ミイラ伝説
映画「ザ・マミー」が公開されている。
いまさら言うまでもないが、このコンテンツは少なくとも4回目の映画化。なかなかどうして、根強い人気のあるネタなのだ。
つまり、この世には4本の「THE MUMMY」という映画があることになる。
そのおおもとになったのは、1922年に発掘された後に次々と関係者が急死した「ツタンカーメンの呪い」騒動。→【詳しくはこちら】
一大センセーションを巻き起こしたこの事件を、大胆不敵に脚色したのが、10年後の1932年に製作された「ミイラ再生」だ。ドラキュラ、フランケンシュタインで大当たりをとったユニバーサル映画が、さらなる怪奇映画として製作し、またまた大ヒットした。
それまでの2大スターはいずれも原作小説のあるものだったのに対し、現実の事件をもとにしたとはいえ、より自由に作れるのは魅力だったのかもしれない。
古代からよみがえるミイラ男に扮したのは、フランケンシュタインの怪物を演じて人気者になっていたボリス・カーロフ。
その後にミイラ役をロン・チャニー・ジュニアらに交替して、「ミイラの復活」(THE MUMMY'S HAND/1940年)、「ミイラの墓場」(THE MUMMY'S TOMB/1942年)「執念のミイラ」(THE MUMMY'S GHOST/1944年)「ミイラの呪い」(THE MUMMY'S CURSE/1944年)といった具合にシリーズ化されたが、ストーリー上は「ミイラ再生」とは直接の関係はない(いずれも日本では劇場未公開)
1940年代まででユニバーサル映画の怪奇路線がお休みに入り、再び眠りについていたこのミイラ男を呼び起こしたのが、やはりドラキュラ、フランケンシュタインの2大スターを復活させた、英国のハマー・プロだったのは、当然といえば当然だろう。
1959年に製作された「ミイラの幽霊」では、ミイラ男にクリストファー・リー、考古学者にピーター・カッシングという黄金コンビが主演した。
当然のようにヒットし、ユニバーサルと同様にシリーズ化されたが、黄金コンビは出演していない。「怪奇ミイラ男」(CURSE OF THE MUMMY'S TOMB/1964年/日本劇場未公開)「ミイラ怪人の呪い」(THE MUMMY'S SHROUD/1967年)と続いている。
そして1970年代には、ふたたび悠久の眠りに戻ったミイラ男だったが、みたび復活する。
1999年の「ハムナプトラ/失われた砂漠の都」では、ユニバーサル映画に返り咲き。
大掛かりなアクションやCGが盛り込まれ、ホラーよりもアドベンチャー映画に変貌した感もあったが、これまたヒットし、「ハムナプトラ2/黄金のピラミッド」(THE MUMMY RETURNS/2001年)「ハムナプトラ3/呪われた皇帝の秘宝」(THE MUMMY: TOMB OF THE DRAGON/2008年)と続編が作られたほか、「スコーピオン・キング」(2002年)などのスピンオフ・シリーズやアニメ版まで登場したのは記憶に新しい(でもないか)
おわかりだろうか?
ここまで製作されたミイラ映画は、すべてヒットしてシリーズ化されているのである。ハズレなし。なかなかないよ、こんなネタは。
ということで、今回の「ザ・マミー/呪われた砂漠の王女」も、ヒットは約束されたようなものなのである。
さて、今回の「ザ・マミー」が画期的なのは、邦題に「マミー」の表記が入ったことだろう。これまでの映画では原題が「THE MUMMY」なのにもかかわらず、日本語タイトルの表記はすべて「ミイラ」だったのだ。
ご存知のように、乾燥保存された死体を英語では「mummy」というのだが、日本では「マミー」といえば、やさしいお母さんのことかお菓子の商標が浮かぶせいか、タイトルは「ミイラ」とされてきた。今回その前例が覆されたのは、それだけ日本人の英語力が増したってことなのか。
ところで、なぜ「mummy」が「ミイラ」なのか知ってる?
はい、乾燥死体を「ミイラ」というのは、じつは日本語なんですね。江戸時代初期あたりから使われているそうだ。
そのもとになったのは、乾燥死体ではなく、そのために使用する「没薬」のポルトガル語である「mirra」からきたという(異説多し) どこでどうなったのか、いつの間にかその語が乾燥死体「mummy」のことになってしまったというわけだ。
日本語にはしばしばある、外国語の誤輸入の一例だ。
漢字でミイラを書く場合は「木乃伊」(ちゃんとワープロ変換できます)と書くのだが、これもまた知らないと読めないような当て字っぽい。
これは、もともとは中国語の直輸入で、本来は「ムーナイイー」みたいな発音をするそうだ。語源はやはり「mummy」と同じのようだな。
つまり日本語では、乾燥死体を指す場合に「ミイラ」と間違った語を語源にしたのに、漢字表記だけは正しい中国語の「mummy」から「木乃伊」を当てているのである。
「木乃伊」を「ミイラ」と、いささか無理筋な読みかたをする羽目になった理由は、ここにあったのだ。
まこと、言葉というのは生き物で面白いね。
と書いてきてなんだが、私はまだ「ザ・マミー」を見ていないのである。どんなことになっているのか、見にいかねばいかんな。
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