ジャッキー・チェンと勝負する(36)

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さあ、待ってました(私だけか)「キャノンボール」の登場だ(1981年) アメリカ大陸横断無法街道レースを題材にし、ハリウッドの大物スターをずらりと並べ、当時売れっ子だったハル・ニーダムに監督させた、日本でもお正月映画になったほどの超大作。

といっても、一緒に見ていた息子の意見が正しかろう。

「なんでこれがジャッキー・チェン・コレクションに入っているんだろう?」

そう、「五福星」「大福星」「七福星」や「ベスト・キッド」でも言ってきたように、いやそれ以上に、この「キャノンボール」は、まったくもってジャッキー・チェンの映画ではない。この映画のジャッキーは、ニギヤカシに出てくるゲストスター(それもチョイ役に近い)にすぎないのだ。

とはいえ、当時人気絶頂のアクションスターであるバート・レイノルズ、当時現役の007ジェイムズ・ボンドだったロジャー・ムーア、セクシー女優トップのファラ・フォーセットをはじめ、シナトラ一家の大御所ディーン・マーチン&サミー・デイヴィス・ジュニア、メル・ブルックス一家の人気コメディアンのドム・デルイス、反骨のアウトローのピーター・フォンダら、ハリウッドの名だたる大物俳優と並んで、香港からミスター・ブーことマイケル・ホイとのコンビで参戦したのだから、当時まだ20代くらいだったジャッキーにとってはたいへん有意義な経験だっただろう。

ただ、この映画のジャッキーは、かなり微妙だ。

まず役柄が、日本人

当時わが家の愛車と同車種だったスバル・レオーネでレースに参加するのだから、日本人でないと都合が悪かったのか。あるいは当時のアメリカ映画市場では、日本人のほうが中国人(香港人)よりも売りやすかったのか。そのへんの事情はよく分からない。

しかも日本人のくせにセリフはすべて広東語で、マイケル・ホイとの漫才のような広東語トークは、どう考えても日本人には見えない。後年、日本を舞台にした「デッドヒート」の時は、曲がりなりにもたどたどしい日本語を使っていたのにね。

じつは映画のなかでも、ジャッキーとマイケルの立ち位置は微妙だ。

というのも、この二人、他のハリウッドスターたちとはほとんど絡まないのだ。わずかに最後の大乱闘シーンでピーター・フォンダを蹴り倒すくらい。レース参加者ほぼ全員が揃うラストシーンにも、あれ、いたっけな?

この映画には、じつはそれなりのからくりがあることは、公開直後からよく言われている。

香港では大物プロデューサーだったレイモンド・チョウも、このころのアメリカではまだまだ無名。そこでこの映画に大物たちをブッキングするにあたって、それぞれをバラバラに撮影して拘束日数を大幅に減らし(ギャラが安上がりになる)あとでそれらを編集でつなぎ合わせて「豪華競演」を実現したとか。そういわれてみると、たしかに大物スターたちのストーリーはそれぞれ適当に独立していて、スクリーン上でお互いに顔を突きあわせるシーンは、極端に少ない。

なるほど、街道レースものならばそれでもさほど不自然ではないわけで、さすがは辣腕のレイモンド・チョウ、うまくやったもんだ。おまけに、こうしてチョイ役気分で集まった大物スターたちが、さほど気張らずに演じていることが、映画全体の空気を明るく楽しく(ゆるく)させる効果を上げたようだ。

そこでふと思ったのだが、ジャッキーとマイケル・ホイは、もともとこの「キャノンボール」の出演者に予定されていなかったんじゃないのか?

レイモンド・チョウが、脱・香港のハリウッド大作を志向して作った映画ならば、なるほどわざわざ香港ローカルの人気者を投入する必要はまったくない。ハリウッド大作を作るんだったら、ここは仮に日本人レーサーを出すにしても、トシロー・ミフネとかサニー・チバとかを投入しようと考えそうなもんだよな。

にもかかわらず香港映画界きっての人気者、というか当時の自分が投入しうるエース2枚を投じたのは、ひょっとすると香港での興行収入を考えてのことだったのではないか? そして、それを思いついたのが、かなり撮影も進んだあとだったとかかもしれない。

まあ、真相はわからないが、ともあれ、ジャッキー・チェンにとっては、ちょっとばかりハリウッド大物と付き合った思い出作り程度のモノだったのかも。この映画はレイモンド・チョウの勝負作であって、ジャッキーの勝負作ではなかったということなんだろう。

ただ、その後、大いにステップアップしたジャッキーは、「キャノンボール2」ではきちんと主演の一角に食い込むのだから、この映画の経験は、決して無駄ではなかったのだろう。

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