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6月13日~29日の詩(Nos. 71~82)

作品No. 71(6月13日)

わたしは蜘蛛の巣
そばにいる巣を土台にして
掛けられた同心円の網

見渡す限り連なる網の雲
わたしの隣にはあなた
境目も無い糸のつながり

突風があなたを連れ去った
わたしの一部を引き裂いて

あなたが抜けた空白を
勤勉な蜘蛛がちまちま埋める
いつかわたしが去るその時まで


作品No. 72(6月14日)

僕がいなくなった後は
楽しい思い出だけ飾っていてね

痛くて苦しくて
吐き出した恨みは
死神の腹話術だよ

一緒に笑ったあの時が
君の愛した穏やかな日々が
一番本物の僕だから

だからどうか
僕の笑顔だけ信じていて


作品No. 73(6月16日)

終わらない喪を生きている
もう失うのはごめんだと
叫びながら生きている

喪明けを待たず次の喪に入り
死者の白布幾重にも重なり息を詰まらせる

彼岸に逝く日を待ちながら
自らを生かす絆を断ち
静かに消え入る終焉を望めど
余った時間は長過ぎて

喪に飽いて
青空の下へ
戸惑いながら
新しい生


作品No. 74(6月20日)

血を流し続ける傷に包帯を巻いて
平気な顔して人混みに紛れる

よう、と知人が肩を叩く
呻きを殺す
温かく濡れる包帯

早く行こうと誘われて
痙攣のような笑みを必死で返し
追い縋るも背は遠く

雑踏の響きが
風のゆらめきが
剥き出しの神経をいたぶって

気付いて誰かと内に叫んで
無色の顔で一人


作品No. 75(6月21日)

壁のない語らい
包み合う手と手
許しと祝福の涙から
そっと目を逸らす

現実は張り詰めて
噛み合わない視線
口にできるのはあなたの欲しい言葉だけ
あなたが栄光を得るために
耳を閉ざして演じる偶像

求めては傷付き
絶望の上で微笑んでいるのに
いつかまた手を伸ばしてしまう
希望という残虐な罠


作品No. 76(6月21日)

誰より近くでずっと見てきた
伏せた怒りも悲しみも

誰より貴方を嫌っていた
あの人の期待通りに踊れない貴方を

誰より貴方を殺したかった
誰より貴方を愛したかった
誰より貴方を救いたかった

誰より貴方をわかりたい
生き抜いた傷を
勇気を
努力を

鏡の中の私が貴方
私は貴方の味方になりたい


作品No. 77(6月22日)

二人きりの裁判が始まる
まず告発の一言を
遮り被告の意見陳述

こんなに辛くて大変で
なのに原告は身勝手で
あげく責めるなんて酷過ぎる

最後は涙の身の上話
見えない傍聴者を味方につけて
裁判長の役目も負って
自身に下す無罪判決

無辜を起訴した罪を問われ
背に増す重力に項垂れる原告


作品No. 78(6月24日)

小学校で粘土細工
お題は楽しい時
横になりテレビを見る
にっこり笑った母と私
上手にできて得意顔

ちょっとやめてよそんなもの
母の言葉に気持ちが砕ける

こっちにしなさいよと
差し出された遊園地の思い出
母の自慢
幸せの見本

私の幸せ
私の感情
勝手に決めて
お人形遊びは楽しかったですか


作品No. 79(6月25日)

花や蝸牛を浮き彫りにしたトンネル
紺碧の海の縁で拾う貝殻
露天の湯にのぼせて上がる大岩
澄んだ空と豊かな緑の狭間の霊峰
涼しげに乾いた空気
夜風に炭の匂い

あの場所が故郷だったのだ
暮らしたことは無くっても
心の根を張る場所だったのだ


作品No. 80(6月26日)

量産型の材木から削り落とす
どうにもしっくり来ない贅肉
不相応な暮らし
愛を知らない伴侶
女の髪
偽りの平和
献身の皮をかぶった憎しみ

削り出される魂の造形
本来の私


作品No. 81(6月27日)

閉ざされた孤独の中
唯一の穴に捩じ込まれた腕が
遮二無二描く紋様に
才能があって羨ましいなど
どうして言えるのか

削った生骨の白と
憎悪と怨嗟の慟哭の藍と
飢えた血反吐の紅が
美しい色彩の正体とも気付かず

平凡でくだらない
ありふれた幸福を
何より焦がれる彼らの前で
無神経に見せつけて


作品No. 82(6月29日)

攻撃こそが最大の防御
間違いを指摘される前に
傷付けた罪に問われる前に
虚構を暴かれる前に
後悔を思い出す前に
先回りして潰しておくのだ
枠を揺るがすものは消え
己を変えよと迫る倫理は沈黙
誇らしげに安住

裸の王様
透明な衣装を守るため
処刑台の血は乾く間もなく

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