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未発売映画劇場「エド・マクベインの通り魔」

まずはこちらをご覧ください。

こちら87分署(上)

こちら87分署(下)

ということで、この小説シリーズがなければ「七人の刑事」も「太陽にほえろ!」も「西部警察」も「踊る大捜査線」も「相棒」も生まれなかったであろう、すべての警察物の先祖である、エド・マクベインの「87分署シリーズ」の映像化作品をチェックしてみたんだが、そのうちで日本未紹介のもっとも古い映画である「The Mugger」を見てみることにした。あちらではちゃんとDVD化されているのだ。

原作は、シリーズの第2作に当たる『通り魔』(小説の原題は映画と同じ)映画化も1958年の「第87警察」(原作はシリーズ第1作で1956年発表の『警官嫌い』)に続く第2作。つまり、きちんと最初から順番に映画化されているんである。

同じ年に第1作と第2作が続けて映画化され、さらに1年おいた1960年には第3作『麻薬密売人』も映画化されているんだから、原作がいかにインパクトがあったかはお分かりになるだろう。そしてこの第3作(日本でも「麻薬密売人」のタイトルで公開されている)で主役のスティーヴ・キャレラ刑事を演じたロバート・ランシングが引き続き同じキャレラを演じたTVシリーズが1961年から製作されるのである(日本でも「87分署」として放送)

というように原作シリーズの開始早々から人気を得て映像化されてきた「87分署シリーズ」 アメリカのみならず日本でも人気があって、原作も映像も公開されてきたのだが、なぜかこの第2作の映画だけは日本未紹介のままなのだ。なぜだろう? ほーら、見てみたくなったでしょ。

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ストーリーはほぼ原作の骨格どおり。夜な夜な出現して女性を襲い顔に切りつける通り魔事件を追う刑事たち。だが神出鬼没の犯人を捕らえられないうちに、とうとう殺人事件が起きてしまう……

原作ではほかの事件も並行して語られるが、映画はメインの通り魔事件に絞り込んでいる、これは映像というメディアである以上は仕方ないことだろう。なにしろ劇場用映画とはいえ、74分しかないのだから。

原作ではもちろん架空の町アイソラが舞台になのだが、この映画化では町の名前が明示されない。ニューヨークなどでロケしたというが、はっきりとした地名は描かれないのだ。このへんはやや中途半端な感じを受ける。ほかの映画化作品では、はっきりとニューヨークを舞台にしているのだが。

このへんの意図がいまひとつハッキリしない。原作『通り魔』の映画化に徹するのか、それとも映画独自の世界を築くのか。

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その最たるものが、主人公だ。

原作の主役であるスティーヴ・キャレラが登場しない……のは、実は原作どおり。第1作『警官嫌い』のラストで結婚することになったキャレラ刑事は、小説第2作では新婚旅行中なので登場していないのだ。だから、映画の前作でキャレラを演じたロバート・ロジアも、このあとでキャレラ役をつとめるロバート・ランシングも出演していない。

問題は、ではこの第2作で主役をどうしたか、だ。小説ではそのほかの刑事たち(もちろん彼らは、その後半世紀にわたって原作世界で活躍する)が事件を追っているのだが、オールスターキャストの大作映画ならともかく、それでは映画にはなりにくいのは理解できる。

だから、主役は変更されている。

警察付きの精神分析医(police shrink)のピート・グレアムなる人物が主役となる。分析医なので刑事たちからは「ドク」と呼ばれたりしているこの男が、分析するだけではなく、刑事顔負けの捜査と推理で事件に迫るのである。たぶん現代ふうにいえば「心理捜査官」といったところなんだろう。演じているのはケント・スミス。日本ではほとんど知られていないが、その後も1970年代の終わりごろまでテレビを中心に活躍した地味な俳優さんである(1985年没)

どうなのだろう、ここを変えたのならば、どうせならキャレラ刑事を登場させればよかったのではないか。前作とははっきりしたストーリーのつながりはないから、キャレラが新婚旅行に行かなかろうが休暇を取りそこねようが関係ないだろう。脚本(ヘンリー・ケイン)も監督(ウィリアム・バーク)も前作と同じなのに、なぜそうしなかったのか?

そもそもこの映画「87分署」という名称も冠していないし、はじめから原作とは無関係に作ろうとしていたのだろうか。そのへんは、謎である。

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ところで、今回調べているうちに見つけたのだが、映画第1作の「第87警察」以前に、87分署シリーズはいくつかテレビ化されているようだ。そのうちの一本は、あの「Climax!」の一作として放送されている。そう、007の記念すべき映像化第1作「カジノ・ロワイヤルを放送した、あの枠なのだ。うーん、これも見たくなったぞ、でもこれもたぶん生放送ドラマだったんだろうなぁ。

はい、原作『通り魔』を読みたくなった方は、こちらからどうぞ 【 ↓ 】

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