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未発売映画劇場「サント対恐怖強盗団」

2021年も続くサント映画完全チェック。まだまだ先は長いぞ。

第25弾は「Santo contra los jinetes del terror」 英語題は、ほぼ直訳の「Santo vs. the Riders of Terror」が知られている。当然ながら日本ではまったく未公開。メキシコでは1970年の11月に公開されているが、そのほかの国ではほとんど劇場未公開のようだ。アメリカ製のDVDで鑑賞。

以前に観た「サント対ドラキュラの秘宝」と同様にアダルト版の別バージョンがあり、そちらのタイトルは「Los leprosos y el sexo(Lepers and sex)」だそうだ。この映画のどこをどうすればアダルト版になるのかは、さっぱりわからないが。

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最初に断っておかねばなるまい。

この映画、少なくとも現在の日本では公開も放送も難しいだろう。いや、もともとサント映画が公開されるような機運はまったくないのだが。だがそれとはまったく別の次元の話だ。あらすじはこうだ。

西部開拓時代、療養所から脱走した患者たちが衣服や食料を求めて近くの村を襲う。恐怖に駆られた住民たちは町を捨てようとするが、保安官はサントの協力を求めて患者たちを捜索する。いっぽう村の不良たちは患者たちと結託して私腹を肥やそうとする。保安官とサントは村を守れるのか?

「患者たち」が罹っているのは、今日でいうハンセン氏病。映画は西部開拓時代なので劇中では当然だし、おそらく製作当時の1970年ごろには、まだまだこの病気への偏見や誤解は根強く残っていた。

なので、現在の目でこの映画を観れば、それこそ「政治的に正しくない」 極端に感染を恐れ、患者たちが現われた家を焼き払うなど、この病気や患者に対する偏見や誤解を助長する描写が多く見られるからだ。

この問題は非常にナイーブなものだし、今日のわれわれも、この映画の登場人物を一方的には批判できない。もちろん忘れたり見て見ぬふりをしていい問題でもない。

これが娯楽を目的とした映画であることを踏まえてもなお、許容される描写ではないのは間違いない。だからこの映画も、少なくとも広く公衆の面前で見せてしまってはいけないものだろう。

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さて、では娯楽映画であるサント映画としてはどうなのかというと、じつは見逃せない映画なのだ。

あらすじでも触れたように、この映画の舞台は西部開拓時代。つまりまったくのウェスタン映画

じつはこの部分で、この作品は画期的なサント映画になっている。

これまでの24本のサント映画は、すべて現代のメキシコを主舞台にした現代劇だった。ストーリーの背景として一部が歴史的に過去(中世など)になることはあっても、それは一部分に過ぎず、最後は現代に戻っての話になる。

それも当然で、サントは、あくまでも現代メキシコに存在するプロレスラーだからだ。

逆にいえばサントがプロレスラーであればこそ、白銀色のマスクをかぶり、マントをひるがえし、上半身裸で闊歩しても、ギリギリのリアリティを保っていられたのだ。舞台が中世などになっても、それはサントの祖先の騎士だったりして、それがマスクを着用する理由になっていた。

ところが、今回は作品全体がまったくのウェスタン映画。これではプロレスラーのサントは存在しえない。そもそもこの時代にはまだプロレス自体がない。

なので、今回のサントはプロレスラーではなく単なる町の住民。それでなんで覆面しているかって? そこは流せよということか(さすがにマントはなしだし、ポスターにあるように上半身裸でもなくちゃんとシャツを着ているが)

したがって、残念ながら毎回恒例のサントの試合シーンはなし。そりゃあ、この時代の西部にはアレナ・メヒコはないもんなぁ。かわりに、町の広場にシートを引いてロープを張っただけの、学生プロレス並みの「試合」は出てくるけど。

そういった意味でも、画期的なサント映画であるのだ。

ここでのサントは、プロレスラーではなく、俳優としてのサントなのだ。これはサント映画としてはコペルニクス的転換だろう。初登場から10年以上、20本以上の作品を経て、サント映画が大きな進化を遂げたわけだ(持ち上げ過ぎかな)

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サントと共闘する保安官を演じて、サントよりも主演っぽいのがアルマンド・シルヴェストレ(Armando Silvestre) アメリカ生まれのメキシコ系俳優で、米墨両国でそれなりに多くの映画に出ている。クリント・イーストウッド主演の「真昼の死闘」(1970年)で、冒頭にシャーリー・マクレーンの尼僧を襲っていたならず者3人組の一人を演じていたそうだ。よく覚えてないけど。あ、この映画と同じ年だな。

患者強盗団のボス格の青年がもう一方の主人公っぽいドラマを担っていて、けっこういい味を出している。なぜ施設を脱走した患者たちがいつまでもそこにとどまっているのかは、彼がカギになるのだ。そして、その物語がストーリーのリアリティを支えている。演じたのは、残念ながら日本ではまったく知られていないグレゴリオ・カサル(Gregorio Casal)

上掲のDVDジャケットでサントの両側に配されているのが、この2人である。

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じつをいうと、けっこうちゃんとウェスタン映画していて、その点では捨てがたい作品なのである。

少なくとも、いままでのサント映画よりも、かなりしっかりした作りになっているのではないか。もちろんダダ洩れな部分もたくさんあるがね。

それだけに、題材ゆえにこの映画が広く受け入れられる可能性が低いのは、残念なことである。

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