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従業員の「勘と経験」と「AI」が値付けの真剣勝負!?顧客最優先主義のドン・キホーテが取り組むAIプライシング〜DX事例50_株式会社パン・パシフィック・インターナショナルホールディングス〜

ITコンサル×パートナーCFOのタナショーです。

このnoteではDX事例やIT活用事例の紹介を通して、経営者の方がITを身近に感じたり面白いと思ってもらえることで、企業の成長に役立つ情報をお届けしていきます。

今回は小売業からです。関東を中心にディスカウントストア「ドン・キホーテ」を運営する株式会社パン・パシフィック・インターナショナルホールディングス(PPIH)のリテールテックの事例紹介です。


従業員の「勘と経験」と「AI」が競争!?PPIHのDX事例

PPIHが運営するドン・キホーテは、多種多様な商品が店内にひしめきあっている印象ですが、その商品のレイアウトや値付けについては各店舗の店長が独自に決定しています。
PPIHグループの考え方に「顧客最優先主義」「権限移譲」というものがあり、現場の顧客を最優先するために、各店長に権限を移譲して店舗独自の運営ができるようになっています。更に2020年7月からはカンパニー制を導入し、グループ会社の垣根を超え、100万人商圏という範囲につき1名の支社長を新しく設置しています。新支社長に上司はおらず、102の商圏に細分化された102名の支社長には完全に権限が移譲するという徹底ぶりです。
そんな”権限移譲”の文化が根付くPPIHで行っているDX事例をお伝えします。


①店内の値付け方法を「勘と経験」か「AI」で選択できる「AIプライシング」
ドン・キホーテの店内にある商品の種類は小さい店でも5万点、大きな店は10万点にも登り、1店舗あたり7〜10人が値付けをしているのですが、この値付けをAIプライシングで効率化します。AIプライシングは競合価格や過去の購入情報から最適な価格を瞬時に導き出すことで、省人化することが可能となっています。

PPIHはAIプライシングの導入について、当初は各店舗が「AIプライシングを導入するか」、それとも「従来どおり勘と経験で値付けするか」を選択できるようにしました。まさに「AI」vs「商人」という構図であり、現場に判断を任せる権限移譲文化のPPIHらしい取り組みです。

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株式会社PPIH「統合レポート2020」より抜粋

この取り組みは2020年2月から実験的に開始しており、豊富な「勘と経験を持つ商人」と切磋琢磨で競い合ってきた「AIプライシング」のアルゴリズムは合格点に至るまで強化されたということで、今期中には全店に導入する予定とのことです。


②目の前にいる顧客属性にあわせて、什器内のサイネージが変化「コネクテッドシェルフ」
こちらは2020年12月から開始していた実証実験となります。「コネクテッドシェルフ」は株式会社TANA-X、株式会社リコーが共同開発を手掛けたデジタルサイネージ付きの什器となります。このコネクテッドシェルフをMEGAドン・キホーテ渋谷本店に設置し、株式会社資生堂の男性化粧品ブランド「uno」の商品プロモーションを対象に、購入促進の検証を実施したとのことです。

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PRTIMES「店舗DXで集客・購買促進を支援する「コネクテッドシェルフ®」の実証実験を「MEGAドン・キホーテ渋谷本店」で開始」より抜粋

コネクテッドシェルフには、複数のデジタルサイネージ(ディスプレイ)だけでなく、来店客の顔認識用のAIカメラやIoTセンサもついています。

このAIカメラを利用することで、コネクテッドシェルフの前にいる顧客の年齢や性別などの顧客属性を判別、購入を促すよう最適な映像プロモーションを表示することができます。さらに、来店客の購買行動や棚前での滞留情報などの取得データに基づき、来店客に最適な販促コンテンツを出し分けることが可能とのことで、来店した顧客に“新たな買い物体験”を提供できないか、今後効果を検証していくとのことです。


DXと経営戦略の関連性について

PPIHは2020年2月に発表した「Passion2030」という新中期経営計画にて、デジタル化への取り組みを語っています。事例でも紹介した権限移譲をした従業員の勘(K)と経験(K)。そしてデジタル(D)を組み合わせることで、デジタルと人がお互いに切磋琢磨しながら仮設と検証を繰り返し、外部環境の変化にもスピーディに対応できる力を身に着けるとのことです。

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株式会社PPIH「Passion 2030 新中期経営計画」より抜粋

また、PPIHは小売業のよりよい店舗体験、お客様理解を深めるためのデジタル化推進として、2019年10月に株式会社マシュマロを設立しています。マシュマロは主に社内のデジタル化を推進する会社でしたが、2021年7月には株式会社カイバラボと社名を変更し、より本格的なデジタル施策を展開していく予定とのことです。

PPIHはカイバラボや外部のパートナーたちと協力し合いながら様々なテクノロジー開発に挑戦することで、小売業に新しい価値の共創を届けていくことを目指し、活動を続けています。


まとめ

いかがでしたでしょうか?
記事では紹介しませんでしたが、PPIHでは2021年にRPAを使った大幅な業務効率化を行いました。RPA対象業務の一例として、ドン・キホーテで取り扱う中国人向け決済アプリ「Alipay」や「WeChat Pay」のキャッシュレス決済情報の突き合わせ作業は毎日何時間もかけていたが、RPA「UiPath」で自動化することで人的作業が大幅に削減できたとのことです。

PPIHらしい面白い取り組みとして、このRPAを行うにあたりグループ内外から「プログラミング経験不問」という条件で人員を募集し、ITに詳しくないメンバだけでRPA課というチームを作りました。タナショーも「UiPath」は触ったこともあり、プログラミングの経験がなくても簡単に操作できるのは知っているのですが、ITに詳しくないメンバだけでチームを作るというPPIHの発想が凄いですよね

PPIHの権限移譲の文化「失敗してもいいので、従業員に裁量を与え、仕事を任せてみる」という精神がこのRPA課にも表れているのかと思います。
AIプライシングの事例でもありましたが、IT化・デジタル化は仮設と検証を繰り返し、試行錯誤していくことでその性能や価値が向上していきます。トライアンドエラーはデジタル化の成功の近道です

みなさんの会社も是非、いろいろな事例を調べながらデジタル化への挑戦を続けていただければと思います。タナショーもDX事例の記事をお伝えしていくことで応援させてください!
タナショー


参考にさせていただいた情報
株式会社PPIH HP
https://ppih.co.jp
株式会社PPIH「統合レポート2020」
https://ppih.co.jp/ir/pdf/ar_2020.pdf
株式会社PPIH「Passion 2030 新中期経営計画」
https://ppih.co.jp/ir/library/earnings/pdf/PPIH_Passion2030_j.pdf
流通ニュース「ドン・キホーテ/「AIプライシング」導入、勘と経験の値付けと競争」
https://www.ryutsuu.biz/strategy/m020712.html
株式会社カイバラボ HP
https://www.kaibalab.com
PRTIMES「店舗DXで集客・購買促進を支援する「コネクテッドシェルフ®」の実証実験を「MEGAドン・キホーテ渋谷本店」で開始」
https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000009.000018151.html
IT Leaders「ドン・キホーテ、キャッシュレス決済情報をレジデータと突合する作業をRPAで自動化」
https://it.impress.co.jp/articles/-/21639

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