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『始めてゆく』

 仕事で管理ポジションに新しく就き、慣れない業務に加えてちょうどそのタイミングと重なって受注数が一気に増え、初日から目の前のタスクをこなすことで精一杯な日々が続いた。帰ってから自炊する余力はとてもではないけれど残っておらず、吉野家やすき家に寄って帰宅すると22時とか23時で、風呂に入って一息つこうとソファに座ってスマホを触っていると、そのまま寝落ちしているような一週間だった。そして、その心身の余裕のなさが形となって現れるかのように1Kの部屋は散らかり、あちこち埃や垢が見るからに増えていった。


 土曜日は朝の8時ぐらいから起き出して、掃除と片付けを始めた。床に敷いてあった冬用のラグマットをこの週末に片付けることを前々から決めていたし、いつからだったか掃除や片付けをすることで気持ちが整えられてリセットされていく感覚が好きになった。また、平日はずっと浮き足立っていたので、何とかリズムを取り戻しつつ地に足をつけたかったのだと思う。いつからか良いリズムは自分自身でつくり出していかなくてはならないことに気づいてから、掃除や片付けをその一つの足かがりにするようになった。現に整理整頓することで気持ちはスカッとし、一心不乱に埃や垢を落とすことで疑心暗鬼は薄れていって気持ちは晴々としてくるのだ。決して掃除や片付けが昔から好きとは言えないけれど、やり遂げた後のそういった爽快感と心地よい疲労、それから成果が目に見える充足感は好きだ。結果的にこの土曜日の朝から昼過ぎまで続いた掃除と片付けは、レコード棚の整理やデスク周りの片付け、さらにはちょっとした模様替えにも発展したのだった。


 今、その片付けたデスクの上でこれを書いている。今まで幾度となく決意してきた使った物は元に戻してこの状態を未来永劫キープし続けることを、今回こそはとまた決意している。そして生まれ変わったかのように、こうしてまた始めてゆくのだ。

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