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8月1日~10日の詩(Nos. 99~112)

作品No. 99(8月1日)

我慢していると
人に優しくできなくなる

我慢することは
規範の檻を閉じ
正しさの鎖を巻き
纏足を誇ること

檻を壊そうとする者を
嫉妬し憎み排除すること

飛び方も知らないのに
自由の空に放り出されるのは
何より怖いから

我慢することは
自分を嘘に塗り込めること
魂を飼い殺しにすること


作品No. 100(8月1日)

あの頃僕は生きてなくて
人肌の悪夢を食い繋いでた

あの頃君は貪欲に生きてた
24時間じゃ足りないくらい

君はなぜか僕の手を取り
僕は身に余る恩寵の
返礼に必死で

君が疎んだ陰気なあの子を
追い出した僕の弱さ
女神の微笑に眩んだ偽善

僕によく似た不器用なあの子と
もっと話していたかった


作品No. 101(8月2日)

「男・女」の性別欄
「女」を丸で囲うたび
怯えた侵入者の心地がする

身を潜めて
「女」の仲間に入れてもらって
ここにいてごめんなさいと
祈っていることも知られないように
笑って俯く

胸も子宮も卵巣もあるし
生理だって来るんだから
嘘じゃないって叫んでみても
どうしたって嘘だと知ってる


作品No. 102(8月3日)

クーポンの期限は昨日まで
悔しいから別の店に行く
浮かれた文字が
ごみ箱の中から
無邪気に僕を見上げている


作品No. 103(8月4日)

月に握られる特別な臓器から
悲鳴と共に絞り出される淀んだ海

かつて招き入れた異物の蒼い匂いを拭い
水底で微笑む祝福の赤

僕を母にできるのは狂気だけ
暗い隘路を黄泉に繋げて
孕むのは束の間の追憶

僕は母を追放する
正気の核から引き剥がそう

僕は母を抱きしめる
僕ではなくてあなたが母だ


作品No. 104(8月5日)

気のせいと言われてしまえばすべて気のせい
おためごかしより
直観を信じろ


作品No. 105(8月5日)

自分を疑える強い人でありたい
あらゆる事実を仮定と知り
反証可能性を手放さず
覚悟と勇気の工具箱を手に
吟味し
受け入れ
切り捨て
補完し
より真実に近いほうへ
真の喜びに近いほうへ


作品No. 106(8月6日)

祖母の記憶の中のあの日
ゴム手袋みたいな皮膚の人達が
水をおくれと呻いてた

お国のためなんて建前も
早期終結のためなんて言い訳も
聞かせてくれるな
無数の怒りの墓標の前で

日常が根こそぎ焼き払われて
ただ生きていた人達が
ただ意味も無く死んだ
青空に呪われた今日のこの日に


作品No. 107(8月7日)

貴方と私の関係は
まさにあの婚約指輪です

私は要らないと言ったけれど
後からグチグチ言われたくないと
女は欲しがるものだからと
貴方は知らない男を信じ
私は未来の私を疑い
貴方を想って受け取りました

私に心があることを
知らなかった私と貴方
確かにとってもお似合いでしたね


作品No. 108(8月8日)

貴方のようにはならないと
誓って生きてきたけれど
私は貴方によく似ています

それでもやはり

誰の苦しみの口も塞がず
理不尽の中継役を辞め
他者の幸福と救いを想い
己の幸福と救いを目指し

埋もれた道を足で探り当てながら
裸で歩んでいきたいと

そう思った時点でもう
私は貴方とは違います


作品No. 109(8月8日)

己の存在を許せなければ
人生丸ごと黒歴史

無様な仮面で取り繕って
やることなすこと恥の上塗り

仮面の下の無邪気な顔を
笑われ責められ心配されて
仮面の脱ぎ方さえ忘れたけれど

欺瞞と正当化で塗りたくられた顔よりは
頼りないすっぴんのほうが美しい


作品No. 110(8月10日)

伝えたいことなんて初めから無かった
理解されたいという衝動だった
他愛もなくて拙い語りに耳を傾けてくれる誰かが必要だった

気付いて僕は小説をやめた
何者でもなくなることを自分に許した
詩という形に縋って理解者を求める寂しい凡人になった


作品No. 111(8月10日)

君はいつだって率直だった
単純な羅列を暗号と見て
復号した幻の君を抱きしめた僕は大馬鹿だ

率直に僕を小馬鹿にしていた
率直に僕を無視していた
君の言葉を信じたくなかった

傷付かないためにかけた
お人好しの色眼鏡に
縋るのも大概にしておけよ


作品No. 112(8月10日)

アルビノの蛇が神の使いになるように、
「特殊」と「特別」には互換性がある。

「特殊」を「異常」とみなされないために、
僕は「特別」を目指すしかなかった。

狂気を天才性に、
欠損を祝福に。

僕が狂っても欠けてもいないと教え、
平凡に堕とし安住させた、
「多様性」という言葉。

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