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木の生き方
樹木は一個の生命体でありながら外界に開かれている。
木は様々な生き物に寄生を許す。古い木の表皮は苔や地衣類や茸で覆われ、洞には鳥や小動物が住み着く。数多くの虫が見えないところに潜んでいる。食害には化学物質を出して対抗もするが、少しくらい他の生き物に侵食されても平気な顔をしている。
木自身も多くを取り込んで生きる。動物の死骸から養分を吸い、岩を呑み込み、時に他の木と融合する。根は地中の菌類を介して森中と繋がっているという話もある。
植物に自我があったとしても、自分の身体が自分のものであるという感覚がきっと樹木には存在しない。互いに侵食し合い、絡み合った複合体の中で、自己のグラデーションが濃い部分が何となく個体として認識されるのかもしれない。
大らかに自己を分け与え、貪欲に他者を取り込み、年を経るほど森そのものに同化していく。
身体の一部を切り取られても木は死なない。真っ二つに分かたれても死なない。侵食の度合いが個体を維持できる限度を超えた時、森に溶けて曖昧に死を迎える。
苔の髪を生やし、ヤドリギのピアスを着け、肋骨の鳥籠にフクロウを住まわせることは人間にはできない。けれども人間だって互いに侵食しながら生きている。侵食し合わなければ生きられない。はっきり区別できる自己なんて本当は存在しない。生きているだけで自己を分け与えている。多くの自己を受け取っている。
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