【生き物からのラブレター#15】ありがとうの花、カタクリ
先日、仏教の六方礼経というものをやらせていただく機会に恵まれた。
“ありがとう“という言葉は仏教から来ているらしい。私たちが命をもらって生きているということは、盲目の海亀が海面に上がってきたときに、偶然流木の穴に顔を突っ込んでしまうぐらい有り難い奇跡なんだということを仏様が説いたそうだ。
これに習って、東西南北上下6方向に向かって感謝を放ちながら“ありがとう”と6回書く。さらに今回は特別にカタクリのお花付きだ。
春、山に咲く小さなカタクリの姿がお辞儀をしながら“ありがとう”と言っているようだということで、このような企画になったらしい。
カタクリといえば私にとってもとても思い出深い花。子供の頃、家族で山にカタクリを見にいったことがある。
まず、山にしか咲かない貴重なお花だということ。そのことにワクワクしながら山を登り、見つけた時には静かにひっそりと、でも確かにそこに咲いているカタクリにえらく感動したものだ。
さらにはその形だ。私はどうも昔から一風変わった形のものに惹かれる傾向があるらしい。お花なのになぜか下を向き、その反対に花弁は思いっきり上に反っている姿が本当に衝撃的だった。
こんな花、見たことない!花って明るい場所で上に向かって咲くものじゃないのか。なぜその形?なぜこんな場所に咲く?私の頭は疑問でいっぱいだった。
でも日陰で咲くカタクリたちは妙に色濃く、力強くて、そんな疑問を吹っ飛ばすほど堂々と咲き誇っていた。
この時から私はカタクリが大好きだ。不思議な生き物を自分のこの目で見るという感動を教えてくれたのもカタクリだし、自分の常識を吹っ飛ばしてくれたのもカタクリだった。
そんなカタクリに心を重ね、伝えたい人を思い浮かべながら“ありがとう”と書く。そんなの、やるしかないじゃないか!
手漉き和紙の巻物に紫色のカタクリの花が描いてある。同じ顔料、そして筆を用いてその花からまずは茎を描く。続いてその下に“ありがとう”と書くのだが、カタクリの花はもちろん下を向いているわけで、茎を描く時には一回くねっと曲がるわけだ。この曲線を描く流れがとても気持ちいい。その後の字も心もふっと柔らかくなる。
一、育ててくれた親 ご先祖さま(東)
二、毎日支えてくれる親しい人(西)
三、仕事や勉強を教えてくれた人(南)
四、一緒にいるとうれしい人(北)
五、支えてくれる後輩や部下(下)
六、精神を支えてくれる尊敬する人(上)
心静かに感謝に集中する時間。忙しい現代において本当は誰もが必要としている時間じゃないだろうか。
私は書き終わった時、亡き祖父のことが思い浮かんだ。生前誰よりも私の味方であってくれ、今もすぐそばでいつも見守ってくれていると信じている祖父が笑ってくれているような気がした。
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