センチュウはあきらめた【生き物からのラブレター#32】
C. elegans (シー・エレガンス)
生物学をかじったことのある人ならば誰もが知っているだろうこの優雅なお名前の持ち主は、センチュウというわずか体長1mmほどのニョロニョロ生物である。
センチュウは線虫。まさにただの線のような地味な生き物。なぜこの生き物が有名なのか。
それはこのC. elegansが世界で初めて全ゲノム配列を解読された多細胞動物だからである。
それに加え、実験室内で簡単に飼育して増やせるC. elegansはものすごく優秀な実験動物として今も世界中で愛されている。
しかし、センチュウの魅力はそれだけではない。その多様性だ!
センチュウはC. elegansの他にもなんと1万5000種以上の種が報告されている。それどころか実際にはまだ報告されていない未知種が数多くいると思われ、1億種を超える種が存在していると考える学者もいる。
これはどういうことかというと、あなたが何のなしにすくった砂から見つけたセンチュウが新種だったなんてことが容易にあるということだ。
私もそんなワクワクを胸に秘めながら、センチュウの観察をしたことがある。
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センチュウは体長1mmほどのものが多いので、顕微鏡での観察が基本だ。
スライドグラスに細ーい針金で作ったスプーンのような専用器具で、センチュウを一匹だけ拾い上げる。これだけでもものすごく神経を使う作業だ。
200倍の倍率でピントを合わせ、さっそくスケッチを始める。
私の拾い上げたセンチュウは、肉眼ではただの白い糸のようにしか見えなかったが、顕微鏡でのぞくと節がたくさんある種類だった。
センチュウはつるっと細長い形をしたものが多いので、お!これは珍しいぞ♪と思い、意気揚々とスケッチを始めたのはいいが、いかんせん節が多い。
おまけにときどき棘が生えているので、その棘も慎重に描き込んでいく。
顕微鏡を目を凝らしてのぞいては、紙に戻り・・・を繰り返しているとだんだん疲れてきた。いったいあと何節あるんだろう・・・そろそろ残りは適当に描いてしまってもいいのではないかという悪魔のささやきが頭をよぎった時・・・
「お〜。この種は何番目の節に何本棘が生えてるかが重要なんだよね〜」
とセンチュウの専門家の先生が私のスケッチをのぞいて、楽しそうに言い放っていった・・・。
な、なんだとー!?適当に描いたら絶対にダメなやつじゃないかー!
もちろんセンチュウじゃなくても適当に描いていいことなんてない。けれど、作業の繊細さ・対照の小ささ・分類の細かさを目の当たりにした私は、
センチュウはあきらめよう
とこの時思ったのだった。。。
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結局、大雑把な私はヒトデという大きな生き物を専門にすることに落ち着いた。大きいとスケッチがだいぶ楽である。ヒトデももちろん今でも新種が見つかる。でもセンチュウの比ではない。
実はセンチュウを含む体長5mm以下の生き物こそまさにブルーオーシャン!まだまだ未開の地なのだ。
メイオベントス(小さな底棲生物)と呼ばれる彼らは、君たちに発見されるのを今か今かと待っている。
ちょっと変わった生き物が好きで、細かい作業が得意な人!
ぜひ、分類の世界へおいでませ。
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