批評家はポリコレ映画を好むのか?(の・検証)
嫌いな映画評論家は小野寺系、どうもヒトです。
先日ネットをさまよっていると、興味深い論争を見かけました。
「『ザ・スーパーマリオブラザーズ・ムービー』のロッテン・トマトの批評家評価が低いのは、ポリコレへの配慮がないからではないか」という議論です。
たしかに現時点で映画マリオのトマト評価は、批評家スコアが56%、観客スコアが96%と、批評家と一般観客の間でかなりの落差が見て取れます。
ロッテン・トマトの批評家評が、ポリコレ的・リベラル的な映画に点数が甘いのではないか、という説は以前からよく聞きます。個人的にも「これは過大評価だろ」と思うときも少なくありません。
また、映画人および批評家というのは総じてリベラルな傾向にあります。そのため、リベラルで健康的な映画を高く評価してしまう可能性は否めません。
映画マリオが低評価なのは、そのようなリベラルな映画評論家たちが嫌がらせをしているのではないか…。ポリコレ批判者の意見はこんなところでしょうか。
しかぁし!可能性という言葉は無限定に使われるべきではありません。 常識的かつ日常的すなわち現実的な範疇でこそ使われるべきであります。
つまり、この風説を検証しようというのが本記事の趣旨であります。
検証方法
まずはじめに、ロッテン・トマトを知らない方のためにその説明から始めたいと思います。
ロッテン・トマトは世界でもっともポピュラーな映画評論サイトのひとつであり、「批評家スコア」と「観客スコア」の2つの評価軸があるのが特徴です。「観客スコア」は一般ユーザーが自由に星評価を付けれる一方で、「批評家スコア」は選ばれた批評家の評価だけを集計した点数となっています。
そのため、ときに「一般人は高く評価するが批評家は酷評する映画」(その逆もしかり)といったような状態が可視化されます。批評家スコアが高ければ「文芸的でお上品な映画なんだな」、観客スコアが高ければ「深いこと考えずに楽しめそうだな」といったような判断が可能になるので、自分の興味にあった映画を探すときに重宝します。批評家と一般ともにスコアが高ければ名作と言っていいでしょう、マストウォッチです。
批評家スコアは別名トマトメーターといい、点数が高いとトマトが瑞々しくなり「フレッシュトマト」となりますが、逆に点数が低いと「ロッテントマト」(腐ったトマト)となります。
ちなみに、トマトメーターは点数制ではなく、評価のうちポジティブな意見が何%あるか、という指標であることに留意してください。
さて、「ポリコレ映画は批評家スコアが高い」という仮定を検証するためには、まず「ポリコレ映画」を定義しなくてはいけません。しかし、「ポリコレ映画」というジャンルがあるわけでもなく、そういった宣伝がされるわけでもありません。なので、ここは筆者の純度100%の偏見で「ポリコレ映画」を選出させていただきます。
主にここ5年くらいのディズニー映画を中心に、ポリコレと思わしき要素があるものを10作品リストアップしました。ポリコレといえばディズニー(偏見)。
つぎに、「ポリコレ映画」の批評家スコアと観客スコアの点数を比較し、より大きい点を付けた側を勝者とし「1ポリコレポイント」を与えます。最後により多いポリコレポイントを持っていた側を「初代ポリコレチャンピオン」と認定します。もし批評家が一般層より低い点数をつける傾向があるなら、「批評家はポリコレでない」と言えるでしょう。
はたして初代ポリコレチャンピオンに輝くのは、一般層か批評家たち、どちらだ…?!
