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7月1日~30日の詩(Nos. 83~98)

作品No. 83(7月1日)

旅に出られるのは身体が痛くないからで
本が読めるのは心に隙間があるからで
人を愛せるのは愛されたことがあるからで
未来が怖いのは明日が来ることを信じているから


作品No. 84(7月2日)

蝉の殻が腹を見せて
朝のアスファルトに長い影を落としている
琥珀を透かす儚い薄緑
詰まったままの夢


作品No. 85(7月3日)

記念日は
行動を起こすための口実

カレンダーが真っ白だって
行きたいところへ行ってもいいし
欲しい物を買ってもいいし
ありがとうって伝えればいいのさ


作品No. 86(7月3日)

完璧な人間にはなれないけれど
欠落を満たして満月になりたかった

有能で
思いやりがあり
人を楽しませ
出しゃばらず
いつも笑顔で
愛嬌を振り撒き
機転が利き
友達は多く

それは
テレビで祀り上げられた誰か
大人が向ける期待の圧力
浴びた罵倒の裏返し

あなた自身は
どんな自分になりたいの?


作品No. 87(7月5日)

劣等感を突きつける現実
耳を塞ぎうずくまり
遠ざけようと叫ぶ君

僕に何ができるだろう
君は君のままでいいなんて
言えば必ず嘘になる

僕は君の叫びに怯え
君から逃げてしまったのだから

君を否定した僕に
今さら何ができるだろう


作品No. 88(7月5日)

たとえどんなに辛い目に遭って
どんなに傷付いて
どんなに同情の余地があったとしても
立ち止まり子供のままでいることを
選んだのは君自身

怯える心を奮い立たせ
動かぬ足を引きずって
歩き出すことを選べるのも
ただ君自身だけ

前に進み
苦しみを捨て
幸せになることを
君に許しておやりなさい


作品No. 89(7月6日)

不満を持っても表に出さない
あなたは十倍返しして
あるいはきいきい泣き喚くから

大好きなものを知られてはいけない
あなたの嫌いなものだから

本当の感情は誰にも内緒
あなたの感情に同期して見せる

仮面を着けて演じる家族
台本に書かれた愛

仮面の下はのっぺらぼう
顔を取り戻そうともがく


作品No. 90(7月7日)

美しい人は互いに似ている
美しくない人は似ていない

健康の形はだいたい一つ
不健康の形は無限

健全な愛は凡庸な白
歪な愛は千紫万紅

真円と呼べるのはただ真円のみ
逸脱を個性と呼ぶのなら
人の数だけある苦しみの象徴


作品No. 91(7月18日)

扱い方を知らない幸福か
手に馴染んだ不幸か
選択できるのは本人だけ


作品No. 92(7月18日)

全身火傷のただれた肌には
そよ風さえも赤熱の溶湯
繊細なのは傷付いているから
傷付きやすいのはもう傷付いているから


作品No. 93(7月25日)

現実から両脚を浮かせ
頭を妄想の雲に埋め

切れ切れの夢を見るように
幻の唄を聴くように

脳を麻痺させ
脊髄反射でやり過ごす

虚ろといえども
それもまた幸福か


作品No. 94(7月26日)

「わがまま」は神さまを表す言葉

上機嫌なら太陽の恵みを
不機嫌ならば雷を
おもねる者に褒美を
理解を超える者に罰を

言われなくとも神さまを満たせ
満たせなければ邪魔者だ
権威を傷付ける者を滅ぼせ

糸に絡めて他者を傀儡に
快と不快の単純な審判
「神さま」は幼さを表す言葉


作品No. 95(7月27日)

彼を辞めた彼/彼女の
希望の煌めきを伝える画面に
「おかしなことになってるね」と
白い目で言い放つあなた

あなたの娘さん
おかしなことになってますよ
何十年も昔から


作品No. 96(7月28日)

男運が悪いんじゃない

選んでしまった自分の責任

愛されないことを選ぶよう
愛さず育てた親の責任

愛することを教えずに
親を育てた祖父母の責任

支配を愛と
服従を愛と
言い換えてきた世界の責任

責任を取って連鎖を断ち切る
責任を取って幸せになる


作品No. 97(7月29日)

私の表層には女がいる
ガラスの肌は
どんな言葉にも動かない
引き攣った笑みのまま
侵入を拒む透明な要塞

要塞の真ん中には少年が潜む
ガラス越しの光に灼かれ
透明な床の下の闇に震え
視線に怯えて縮こまる
繊細で憂鬱な
感情の塊

ようやく傷を癒やし
立ち上がる少年は
出口を見つけられるのか


作品No. 98(7月30日)

いつだって讃美歌が聴こえている
物語に、芸術に、音楽に、娯楽に、
広告に、規則に、笑顔に、涙に、
あなたの言葉の通奏低音に

あなたの中の衝動を
崇め讃え、誰かと確かめ合って構いません
ただひとときの静寂をください
私はその神を知りません

「恋」

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