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マルセイユの歌

サッカーのワールドカップが近づいてきて、さかんに代表のテストマッチが行なわれるようになってきました。ずっと日本代表には冷淡な私でしたが、今回はフロンターレ由来の選手がけっこう出場しそうなので、手の平を返すように代表の応援をしています(テレビでですが)

サッカーに限りませんが、国際試合のオープニングで必ず行なわれるのが、国歌斉唱というやつ。おお、インターナショナルマッチが始まるぞという気分が盛り上がりますね。試合に重みがつくんです。

さてこんなことを言うと叱られそうですが、私は日本の国歌「君が代」というのは、こうした試合のオープニングには向かないと思うのです。

「君が代」自体は嫌いではないですし、これ以外の日本国歌は考えられませんが、それでも荘重さが勝るこの曲、スポーツ試合のムードを高めるには、あまり向いていないのではないでしょうか。もっと戦闘的な曲のほうが、さあ闘うぞという気分が盛り上がりますよね。

そうした「戦意を高揚させる国歌」の最たるものが、フランス国歌「ラ・マルセイエーズ(La Marseillaise)」だと思うのです(個人の見解です)

威勢のいい感じの曲ですが、それも道理、もともとはフランス革命時の革命歌だったって言いますから、いってみれば軍歌なわけです。これから闘うぞっていう気分になるのも当然です。

フランス語には弱いので、どんな歌詞かは知りませんでしたが、調べてみたらけっこうえぐい歌詞なんですね。とくにサビの部分はこんな歌詞(ウィキペディアから借用)

武器を取れ 市民らよ
隊列を組め
進もう 進もう!
汚れた血が
我らの畑の畝を満たすまで!

敵の血を畑に満たそうって、ちょっとしたスプラッタですね。そう思うと、スポーツ試合のオープニングとしてはいかがなんでしょうね。平和の祭典オリンピックなんかで堂々と歌っていいんですかね(笑)

とはいえ勢いのあるメロディなんで、映画ではよく使われます。

映画史的に有名なのは「カサブランカ」(1942年)の酒場のシーン。

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第二次世界大戦中、親ドイツのヴィシー政権フランスの統治するモロッコの酒場で、ドイツ軍将校たちが我が物顔でドイツ軍歌を歌っていると、それに反発したオーナーが店のバンドにフランス国歌「ラ・マルセイエーズ」を演奏させるのです。ドイツ将校たちは負けじと声を張り上げますが、ほかの客たちはフランス国歌に唱和し、ついに大合唱となってドイツ将校たちを黙らせるという名場面(今回のタイトルに使ったのは、このシーン)

いかにも元気が出そうなあの歌ゆえの感動シーン。まことに申しわけないが、わが「君が代」では、どんなにわれわれが合唱してもああいう具合にはいかないでしょうね。

ただ、この勇壮かつ気合いが入る国歌も、使い方によってはえらく印象が変わることがあります。

私の大好きな異色戦争映画「戦略大作戦」(1970年)では、ラスト近くで非常に印象的に使われます。

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第二次世界大戦末期、ドイツ占領下の町に隠されているドイツ軍の金塊を強奪しようするアメリカ軍のクセモノ部隊を描く泥棒戦争映画。そのラスト、彼らの活躍(?)もあって、ドイツ軍に占領されていた町は解放されます。それを祝う町の住民たちがプカプカドンドンと、やや情けなくも聞こえるブラスバンドで演奏するのは、もちろん「ラ・マルセイエーズ」 クセモノ連中の笑い顔と人々の歓喜にかぶさるフランス国歌は、ちょっと一捻りされた感動を与えてくれますが、国歌に対する尊敬とか敬意なんてものは微塵も感じられませんな。

同じ歌でも使い方ひとつで、いかに印象が変わるかという好例ですかね。

もう一本、「勝利への脱出」(1981年)を紹介しておきましょう。ドイツ軍の捕虜収容所からの脱走ものですが、ドイツ代表対連合軍捕慮選抜のサッカー試合を背景にしているのがミソ。当時引退直後の「サッカーの神様」ペレをはじめ、多くの有名サッカー選手が出演しています。

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映画の出来栄えは、正直言って「大脱走」に匹敵するというわけにはいかず、まぁ不発映画ではあるのですが、試合のシーンには見せ場がありました。

試合はパリで行なわれる設定で、スタジアムにはフランス人の観客が入れられています。ドイツ民族の優秀さをフランス人に見せつけるためだそうで、いやそれはちょっとどうかなと思いますが。で、前半圧倒的にやられる捕虜チームが反撃すると、その姿にヒートした観衆が、「ラ・マルセイエーズ」を大合唱するのです。スタジアムを埋めた満員の観客が総立ちになって歌う姿は、物凄いエネルギーを感じさせます。

しかしですね、じつはかつて初公開当時にこの映画を観た私は、このシーンやラストシーンの仕掛けでややシラケた感想を抱いたもんです。

いくらなんでも、たかがサッカーの試合で、目の前でドイツ軍の警備兵が銃を抱えて見ているのに、ご禁制のフランス国歌を歌ったりできるのか? 当時の私は、サッカーを生で観戦したことはなく、まだJリーグも発足していなかったので、サッカーそのものへの理解もなかったんですね。

その後、サッカー観戦にハマり、いまではスタジアムへ通うようになった身となった最近になって、あらためてこの「勝利への脱出」を見たら、このへんの感じ方はまるで違いました。

わかるよ、今なら

スタジアム一体となって歌うことの高揚感、ひとつのプレイに熱狂して我を忘れる興奮、いまの私には身近なものですからね、もはや。

それにしても、やっぱり「君が代」は、こういう場には似合わないですよね。ワールドカップで日本代表が劇的な勝利をしたとしても、サポーターが総立ちになって歌うのは、たぶん「君が代」じゃないよな。

たとえば、阪神タイガースの「六甲おろし」のような、威勢のいい、観客が総立ちになって一体化する、荘重な国歌に代わるような歌はないもんですかね。誰か作りませんか

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