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未発売映画劇場「サント対ドクター・デス」

サント映画完全チェック第43弾。1974年11月にメキシコで公開された「Santo contra el doctor Muerte」 英語題は「Santo vs. Doctor Death

ドクター・デスといえば、プロレスラーのリングネームやキャッチフレーズではポピュラーなもの。過去には複数のドクター・デスが存在しているが、なかでも日本でいちばん有名なのは、スティーブ・ウィリアムスの異名としてだろう。

うーん、強そうだ(ホントに強かった)

1980年代から新日本プロレスの常連外国人となり、1990年代に入ると全日本プロレスに転じ、四天王時代の最強外人として長く活躍した。パワーとスピードを兼ね備え、必殺の高角度バックドロップは「殺人バックドロップ」と呼ばれて猛威をふるい、三沢光晴らを大いに苦しめた。チャンピオンカーニバル優勝、三冠王者獲得と大活躍し、プロレスファンには忘れられない外人レスラーの一人だ。

ドクター・デスはアメリカマットでの異名で、日本では直訳した「殺人医師」が親しまれていた。強いガイジンを具現した最後の世代の外人レスラーだったかな。晩年は癌に侵され、2009年に惜しくも49歳の若さで死去してしまった。

という名レスラーとはもちろんまったく関係なく、前回のフランケンシュタイン博士に続いて、またまたマッド・ドクターとの対決だ。サント映画に限らないが、ドクターってけっこう悪役をふられることが多いようだ。そういえば、メキシコの名レスラーであるドクトル・ワグナーも悪役のイメージが強いな。メキシコではリアルなドクターにも悪者が多いのかな(笑)

前回に続いて、とかさらりと書いたが、じつはこの映画は前回の作品よりも前に作られていたらしい。そして、スペインとの合作、というよりも、ほとんどスペイン映画。なので、メキシコ公開に約1年ほど先立って、1973年12月にスペインで公開されている。

毎度おなじみのサント映画テイスト

といっても、内容はこれまでのマッド・ドクターと対決するサント映画と変わらず、怪しげな実験をくりかえすロベルト・マン博士ジョルジュ・リゴー)の秘密の城に乗りこんで、その悪業を粉砕するだけ。シンプルといえばシンプルなもんだ。

まあ少しは変化がつけてあって、マン博士はいかにもマッド・ドクターらしく拉致した美女を解剖して内臓を取り出したりするのだが、あくまでそれは趣味らしい。彼の「本業」は、なんと美術品偽造なのだ。

冒頭、警戒厳重なマドリッドの美術館に「ミッション・インポッシブル」のトム・クルーズよろしく侵入した怪盗(マン博士の甥らしい)は、なぜか何も盗まずに、展示中の名画にスプレーでペイントらしきものを噴射するだけで脱出する。

損傷した名画はすぐに名高い美術品修復師のもとに持ちこまれるが、その修復師こそがマッド・ドクターのマン博士その人なのだ。博士は名画を修復すると見せかけて、作品のコピーを製作して本物とすり替えるのが最初からの狙い。

名画はメキシコで公開されるべく運び出されるのだが、その際の鑑定でニセモノであることが判明する。問題を重視したインターポールはマン博士を調べるべく、ちょうどスペインに遠征中だった腕利きエージェントに調査を指令する。はい、そのエージェントがサントですね。サントは地元スペインのエージェント9004(カルロス・ロメロ・マルチェント)を相棒にして博士を調べ始めるが……

助手席がエージェント9004

サントがどの程度この作品の撮影に参加したかわからないが、じつは出番はそう多くない。映画の中盤からは、マン博士の城に潜入した女性エージェント(ミルタ・ミレール)の活躍が主となって、サントは後方支援に回ってしまうからだ。

地道な後方支援

ということで、なにかサントは影が薄いんだが、ラストのアクションで大きな見せ場が用意されている。

城を脱出して湖の上をモーターボートで逃走するマン博士の甥で助手ピーター(アントニオ・ピカ) それを追うサントも、なぜか都合よくそこにあったボートで猛追する。追いすがるサント艇に拳銃を乱射。するとラッキーにも1発の銃弾がサント艇のエンジンを直撃する。湖上に立ち往生するサント。そこへインターポールのヘリコプターが飛んでくると、9004が縄ばしごを投下する。飛びついたサント、今度は宙づりのまま追跡再開。追いつくと大胆にもボートに向けてダイブ。さすがはサント、みごとに着艇すると、船上の白兵戦に!

という大アクション、多少のもたつきは感じるものの、まずまずの迫力で見せてくれる。

このシーン、どうやらサントはスタントを使わずにすべて自力でこなしているみたいだ。いや、たしかにマスクさえかぶればサントに見えるからスタントマンが演じている可能性もあるんだろうが、たとえばボートから縄ばしごに飛びつくシーンの独特のもたつきかたは、逆にスタントマンじゃなくてサント本人がやっているリアル感が凄い。

しかし、この映画の時点ですでにサントは50代半ば(1917年生まれ)のオッサンだったはずだ。そう思えば、大したもんじゃないか、サント御大。

サント、スペインに立つ

舞台は、当たり前だが、すべてスペイン。観光地とか名所旧跡が出てくるわけでもないが、演じる俳優たちも、サント以外はほとんどスペイン人の俳優たちだ。まあ、話す言葉も同じスペイン語だからね。彼らの多くはヨーロッパやハリウッドの映画にもちょこちょこ出演していて、意外なくらい日本でも見られているが、それほど有名な存在ではない。上記した俳優名、知ってるのある?

そうはいっても印象に残る人もいて、博士の助手で冷酷な美女を演じるヘルガ・ラインはなかなかの見もの。眉一つ動かさずに美女たちを解剖しては臓器を取り出し、その死体を処分したりとS系ビューティーの魅力を存分に振り撒いてくれる。

ライン嬢、生まれはドイツで、ポルトガルでデビュー、その後はスペインで活動し、数多くのホラー、スパイもの、ウェスタン、スリラー映画に出演したそうだが、残念ながら日本ではほとんど知られていないようだ。

左がライン嬢。マスクの下に美貌あり

というわけで、メキシコ映画ほどのノンビリさはないものの、スペイン映画だからという特徴もほとんど見せず、けっきょくはいつものサント映画になっていた。安心したよ(笑)

地味なジャケットデザイン

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