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マグロの”目利き”はAIで行う!?養殖と品質判定をIoTでサポート!〜DX事例22_双日株式会社/双日ツナファーム鷹島〜

ITコンサル×パートナーCFOのタナショーです。

このnoteではDX事例やIT活用事例の紹介を通して、経営者の方がITを身近に感じたり面白いと思ってもらえることで、企業の成長に役立つ情報をお届けしていきます。

以前の記事でスシローの事例を載せましたが、今回は漁業サイドとなりマグロ養殖の事例になります。双日株式会社/双日ツナファーム鷹島によるマグロ養殖に関するDXです。
※今回の事例は、双日ならびにその100%子会社である双日ツナファーム鷹島という2つの会社が行っている事例のため、併記させていただきました。


AIで目利きするのはマグロの「養殖」と「品質判定」

まずは養殖事業を行っている双日ツナファーム鷹島のDX事例から紹介します。

①養殖しているマグロの数をAIカウントして、最適な給餌量や出荷量を予測
双日ツナファーム鷹島は、長崎県の北部に位置する玄界灘の「鷹島」にてマグロ養殖を行っている会社です。

マグロの養殖といえば、近畿大学水産研究所による養殖マグロである「近大マグロ」が有名です。近大マグロの完全養殖成功には30年近くかかったことからもわかる通り、マグロの養殖は大変に困難なものとなっています。
双日ツナファーム鷹島は完全養殖ではないものの稚魚からの養殖を行っており、デリケートなマグロの生存率を少しでも多く、かつ品質の高い成魚に育てるのが経営課題となっていました。

その中でも「いま、生簀に何匹のマグロがいるのか」が重要課題としてありました。マグロが生息する水深40メートルという極めて視認性が悪い中でカウントするのは至難の業です。そのため、マグロの数は最適な給餌量や出荷予測に不可欠な情報であるにも関わらず、水中カメラで撮影された動画をスロー再生しながら目視でカウントする方法しかありませんでした。

そこで、双日ツナファーム鷹島はこのカウント作業をAIで行うこととしました。マグロを識別する際には、AIのディープラーニング(深層学習)を行っています。過去に撮影されたマグロの映像からマグロの形状や、マグロの挙動の学習を行います。更に職員による人の目から見たデータ補正による経験学習を繰り返すことで、水深40メートル下での魚影観測ならびにマグロの自動カウントが可能になりました。

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ISIDプレスリリース2017/8/8 「ISIDと双日グループがスマート漁業の共同実証実験を開始~人工知能(AI)による画像解析で養殖マグロの個体数を自動カウント~」より抜粋


②マグロ断面をAIで品質判定
こちらは双日の取り組みです。市場に卸されたマグロは尾の部分を切断し、ランクによる品質判定(尾切り選別)を行いますが、この品質判定をAIで自動判定するという取り組みになります。

マグロの選別には「身の縮れ」や「締り」、「脂のノリ具合」や「焼け状況」などをチェックしますが、熟練の職人による経験則でしかできないこと、目利きができるようになるまで最低10年はかかることから人材難の問題を抱えていました。

双日は「株式会社電通」主導のもと、「株式会社電通国際情報サービス(略称 ISID)」「株式会社三崎恵水産」らとタッグを組み、マグロの尾の断面から瞬時に品質を判定するAI「TUNA SCOPE™」を開発しました。こちらも膨大なマグロの断面データからディープラーニングを行うことで、日本の職人による高精度な目利きを再現することができており、日本だけでなく、海外の市場においても活用がされています。

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電通「事業紹介 TUNA SCOPE」より抜粋

この「TUNA SCOPE™」で最高品質のお墨付きを得たマグロは「AIマグロ」としてブランド化され、ニューヨーク、シンガポール、東京の世界3都市で商品販売が開始されています。


DXと経営戦略との関連性

双日は総合商社でありDXの実績も多いため、今回は水産に絞って見ていきます。

双日は自社方針であるサステナビリティ重要課題として、「持続可能な資源の開発・供給・利用」を掲げています。これはSDGsのテーマでは「14.海の豊かさを守ろう」にあてはまります。
漁業業界において、天然漁業の漁獲量高騰や乱獲が問題視されています。SDGsの「14.海の豊かさを守ろう」にも過剰漁獲の規制や漁獲量のコントロールについて強く主張されており、今後はより環境に配慮した水産資源の取り扱いが必要になってきます。
小売業も他社との差別化のために「環境破壊や資源枯渇を招かない」形で漁獲・生産された商品の取り扱いを増やす可能性があり、双日の行っている「持続可能な養殖プロセスの構築」は有効な対策といえます。

双日のサステナビリティ重要課題の「水産資源」事業領域において、「水産事業にて培ったノウハウを活かし、人工孵化した稚魚を成魚に育てる『完全養殖』に挑戦していく。」ともあります。必要な分の種苗を自分たちの手で生み出し、水産資源へのダメージを減らしていくこと。その取組みの中から新たなビジネスチャンスを生み出したり、ブランドイメージを創り出すための活動を双日は続けています。

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双日「サステナビリティ重要課題(マテリアリティ)③資源」より抜粋


まとめ

いかがでしたでしょうか?今回の事例では紹介していませんでしたが、マグロのAIカウントを行った双日ツナファーム鷹島は、持続可能な水産養殖のための人工種苗に関する認証である「SCSA」を取得。AIによるマグロ品質判定を行う「TUNA SCOPE™」は水産庁の「令和元年度水産物輸出拡大連携推進事業」に採択されています。

「SCSA」は「持続可能であることを示す認証商品」として、日本から海外へ水産物を輸出する際の大きなアドバンテージになること。「令和元年度水産物輸出拡大連携推進事業」についても、水産物の輸出額を拡大する効果が見込まれる取り組みに対して補助金(最大1億円、助成率50%)が出ます。

認証取得や補助金申請にはガバナンスの効いた経営や、厳格な業務フローやマネジメントシステムが求められます。相対的に管理コストの負担が増えてきますが、そんなときこそITによる効率化が重要です。
皆さんの企業でも認証取得や達成が困難な課題に取り組む際は、IT活用で効率化しながら達成ができないか検討してみてくださいね。
タナショー


参考にさせていただいた情報
双日株式会社HP
https://www.sojitz.com/jp/
双日ツナファーム株式会社
http://www.sojitz-tunafarm.com
双日サステナビリティ重要課題(マテリアリティ)③資源
https://www.sojitz.com/jp/csr/priority/resources.php
TUNA SCOPE HP
https://tuna-scope.com/jp/
経団連SDGs「マグロ養殖事業におけるIoT・AI実証実験」
https://www.keidanrensdgs.com/dat
ISID「ISIDと双日グループがスマート漁業の共同実証実験を開始~人工知能(AI)による画像解析で養殖マグロの個体数を自動カウント~」
https://www.isid.co.jp/news/release/2017/0808.html
ISID広報ライブラリ「ディープラーニングで生簀のマグロは数えられるか」
https://www.isid.co.jp/library/special/2018_tunafarm_1.html

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