ミイラ再生
数ある「呪い」や「たたり」の話のうちでも、もっともセンセーショナルかつ印象が強いのは、やはり「ツタンカーメンの呪い」をおいて他にないでしょう。
1922年の11月、考古学者ハワード・カーターは、かねてより調査中だったエジプトの「王家の谷」において、ツタンカーメン王の墓の発見、発掘に成功する。
きわめて稀なことに3000年以上にわたって盗掘を受けていない手つかずの墳墓だったことから、そこで発見された財宝やミイラともども、たいへんなセンセーションを巻き起こした。
ところが発掘成功の直後から、発掘を支援していた英国貴族のカーナボン卿を始め、次々と関係者が急死し、なかには原因不明の病気にかかった者もいたために、墓を暴いたものに対するファラオの呪いであると大々的に報じられた。
というのが、「ツタンカーメンの呪い」のあらまし。私が子どものころに愛読していた類いの怪奇本には、必ずこの話が出ていたものです。今でもけっこう怪奇話のスタンダードになっています。
3000年の時を経てなお発動する呪い、自身の死後も影響をおよぼす王の超常的パワー、古代エジプトという神秘の響き……まあ、子ども心をがっちりつかめる要素がよく盛り込まれた、非常に優れたお話しですね。
今日では検証がなされ、「ツタンカーメンの呪い」は、その大半が当時のイギリスの大衆紙の報道から出ていること、そしてそのほとんどが完全な偶然か、強引なこじつけであったことは明らかになっています。
つまり、東京スポーツの見出しレベルのものだったんだな。
まあ当時もすでに「呪い」への否定的な見解は多く出ていて、たとえばシャーロック・ホームズの生みの親である作家コナン・ドイルは「呪いではなく、盗掘を防ぐために致死性の毒が墓に仕込まれていたせいだ」という説を唱えたとかいう。
何千年も効果のある毒薬って、それ充分に「呪い」じゃないかとか思うが。
子どものころに読んだある本では、こうして「ツタンカーメンの呪い」の話をひとわたり紹介したあげく、こう結んでいた。
呪いが本当にあるとすれば、墓を発掘した主導者であり、一番先に墓に入った考古学者ハワード・カーターこそが呪われたはずである。だが、彼はその後も健康で生き続け、天寿をまっとうしている。
このテの本ではめずらしい全否定ですね。
私もいたく同感し、以後この「ツタンカーメンの呪い」は、私のレパートリーからは消えました。
さて、最近評判の英国製テレビドラマ「ダウントン・アビー」。
20世紀初頭のとある英国貴族の一族やその関係者のさまざまな人間関係を描くこのドラマを一家で楽しんでいるのですが、ドラマのロケ地を紹介するテレビ番組が放送されたので、見てみました。
どう考えてもセットやCGではなさそうなダウントンの館は、番組によるとやはり実在する貴族の屋敷を借りてロケしているのだかとか。
ふーん、やっぱりそうなのか、道理で重厚さが違うよな、などと思って見ていました。問題の館は英国ハンプシャーにあるハイクレア城というところで撮影されたそうで、ドラマのエピソードの一部には、実際にこの館で起きたことをモデルにしたものもあるようです。
で、この城の当主はカーナボン伯爵で、伯爵自身も紹介番組でインタビューされ、城の中をいろいろ紹介してくれてました。そうか、「ダウントン・アビー」のおかげで観光客も殺到し、おかげで修繕費や維持費が出せて、館を売らずにすんだのか……ん? カーナボン?
そう、なんとあのドラマのロケ地の城は、あの「ツタンカーメンの呪い」で、発掘を支援し、発掘後に急死したために、すべてのきっかけとなったあの「カーナボン卿」の城だったんです。
これはけっこうビックリ。
ちなみに、あの「カーナボン卿」は第5代で、現当主は8代目だそうです。
それにしても、「呪い」で当主が死んだはずの伯爵家が、その後いろいろあったとはいえ、いま現在も健在だということで、「ツタンカーメンの呪い」伝説は完全に打破されたということになるんですかね。
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