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怪奇ナントカ男

「ザ・マミー」のおかげで、この間はミイラ映画を俯瞰してしまいましたが(肝心の「ザ・マミー」はまだ見てないんだけど)、ちょっと前までは甦ったミイラのオバケは「ミイラ男」と称していましたね。ま、今回のはそもそも「男」じゃないそうですが。

いにしえの怪奇映画では、こうした「ナントカ男」っていうバケモノが、けっこういましたね。とくに、動物と人間のハイブリッドなやつ。

代表にして元祖なのはたぶん「狼男」でしょう。

と思ったんですが、映画の邦題タイトルにちゃんと「狼男」が入っているのって、古典的なユニバーサル映画にはないんですよね。

なぜならば、ちゃんと劇場公開されていないから。

ユニバーサルの古典にして、狼男のイメージを作り上げた1941年の「THE WOLF MAN」は日本では劇場未公開。テレビ放送では「狼男の殺人」みたいなタイトルがありましたが。

そのわりにあの毛むくじゃらな面相の狼男が有名なのは、その後にフランケンシュタインやドラキュラなどと共演(?)した一連のシリーズ物が公開されていたからですかね。

だから、きちんと公開されて邦題にも「狼男」が入ったのは、ひょっとしたら英国ハマープロの「吸血狼男」(THE CURSE OF THE WEREWOLF/1961年)が最初だったかもしれませんね。この狼男、べつに血は吸いませんが。

狼男映画の嚆矢とされる1935年の「WEREWOLF OF LONDON」の邦題が「倫敦の人狼」だったように、狼男という名前よりも「人狼」のほうがかっこいい気はしますし、その後何度かブームが来る人狼映画でも「ハウリング」みたいなタイトルのほうがいいんですかね。コメディタッチになると「狼男アメリカン」なんてのはありましたが。

日本の作品でも、手塚治虫は「バンパイヤ」、平井和正のは「ウルフガイ」ですもんね。

「狼男」という表記がタイトルとして使いにくいのは「狼」の字が、とくに低年齢層にはちょいと難読だったからかな。かといって「オオカミ男」「おおかみ男」ではコメディっぽ過ぎるしねえ。

そのほかの「ナントカ男」といえば、私的には前にもちょっとご紹介した「ハエ男」がありますが、これまたもっとも怖い第1作「THE FLY」(1958年)は劇場未公開。「ハエ男の恐怖」はテレビやビデオでのタイトルですね。その後の続編は「蠅男」表記もあったし、リメイク版は「ザ・フライ」と、「ナントカ男」路線は避けられているようです。

ほかにもワニ男とかヘビ男とかクモ男とかもあるんですが、どうもきちんと劇場公開されていないものばかり。ま、考えるだにB級な作品が多いせいでしょうかね。あ、ノートルダムにいるあいつは「政治的に正しくない」うえにハイブリッドではないので対象外ね。

そんななかで堂々と邦題にも「ナントカ男」がついてきちんと公開されているのが、1956年のメキシコ映画「LADRON DE CADÁVERES」 原題はスペイン語で「死体泥棒」の意味ですが、邦題は堂々と「獣人ゴリラ男」

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例によって何考えてるのかわからない科学者が、盗んできた死体にゴリラの脳を移植するというお話しなので、無理のない邦題ですね。その前の東宝映画「獣人雪男」(1955年)の影響ありありですが。

そんな「獣人ゴリラ男」ですが、じつはメキシコ・ファンタ映画の歴史的には意外と重要な作品。問題のゴリラ男のベースになるのは、屈強な死体を求めた博士が最終的に成功する、プロレスラーの死体。

なぜか脳を移植しただけで、ゴリラの凶暴性のみならず、風貌や体躯までが表出するのはご愛敬。

で、映画終盤、ゴリラ男はレスラーとしてプロレスのリングに上がってファイトするのであります。そりゃ強いよな、フィジカルだけは。

というわけで、多くの本物のレスラーも登場。

そう、この映画、メキシコ伝統のルチャリブレ映画とホラー映画の合体版の、どうやら最初の一作らしいのです。

ルチャ映画最初の一作といわれる1952年の「暴風仮面ウラカン・ラミレス」についてはこちらで書きましたが、その映画と、ルチャ映画を定着させたエル・サントものの第1作「Santo contra cerebro del mal(サントと悪の頭脳)」(1958年)の間に位置し、両者をつなぐ存在といえるのが、この「獣人ゴリラ男」ではないでしょうか。

いままではもっぱらホラー映画の文脈で語られ、それゆえあまり重視されることのなかった「獣人ゴリラ男」ですが、そんな意味もある映画だったんですよ。いや、そんな大した映画ではないですがね(笑)

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