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【小説】溺れない花(水仙と水草のわかり合えない話)

 水仙の花が泉を覗き込むと、水草が薄黄色い楚々とした花を咲かせていた。

「あの花はどうして溺れないのだろう。重たい水に閉じ込められて、繊細な花弁も軸も潰されてしまいそうなのに」

 水仙は軽やかな風に揺られ、しっかりと張った根に力を入れて背筋を伸ばした。

「あの花はきっと、罰として苦しみの中に閉ざされているのだ」



 水草の花は揺れる水面の向こうの水仙を見上げた。

「あの花はどうして乾き切ってしまわないのだろう。優しく体を支えてくれる水もないのに、どうして立っていられるのだろう」

 水と一緒に水草は揺れる。泉全体が同じリズムでゆらゆらと踊っている。

「あの花はきっと孤独だろう。硬く、強く、独りで立たなければならないから」



 見つめ合う二輪の花。その間にある境界面を水鳥が乱し、互いの影は散り散りになった。

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