ジャッキー・チェンと勝負する(25)

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ジャッキー・チェンが、カーマニアぶりをいかんなく発揮したという1995年の「デッドヒート」が今回の作品。後半の舞台は日本で、長期の日本ロケを敢行している。

まあ「カーマニアぶりを発揮した」といっても、中盤の香港での路上カーアクションと、クライマックスのレースシーンに、よくもまあここまで集めたというくらいの台数の車をつぎ込んだというだけの話だけど。正直、公開当時も今もべつにカーマニアではない私には、ジャッキー・チェンもここまでの物量を投入できるようになったのか、という感慨があった程度で、そう心揺さぶられるものではなかった。

むしろ、サモ・ハンが武術監督となって仕切ったカンフー・アクションの素晴らしい出来栄え(パチンコ店での大乱闘は絶品)のほうが、印象に残ったものだ。ジャッキー映画としては、当然なのだが。

この作品、「人質を取られて、やむなく悪役との勝負に挑む」というストーリーの骨子は前回の「バトルクリーク・ブロー」と同じといえば同じで、いくつかツッコミどころもあるものの、わりと脚本がしっかりしている。無駄も少なく、一直線にクライマックスのレースに向かうつくりも良く、コミカルな味もうまく活かされている。かつて「香港映画はシナリオがないからなぁ」などと揶揄されていたのにくらべると今昔の感があった。

「デッドヒート」が作られた1995年前後の時期のジャッキーは、絶好調だった。日本公開は前後したが(本作は1996年3月公開)、同じ年にあの「レッド・ブロンクス」もあり、ジャッキーの充実期といえる。その中でもこの「デッドヒート」の出来ばえは上位に属すると思うのだが、どうだろう。

唯一瑕瑾を探すとすれば、ジャッキーを含め、香港側の俳優たちの日本語が下手な点くらいかな。

それは冗談として、この映画を評するときによく引き合いに出されるのが、仙台のパチンコ店のシーン。パチンコ店の奥にサウナがあり、刺青のおっかないお兄さんが大勢控えているというあの設定がアリエナイという話。そりゃまあ、あんなパチンコ店はないよね。

しかし、リアリティって、映画にとって、そんなに重要なんだろうか。日本人は日本が舞台や題材になると、こういう点をすぐに気にするが、しょせんは映画なんだから、いいじゃないか。フィクション、ファンタジーだと、鷹揚に受け止めたいものだ。前述したように、実際このシーンは数あるジャッキー映画の中でも、屈指の名場面だし。

ところで、クライマックスとなるレース場は、仙台ハイランドレースウェイ。全日本GT選手権や全日本F3選手権も開催された実在の名門コースだ。もっともそれゆえ、コース維持の問題でクラッシュシーンや爆破シーンはここでは撮影できず、マレーシアで撮影されたというが。名門レース場のたたずまいが、クライマックスに大いなるリアリティをもたらしている。

だが、「デッドヒート」公開時から、ちょうど15年後に襲った東日本大震災で、仙台ハイランドレースウェイは大きなダメージを受けた。残念なことだ。その後は公式レース以外で細々と運営されていたが、2014年に営業を終了したという。映画のフィルムに焼き付けられた、在りし日の名門コースの姿に、何を思うべきだろう。

  ジャッキー・チェンと勝負する 目次

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