【短編小説】あたらしいSNS

　双子の兄弟がいました。それぞれにSNSのアカウントを持っていました。
　兄弟はイケメンでした。たまにアップされる自撮りには沢山のイイネが付き拡散もされました。
　兄は料理が好きでした。凝ったものではなく誰でもできそうな料理を綺麗に盛り付けた写真とレシピを投稿していました。
　弟はジョギングが趣味でした。都内の公園を走る姿を頻繁にアップしていました。
　兄弟はお互いの投稿を紹介し、ポジティブなコメントを送りあいました。兄は弟が風をきって走る爽やかな風景を、弟は兄が綺麗に盛り付けた素敵な料理を積極的に発信していました。
　料理から兄に興味を持った人は弟を、ジョギングから弟を知った人は兄をフォローしていきました。仲の良い兄弟が大好きになっていきました。

　ある時、新しいSNSができました。
　多くのユーザーが利用していた人気サービスが、運営企業が買収されてからトラブルが頻発するようになり、それをチャンスだとして作られたものでした。
　兄弟が利用していたSNSからは簡単にアカウントを作成できたことや、トラブル頻発のサービスを利用しているユーザーからの期待もあって、スタート初日から数千万のアカウントが登録され、ニュースにもなりました。
　兄弟もやらない理由がなかったので登録し、挨拶の投稿をしたその日だけで数千人のフォロワーがつきました。始まったばかりで早速人気者の仲間入りです。

　SNSはサービス毎にユーザーや投稿に傾向があります。新しいSNSはすでにあった傾向が異なる２つのSNSのユーザーが流れ込みました。
　１つは自撮りや自分の生活スタイルを見せあうもの、もう１つは匿名で好き勝手に意見を言い合ったり議論するものです。その２つがうまく混じり合うこともなく、ちょっとしたトラブルがいくつも起きました。

「そんなキラキラした写真ばっかりあげられても気持ち悪い」
「現実感が無い投稿が多いよ」
「文字ばっかりの投稿なんて何が面白いんだろう」
「なんだか内輪ウケばっかりで怖い」
「好きに投稿させて欲しい」
「それはこちらも同じだ」

　兄弟はそんなことが起きているとは知らないまま、今まで通りの投稿を新しいSNSでも続けました。今まで通り沢山のイイネが付き、拡散され、兄弟仲良くそれを紹介しあっていました。

「この兄弟よく見るけど、同一人物じゃね？」
「兄弟という設定を楽しむものだろ」
「アクセスが倍稼げる計算ではじめたんじゃないかな」

　人気アカウントの投稿は頻繁に表示されます。匿名の人達が兄弟の投稿を何度も目にし、疑問を持つのに時間はかかりませんでした。匿名の人達はこういう現象が大好きです。
　兄弟のファンはそんなことないと反論しました。でもSNSで議論することに慣れていません。ポジティブなコメントをするのがSNSな人達です。
　小さなトラブルはあったものの、全体で話題になるような大事件はまだ起きていなかった新しいSNSで、はじめての炎上になるのではという期待とともに、兄弟の疑惑は多くの人に注目されることになりました。

　もちろん今までそんな経験をしたことのない兄弟はしばらく沈黙を続けたあと、揃って長文を投稿しました。兄弟は一人の人間が運用していた２つのアカウントだったのです。

　長文には今まで嘘をついていた謝罪と、嘘をついた説明がありました。
　予想されたとおり１つのアカウントよりも多くの人に見つけてもらえると考えたからでした。そしてそれが思った以上に成功してしまった。信じてもらっていたのに、ごめんなさい。

　疑惑をもったアカウントは勝利の喜びを何度も投稿し、反論を試みていたファンはスタバの新作をアップしました。

　嘘を見抜いて謝らせたアカウント達は自分たちこそ新しいSNSの住人であると気炎を上げました。事実を明るみにしたのは自分達だ！

　ですがそれとは別の事実もありました。
　料理が上手で趣味がジョギングの一人のイケメンは存在したのです。料理の写真もジョギングの風景もイケメンの自撮りも事実だったのです。
　その人が嘘をついてSNSをやっていたとしても、今日もイケメンが料理をしていたり、明日の朝ジョギングをしていることには変わりは無いのです。
　そんなポエムとともにスタバの新作の写真はアップされました。