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外出自粛映画野郎「殺し屋ハリー/華麗なる挑戦」

【緊急事態は解除されたようですが、まだ安心していいってことではなさそうなので、もうしばらく自粛映画は続けます】

タイトル画像にも出しましたが、まずはこの映画の向こうのポスターデザインでも見てください。

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このデジタル時代にはまったく適切ではないタイトルを見よ(笑) 分数ってのはネットには乗りにくいんだよね。

そして、この原題との落差マックスな邦題「殺し屋ハリー/華麗なる挑戦」も相当なものだ。まったくやる気がナッシング(笑) いったい誰が考えたんだか。

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という具合にいろいろと損してる映画ですが、じつはけっこう面白いんです。いや、ムカシはけっこう「ポップな」とか「スタイリッシュな」とかいわれたもんですが、21世紀の今になると、そう特殊な感じには見えませんね。むしろトラディショナルなサスペンスアクション……でもないか。

対立する2大ギャング組織が抗争に突入。革新系ボスの前に形勢不利な保守派ボスは、昔なじみの凄腕ガンマンのハリー・クラウン(リチャード・ハリス)を呼び寄せる。大仕事だ。さっそく街にやって来るハリーだが、敵方にはやはり腕利きのガンマンでハリーの宿敵であるクロウ(チャック・コナーズ)が雇われていた。先手必勝と、到着早々のハリーに襲撃をかけてくるクロウ。愛用の2丁拳銃を手に、敢然と反撃に出るハリーだが、敵はさらに卑劣な策略を……

こうして見ると、少しもポップでもスタイリッシュでもないストーリーでしょう。むしろクラシックなギャング戦争もの。

たとえばクロサワの「用心棒」とか、その元ネタともいわれるダシール・ハメットの古典ミステリ『血の収穫』、あるいはドイルのシャーロック・ホームズものの古典『恐怖の谷』の後半あたりを思い浮かべればだいたい正解。マカロニウェスタンにもけっこうたくさんありますね。

要するに「ギャングの抗争に割り込む物騒な凄腕」パターンです。

主人公(凄腕)がどっちの組織に付くか付かないか、不利になった側(だいたいそっちに主人公が付く)がいかにして逆転の一手を放つか、そして抗争の決着はどうなるか、あたりがキモですね。

そしてこのパターンを面白くするコツは、対立する連中の違いをいかにしてクッキリさせるか。

「用心棒」でいえば、賭場を持つ保守派の馬目の清兵衛と、もとはその手下で革新系の丑寅一家の違い。清兵衛には絹問屋、丑寅には造り酒屋を後見につけることで違いをクッキリさせてましたね(もちろん他にもいろいろ仕掛けてあります)

「殺し屋ハリー」では、保守派のボスがいかにもオヤジなアンクル・フランク(エドモンド・オブライエン)で、革新系ボスが若くてキザなビッグ・エディ(ブラッドフォード・ディルマン)と、外見的にも差をつけているのが嬉しいですね。

ところが、ここまでやったのに肝心な部分でツメが甘いのが残念。

ボスはいいんですが、その他大勢の子分どもが、申し合わせたように黒づくめのスーツにタイ、そしてハット。要するにブルース・ブラザース・スタイル。どっちの陣営も。

ここらに、監督のジョン・フランケンハイマー(この人も相当のクセモノだからね)の深いこだわりとか深慮遠謀があるのかないのかしりませんが、少なくとも外見上は両陣営に差をつけてほしかったですね。片方は白づくめにするとかね。

私のお気に入りは、悪の殺し屋クロウ。片手が義手というのがいいですねえ。ずっと前に書いたように、私は片腕義手のキャラクターはけっこう好きなんですよね。【こちら参照】

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そして忘れてはいけないのが、音楽。名匠ヘンリー・マンシーニの手になるメインテーマは、口笛の音色も印象的な名曲。たぶん一度は耳にしたことがある曲です。​「Hangin' Out」ってタイトルはさっき初めて知りました。

あ、ごめん、ヒロインのバフィ(アン・ターケル)のことにあんまり触れてないね。うん、ここもこの映画ではイマイチな部分なんだよね、ゴメン。

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「殺し屋ハリー/華麗なる挑戦」99 and 44/100% Dead/監督ジョン・フランケンハイマー/脚本ロバート・ディロン/出演リチャード・ハリス、エドモンド・オブライエン、アン・ターケル、ブラッドフォード・ディルマン、チャック・コナーズほか/98分

じつはわが家にこんなペーパーバックが埋もれていたんですが、これ未翻訳なんですよね(読んでないけど) ロバート・ディロンの脚本をノベライズしたものです。まあ公開当時の状況を考えれば無理もないか。でもポケミスあたりで出ていてもおかしくはなかったですかね。著者はマックス・フランクリン

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マックス・フランクリンなんて作家、知らないよねと思ったら、『クランシー・ロス無頼控』という短編集がポケミスから出ているリチャード・デミングのペンネームだそうです。日本では短編の翻訳しかないようだが(でも多数ある)長編の著作も多く、このノベライゼーションもそのひとつ。ほかにも「チャーリーズ・エンジェル」や「刑事スタスキー&ハッチ」なんかのノベライズも手掛けているとか(いずれも未訳) へえ、そのうち読んでみようかな。

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