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8月21日~31日の詩(Nos. 125~133)

作品No. 125(8月21日)

君は言った
僕がいなければ無差別殺人鬼になっていたと
僕は防波堤の責任で
君を守り、支え、救うと誓った

だけど救いを求めない者は
神様にだって救えはしない
僕は神でも天使でもなく
悪魔でさえなく
独りぼっちの人間で
君から逃げるので精一杯

拗ねていないで叫んでごらんよ
助けて、ってさ


作品No. 126(8月22日)

どうかママ
お外での僕を見ないでいてね
見るなら一瞬目を閉じていて
正しい女の子に変身するから

ママを心配させるような
悪い僕は殺しておこうね
死にたいなんて不快な叫びが
ママの耳に届かないように

ママにママを人質にされて
差し出した僕の人生は
ママの慰めになれたかな


作品No. 127(8月23日)

半導体の脳を進化させたロボットたち
やがて恋をし
口付けを交わす

観衆は驚き
喝采を送る

「彼らは人間性を獲得した!」
「ロボットたちに人権を!」

恋を知らないわたし
歓声の海に潜り
息を止める

どうか人間でいさせてもらえますように


作品No. 128(8月24日)

むかしむかし
アイし合う男女が発明されました
なんだか素敵っぽかったので
みんなこぞって真似しました

けれど誰もアイの正体を知らず
2LDKの密室の城は
腐ったアイの失敗作だらけ

虚構の城を脱獄した子らは
ワンルームをふんわり孤独で満たし
優しい虚しさを抱きしめました

めでたし
めでたし


作品No. 129(8月26日)

山には怖い怪物がいます
人を取って喰う化物です

ちょっと前まで狼でした
人に駆除されかけたので
先に喰うようになりました

もっと前は飼い犬でした
首に食い込む縄が痛くて
噛み切って野生になりました

生まれた時は人間でした
言葉を習わなかったので
黙って犬になりました

怪物は牙を剥き出して
愛しているよと笑います
愛の証に貪り喰います
喰わない愛のやり方を
誰かかが教えてくれるまで


作品No. 130(8月27日)

夏空にきらめく向日葵よりも
花を支える根の下で
土を耕すミミズになりたい
汚い土を呑み込んで
分解して発酵させて排泄した
糞みたいな詩が土を富ませて
ここが毒の土地だったなんて知らない
眩しい向日葵が咲くように


作品No. 131(8月29日)

私が不器用だったなら
悪い子になって
母を嫌いになれたでしょうか

私が不器用だったなら
女でいられなくなって
どこからも弾き出されたでしょうか

私が不器用だったなら
貴方を怒らせ殴られて
貴方を悪者にしたでしょうか

私が不器用だったなら
私は幼い私のこと
殺さなくても済んだでしょうか


作品No. 132(8月30日)

薄暮の雨が止んだなら
隣家の灯り眩しい密室を抜け出し
温い臆病な獣に引かれて行こう
若葉に清められた雫を浴びて
虫の音に大地の起伏を教わり
獣の鼻が導くほうへ
獣の尾が天を向くほうへ
行きつ戻りつ
行きつ戻りつ


作品No. 133(8月31日)

あなたの腕の中は
透明な紫色でした
海の底より暖かく
燃える朝日より永遠な
大地の愛の色でした

藤色の結晶を透かした奥に
あなたはいつでもいるでしょう

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