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#18. 皮肉の正しい使い方


人間には三大欲求をはじめとした様々な欲があるけれども、そのうちの一つに、「他人(ヒト)にひとこと物申したくなる欲」というのがあるかもしれない。

そう疑いたくなるほど、ぼくたちは自分の目の前にいる相手が、なにか自分とは違う考えを持っていると、「いやでもそれは......」と食ってかかって、(聞かれてもいないのに)自分の考えを述べたがるし、

相談事を聞けば、(詳しい事情を把握する前から)「それならこうするべきだよね」などと、(やはり聞かれてもいないのに)自己流のアドバイスを提供したがる。

そういった行為自体が悪いということはないし、その手のやり取りが全くなければ会話は成立しなくなってしまう。また、そこでもらった言葉に収穫があることも無くはない。

だがやはり多くの場合には、ひとが誰かに物申すとき、それは相手の反感を買うものである。

自分自身が「物申さない」ようにするというなら、単に日頃から意識していればいいことなのだが、逆に相手から「物申されて」腹が立った場合には、どのような切り返しが考えられるだろうか。

先日 YouTube を開いていたら、以下の動画が目に入ったので観てみた。タイトルは What to respond when someone is RUDE - Funny English Comebacks for Insults(失礼なひとへの対応の仕方:無礼に対する面白い英語の切り返し表現)。

以前書いた記事(「皮肉の達人」)でも紹介した通り、こういう「自分の気に食わない人を遠回しに批判する技術」において、イギリス人の右に出る者はいないだろう。

動画では、イギリス人の Lucy さんが、誰もが経験したことのある 7 つの無礼を取り上げて、それぞれに対する切れ味バツグンの切り返しフレーズを提案している。

たいへん残念なことに、この動画にはまだ日本語字幕がついていないので、以下でそれぞれの私訳とともに、これらの鋭いフレーズのうち、個人的に気に入ったものを 4 つ、紹介していこうと思う。


1. 誰かが求めてもない意見を言ってきたとき

もしも誰かが、こちらの服装や暮らし方、または結婚するかしないかとか、まだ独身であること、あるいは子どもがいるかどうかなど、そういったことに対して求めてもない意見を言ってきたとき、次のように言い返すのはどうだろうか。

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Do you remember when I asked for your opinion?
Me neither.

あなた、わたしがいつあなたに意見を求めたか、覚えてるかしら?
あいにく、わたしも覚えてないの。

相手に大きなダメージを与えつつ、こちらは心でほくそ笑むことのできる、全くもって素晴らしいフレーズである。

とどめの "Me neither" を、相手の目を見つつ、本当に思い出せないような感じで言うのが重要だ。


2. 誰かが自分の無知を露呈しているとき

話し相手が、政治や時事ネタ、またはその場で話されていること対して全く的外れな意見を披露してきた場合、そんな相手の無知を次のように指摘して差し上げるのも一つの手だ。

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You have your entire life to be an idiot,
so why not take today day off?
あなたは一生をかけてお馬鹿さんになろうとしているのね。
ちょっと今日くらいお休みをとったらどう?

(ぼく個人としては)こう言って大喧嘩にならないのか少々疑問に思うところだが、たしかに(その勇気さえあれば)このように言いたくなる状況もある。

やはりとどめの "so why not take today day off?" を、相手を心から心配しているかのように深刻な表情で言うのが肝だろう。


3. 誰かがわざと小難しい言葉ばかり使ってくるとき

自分を賢く見せるために、相手がわからないことをわかっていてわざと、小難しい言葉ばかりを使う人というのは、やはりどこにでもいるものである。そんな話し相手を一言で撃ち落としてみせるには、次のように言って差し上げるのが効果的だ。

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It's a lot of fun watching you try to fit your entire vocabulary into one sentence.
あ~なんて楽しいの、あなたが持てる全ての語彙をたった一文に詰め込もうと腐心しているのを見るのは。

言われた相手は二度と、難しい専門用語を使おうとはしなくなるはずだ。

自分の知識をひけらかし、勝手にマウントを取ってくるような輩には、即座にこのフレーズを言い放ってみるといいだろう。


4. 誰かが心の狭さを露呈しているとき

人種差別や性差別、体形で人を判断したりする人。そういった狭量さを持つ人たちの話を聞くのは、いつだって御免である。器の小さい人々には、ぜひ次のように言って黙っていただこう。

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If only closed minds came with closed mouth.
心の狭い人たちは、お口も閉じればいいのにね。

違う価値観を受け入れられない閉じた心の持ち主は、同様に口も閉じていたなら言い争いは無くて済む。平和解決を切に願った極めて穏便な(?)切り返しである。

「いや別にあなたに言っているんじゃないんだけど......」という感じで独り言的につぶやいてみるのがいいだろう。

...... まあもちろんいくらイギリス人とはいえ、このような言葉を日常的に使って生活しているのではないだろうが、それにしてもこの発想力。

普段から相手がグサッとくるフレーズを考えていないと、とても浮かんできそうにない。憎たらしい相手に会うたび、最も酷に響く皮肉を頭で考え、心の中で笑っているのかもしれない。

動画を観てもらえればわかるが、視聴者に皮肉を紹介しているようでいて、誰よりもこの Lucy さんが一番楽しそうなのだ。

発音や語彙・単語のつづりなど、イギリス英語を志す人たちが意識することは山ほどあれど、こうした皮肉がサラッと言えるようになってこそ、一人前のイギリス英語スピーカーとなるのかもしれない。

「あらそんなことができたくらいで、一人前を気取るだなんて......」と、本場のイギリス人からは、冷ややかな視線を浴びるかもしれないが。

※皮肉の名手 Lucy さんにまだまだ皮肉られたい方はこちら(「『調子どう?』なんて聞いてくれるな」)を参照。


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