なお、参考記録として日本の映画評価サイトのFilmarks・Yahoo映画の点数も併記します。ほとんどポリコレ免疫のない日本人ですので、ポリコレによるプラスもマイナスもない、この点数が限りなく日本人の直感に近い評価だと言えます。もしトマトと極端に点数差があるのなら、そこに「なにか」あるのかもしれません。
それと、もう一つの世界的な映画評価サイトIMDbの点数も併記しますので、こちらも参考にしてください。サイトごとの微妙な評価傾向の違いを見比べていくのも、映画の楽しみの一つです。
検証
ウォルト・ディズニー・ピクチャーズ
ピノキオ (2022)
ポリコレ選出理由:アニメでは白人(?)だった妖精ブルーフェアリーを、黒人キャストが演じた。
批評家:29% Win
観客:28% Lose
マーベル・スタジオ
ブラックパンサー (2018)
ポリコレ選出理由:メインスタッフ・キャストに多くの黒人を起用し製作された。
批評家:96% Win
観客:79% Lose
キャプテン・マーベル(2019)
ポリコレ選出理由:MCU初の女性主役映画。女性のエンパワメントをテーマとした作品で、女性映画は女性が監督するというムーブメントに則り、監督も女性が抜擢されている。*
批評家:79% Win
観客:45% Lose
ブラック・ウィドウ(2021)
ポリコレ選出理由:女性を主演に据えた女性映画であり、キャプテン・マーベルと同じく女性監督を起用している。
批評家:79% Lose
観客:91% Win
シャン・チー/テン・リングスの伝説(2021)
ポリコレ選出理由:アジア人を主演・題材とした映画ではハリウッドで過去最大の規模であり、監督は日本にルーツに持つデスティン・ダニエル・クレットン*。
批評家:91% Lose
観客:98% Win
エターナルズ(2021)
ポリコレ選出理由:多人種・多様性を全面的に押し出し、MCU初のLGBTQヒーローを登場させた。また、MCUで最初の聴覚障害者のヒーローも打ち出し、演者のローレン・リドロフも同じく聴覚障害者である。
批評家:47% Lose
観客:77% Win
ブラックパンサー/ワカンダ・フォーエバー(2022)
ポリコレ選出理由:前作と同じ
批評家:84% Lose
観客:94% Win
ピクサー
インクレディブル・ファミリー(2018)
ポリコレ選出理由:女性の社会進出と男性の家庭進出を描いた。
批評家:93% Win
観客:84% Lose
2分の1の魔法(2020)
ポリコレ選出理由:同性愛表現がある。それを理由に中東から上映禁止の憂き目にあったが、ディズニーは当該シーンのカットを頑なに拒んだ。
批評家:88% Lose
観客:95% Win
バズ・ライトイヤー(2022)
ポリコレ選出理由:メインの登場人物がレズビアンで、同性キスシーンがある。
批評家:74% Lose
観客:84% Win
結果発表
批評家 4ポリコレポイント
観客 6ポリコレポイント
初代ポリコレチャンピオン 観客
激闘の末、初代ポリコレチャンピオンに選ばれたのは「観客」でした。
個人的にも予想外の結果でした。つまり、ポリコレ要素は「批評家ウケ」のためにあるのではなく、「観客に喜ばれるからやってる」といえます。映画と商業性が不可分の以上、観客が望む限りこれからもポリコレのブームが続くことでしょう。
また、批評家が必ずしもポリコレがあるからといって高く評価するわけではないことが証明されたのは意義があったと思います。むしろ、集計していて、ポリコレ嫌いたちによる低評価爆撃のほうが目立ちました。これからはよりフラットな目線で批評家スコアを参考にできると思います。
あくまで私が恣意的に選出した作品群の中からの結論なので、異論ある方もいらっしゃると思いますが、その場合は是非各自で第二回ポリコレチャンピオンシップ開催していただければ幸いです。
個人的にも批評家の評価に納得がいかない瞬間がありますが、だからとって「観客の評価だけ」しかこの世になければ、それは実に味気ない世界だと思います。批評家による酷評や絶賛、自分とは違う視点から語られる映画の見方、それらが今まで見てきた映画に新たな角度を与えます。それらは映画の楽しみの奥行きを広げ、私にもっと映画を見たい、という活力を与えます。批評家の存在は映画を楽しむ手助けをすることはあってもその逆はないと思います。
長大な検証にお付き合い頂きありがとうございました。
最後に
「ザ・スーパーマリオブラザーズ・ムービー」はポリコレ不足によって批評家たちから嫌われている、というのが最初の議題だったからトマトでネガティブ評価をしている批評家のレビューを20人ほど読んでみたら「ポリコレの話」をしてる批評家は誰一人いなかった。
じゃあ何だったんだこの話は
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