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初収穫

先週の事だが、今年初の収穫があった。
収穫するブドウはシャルドネという品種で、今回はスパークリングワイン用に1500キロを収穫する。
10人ぐらいの人が来て、1日の作業量だ。
先ずは下準備で収穫場所のネットの覆いを外し、ブドウを入れるコンテナを畑に点々と置いていく。
そんなことをしているうちに人がやってきて作業が始まった。
今回は収量が少ないので、働く人は全てボランティア、ワインメーカーの知り合いとか近所のおばさん連中である。
作業もわりとのんびり、おしゃべりをしながらする。
当然ながら美味そうなふさを味見しながら作業をする。
甘みはほどほど、酸味が効いていて美味い。
もっと時間が経つと甘みが増えていくがスパークリング用なので早めに収穫をする。普通のシャルドネの収穫はもう少し後だ。

思えばここの畑で働き始めたのが冬。
ブドウの事など何も分からず(今も分かってないが)言われるままに剪定の仕事をした。
切った枝を取り払い、ワイヤーに縛り付ける作業を何千本もやり終えた時には嬉しかった。
そして春が来てブドウが芽吹き、根っこから出てくる脇芽を切る作業。
春から夏にかけては、成長に合わせワイヤーに木を挟み込む作業。
そして夏の盛りには、実の周りの葉っぱを手でもぎる仕事を娘と一緒にした。
実が熟してきたら、鳥に食べられないようにネットを張る作業をしたのはつい最近のことだ。


この数ヶ月、いろいろあったなあ。
自分の身の周りもいろいろあったし、社会的にも国際情勢もいろいろあった。
いろいろありすぎて、それぞれの出来事が実際に自分の身に降りかかる感覚が薄れている。
個々の出来事は小さくはないのだが、次から次へと事が起こりあっというまに忘却の彼方に葬られてしまう。
忘れてしまうものもあるが得るものもある。
知識である。
ラジオを聴きながら作業をするので、歴史にはある程度詳しくなったし、経済も哲学も社会学もその流れで学んだ。
今まで見られなかった視点で世界や自分を取り巻く環境を見ることができるようになったのは大きな変化である。
特に社会の構造と自分がどこに位置するかという点を考えるのが楽しい。
社会とは小さな範囲では家庭もそうだし、所属するクラブ、学校や会社、友達付き合い、地域社会、果ては国際社会までありとあらゆるものが社会だ。
それらの構造を理解することにより、俯瞰的にものが見られる。
自分の視点だけだったものから、相手の視点を知ることにより、より相対的に考えるようになった。
相対的に物を考えるという点では、人間界と植物の世界の対比が面白いと思う。
植物の世界とは、すなわち自然界だ。
人間界ではいろいろ大変なことになっているが、ブドウから見ればそんな事は知らん。
その場から動けないブドウが感じるのは、暑い寒い水が多い少ないというような事だ。
放ったらかしにすれば病気にもなるが、手をかけた甲斐あって今年は病気にもならず、ブドウはたわわに実った。
成長を一部始終見てきた僕にとっては、素直に嬉しい。


みんなが収穫を始めると、ブドウが入ったコンテナを回収する作業になる。
4輪バギーの後ろにトレーラーを付け、コンテナを積んでいく。
一つ一つのコンテナは12〜3キロぐらいでそれほど重くないが、とかく量が多い。
その間にもボランティアの人が指を切っちゃったからバンドエイドを欲しいとか、こっちでコンテナが足りないぞとか、モーニングティーの準備とか、裏方はいろいろと忙しい。
それでもお昼頃には予定していたエリアの収穫を終えた。
お昼はみんなはワインを飲みながらワイワイとやるのだが裏方はゆっくりしていられない。
午前中の収穫の総量を測ってみたら990キロだった。
この日の目標は1500キロ。というわけで別の畑の収穫の準備。
ネットを上げて、必要な分のコンテナを振り分けていく。
みんなはお昼にワインを飲んで気持ちよくなったのか、午後の作業はペースが落ちたが、それでも夕方には無事予定の収量に達した。
ボランティアの人たちはお土産のワインをもらって帰って行き、今年初の収穫は無事終了した。

数日後に絞ったジュースを飲ませてもらった。
先ずはガツんとくる甘さ、そして広がる酸味。
やや甘みが勝るが素直に美味い。
これから発酵の過程でこの甘さがアルコールに変化して酸味が残るんだな、きっと。
自分が関わった最初のワインであるから、うちにも1本記念に取っておこうかな。
「これってどれぐらいで製品になるんですか?」
「うーん、3年後かな」
「・・・・・・」
今回はスパークリングワインを作るので、瓶内二次発酵というやり方でやる。
安いスパークリングワインは炭酸ガスを注入して作るが、本来のやり方は出来たワインを瓶に詰めその中で再び発酵させ炭酸ガスを発生させる。
僕が家でビールを作るやり方と同じである。
ビールの場合は瓶内二次発酵は家庭で作る場合がほとんどで、市場に出回っているビールは全て炭酸ガスを注入するやり方だ。
だがワインの場合は逆で高級ワインは瓶内二次発酵で作る。
ワインを瓶に詰めて寝かせる期間が2年ぐらいだと言う。
そりゃあ高いわけだな。気の長い話だ。
一度、そういうやり方で作ったピノ・ノワールのスパークリングワインを飲んだが、確かに美味かった。
そしてそのワインは簡単には手が出ない値段でもある。

とにもかくにも初収穫が終わり、次の収穫まではちょっと間が空く。
次はピノ・ノワールの収穫だが、まだ糖度が足りないらしく収穫は3週間ぐらい先らしい。
それまではノンビリと大好きなコテンラジオを聴きながらネットの穴を紡ぐ日々だ。
コテンラジオではマルクスとエンゲルスの資本論を最近聞いたが、近々ロシアとウクライナの歴史を発表するそうだ。
これまたとても楽しみである。
外部から知識を得ることは、歳に関係なく感じられる人間の喜びである。
ブドウはそんな事知らんという様で、実を熟させていく。
秋が近づいてきている。


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