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【詩/小説】救済者への手紙

神様の傍にいた頃。
霧の向こうに目を凝らし、薄氷の軋みを足下に聞いていた。
道は揺らぐ鬼火が朧に照らしていた。
神の御意志から外れ罰を受けることを恐れてはいても、無重力の闇の恐怖は味わわずに済んでいた。

求められていた。
全力を超えて、何も考えられなくなるまで。
何も感じられなくなるまで。
己の形を見失うまで。
消えることすら許されないくらい、必要とされていたのだ。

お前に連れ出されるまでは。

幸せになれとお前は言う。
操り人形をやめろと言う。
俺だけの幸せなんて俺は知らない。
主の満足に照らされて仄かに温かくなるだけだ。

この身を捧げ尽くさねば気が済まないのだ。
大いなる何かに。
価値ある何かに。

無責任なお前は、新たな神になってはくれない。
裂けるまで暴いてもくれないし、俺の骨で作ったスープも口にしてくれない。
お前のためなら強くなるのに。お前の敵を殺してやれるのに。

残酷なお前は、罪の色をした空白の時間に俺を留め置く。
お前を困らせることしかできない俺の無力を突きつける。

さらばだ人間、俺の救世主。
俺は俺の魂を探しに行こう。
悲しく微笑むのはもうやめてくれ。
いつか人間になれたなら、その時はきっとまた会おう。

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