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こちら87分署〔上〕

あまり世間さまには関係なかろうが、今年はエド・マクベインの生誕90周年にあたる。めでたい、のか? 亡くなったのは2005年だから、没後もう11年もたつのだな。

世間さま向けに、いちおう説明しておくと。エド・マクベイン(本名はエヴァン・ハンター)はアメリカのミステリ作家。ミステリ的には「巨匠」の一人に数えられる。

ミステリの歴史では、それまでの名探偵個人が事件を解決するミステリから、刑事たちが集団で事件を解決する「警察小説」を広めた人と評価されている(まあ諸説あるけど)。

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マクべインが1956年に発表した『警官殺し』からはじまる「87分署シリーズ」がこのスタイルの嚆矢となったわけで、捜査の様子が(フィクションの範囲で)リアルに描かれたり、現実の社会的な問題を盛りこみやすいこともあって、今ではミステリのスタンダードなスタイルになっている。

マクべインはその後、ニューヨークとよく似た架空の町を舞台にしたこのシリーズを書き続け、死の直前の最後の作品『最後の旋律』(2005年)まで55冊の作品を残した。

警察小説は、小説だけでなく映像でも盛んになり、日本でもすっかりポピュラーだ。つまり「七人の刑事」も「太陽にほえろ」も「西部警察」も「踊る大捜査線」も「相棒」も、みんなマクべインがいなければ存在しなかったかもしれないのだよ。

「87分署」と、いちおう主人公格のスティーヴ・キャレラ刑事を中心とした刑事たちを主人公にしたシリーズ自体もまた、これまでに数多く映像化され、その点でも日本の刑事ドラマのお手本になっている。

ということでいつものように、映像化された「87分署」シリーズそうざらえといってみましょう。

おなじみのIMDB(インターナショナル・ムービー・データベース)によると、その最初の映像化は1958年の「Cop Hater」で、これは小説でもシリーズ第1作の『警官嫌い』を原作にしている。日本では1960年に「第87警察」という邦題で公開された。キャレラ刑事を演じたのはロバート・ロジア。

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そして、同じ年に立て続けにシリーズ第2作の『通り魔』を原作にした「The Mugger」が製作されている。小説発表から2年足らずで連続して映画化されているのだから、当時から人気・注目度は高かったということか。

だが、どうもこの「The Mugger」はかなり原作を改変したものらしく、キャレラも登場しないなど87分署シリーズではなくなっているようだ。どういう事情があったのだろうか。

ただ映画のあらすじ紹介など見ると、主人公は警察の心理捜査官に設定されているらしく、これはこれでえらく時代を先取りしている感もある。日本では劇場未公開で、ソフト化もされていないが、あちらでは出ているようだ、一度見てみたいものだ。

次いで1960年にはシリーズ第3作の『麻薬密売人』が「The Pusher」として映画化され、日本でも原作と同じ「麻薬密売人」のタイトルで、その年のうちに公開されている。ここまではすごいハイテンポで映画化されているわけだ。当時、それほどのベストセラーだったということか。

ちなみに日本で原作の翻訳紹介が始まったのは1959年からだから、このころは日本でも評判になりはじめていた時期のはず。

この3作、原作とは違って、架空の町ではなく、ニューヨークが舞台になっているらしい。そりゃそうか、小説では架空のほうがやりやすくても、ロケの都合がある映画では実在の町のほうが都合がいいわけだもんな。以後の映像化も基本的にはそうなっている。

さて、「麻薬密売人」でキャレラ刑事を演じたロバート・ランシングの出来が良かったのか、翌年には彼を主役にテレビシリーズ化され、全30話が放送された。これがシリーズの人気を決定づけたといってもいいだろう。

このテレビシリーズは日本でも「87分署」のタイトルで放送されている。モノクロながら、なかなか緊迫感に満ちたドラマだったと聞いているが、残念ながらここまで古いと、私も見たことはない。

アメリカでは全エピソードを収録したDVDボックスも発売されているが、国内でも、どこかで出していただけないだろうか

皮肉なことに、アメリカでは大ヒットしたこのシリーズの印象があまりに強烈だったせいなのか、その後の1960年代には映像化が途絶えている。ロバート・ランシング以外のキャレラは考えられなくなっていたとかかな。あるいは著作権の問題でもあったのかも知れないが。

ところが捨てる神あれば拾う神あり? なんと、太平洋を渡った日本での映像化が実現するのである。

そこからのお話しは、次回につづく

【次回予告】世界のクロサワの「天国と地獄」を機に、日本での人気が定着。そこから多くの刑事ドラマが派生する一方、アメリカ以外の国で予想外に映像化が多くなった「87分署」シリーズ。その真相を探ります。

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