフォン)に向かって授業を受けるという生活が、決して短くはない期間続きました。このオンライン講義が学生の学習の仕方や学習成果に及ぼした影響については、専門家が詳細に分析をして、フィードバックをする必要があると思っています(実際に行われています)。ここでは、あくまで私自身の視点及び経験から、オンライン講義の良かった点、ネガティブな影響とみなされる点、そして、実は最も損失が大きかったと思われる事についてまとめてみたいと思います。

良かった点

  1. 学生は録画されている講義は、繰り返し見て、聴き逃した点の補足や理解を深めることができた。教員も自分の講義を見直して、改善が必要な点に気づくことができた。

  2. 家族や仕事などの事情で、キャンパスに行けずこれまで欠席せざるを得なかった講義に参加できた(国外からも)。

  3. 国外からの専門家に講義に参加してもらうことができた(これは非常に良かったです)。

  4. これまで教室だと恥ずかしかったり慣れなくて、なんとなく発言ができなかった学生が、オンラインだとチャット機能を使って発言ができた。

  5. 講義の仕方を工夫し続けるというサイクルが生まれた。

ネガティブだった点


  1. グループでの作業やディスカッションが難しい(Zoomなどのオンラインツールでグループには分割できますが、それでも難しかったです)。

  2. 録画しているという安心感から、いまいち集中できない(良かった点の1.が裏目に出た形ですね)。

  3. チャット上での悪戯もありました(これは学生に対して厳しく注意し、あまりにひどい場合は然るべき処分となりました)。

  4. 上級生になると、学生もカメラをオンにして積極的に講義及びディスカッションに参加してくれましたが、下級生だとカメラをオフにする学生も多く、そうなると聴いてくれているかどうかや、分かっているかどうか全くわからなかった(教員にとってこれが非常にやりにくかったです。学生の皆さん、「カメラオン」はエチケットです)。

  5. 学生の対人コミュニケーション力(people skill)が育たないという点が指摘された。

以上、良かった点とネガティブな点と5つずつ挙げてみました。他にも私が気がついていない点はあると思います。そしてこれらは、オーストラリアでというよりも、世界中で教員や学生が感じたことではないかと思います。

上記にはあえて含めませんでしたが、「学生が講義に参加せず、録画された講義すらも見ない、離脱する、あるいは課題だけ提出する」という問題(要はエンゲージしていないという事)もありました。これにはメンタルヘルスが大きく影響している場合があります。これに関しては、New York Timesのこの論考が興味深いです。

実は最も損失が大きかった事

大学は、単に講義を受講するだけの場ではありません。大学というコミュニティの一員として属し、学生や教員たちと共に学び合い、自らを成長させる場です。この「場」は教室であったり、クラブ活動や学内でのボランティア活動でも、カフェでの同級生とのおしゃべりでもあります。単に講義を受けることは、今あるオンラインツールである程度の水準は充たすことができますが、学生が共に成長する場としてやはりキャンパスは不可欠です。個人的には、教室や廊下で学生といわゆる雑談をすることはとても大事だと思っています。こういった講義以外の交流を通じて、学生のパーソナリティや、普段考えていることを知ることができ、より適切な指導に繋がることが多いからです。

パンデミックでキャンパスが閉鎖を繰り返したこの2年間におけるこうした機会の損失は非常に大きいと思います。実際に、私の個人的視点から、この機会に恵まれなかったために成長が遅れていると思われる学生はいます。この損失に関しては、数値で定量的に測るのは非常に難しいですが、適切なレビューが必要だと思われます。

今、キャンパスが完全にオープンになって数ヶ月が経ち、キャンパスライフを謳歌している学生を見るのがとても嬉しい毎日です。

(Photo: Hitomi Nakanishi)


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