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幕末の京都で血の雨を降らせた新選組

大河ドラマ『新選組!』をはじめ、
現在でもさまざまな表現、メディアで
取り上げられる題材。
皆様もよくご存知かと思います。

◎泣く子も黙る局長、近藤勇!
◎「鬼の副長」こと、土方歳三!
◎洛中きっての剣の使い手、沖田総司!

この三人(のキャラ)を中心に、
隊士たちの悲喜こもごものドラマが、
色々なクリエイターの主観(妄想?)に
よって生み出されているわけですが、

本記事では、司馬遼太郎さんの小説である、
『燃えよ剣』ならびに『新選組血風録』の
描写やイメージを踏まえて、

新選組という集団について、書いてみます。

まず、本記事で使う言葉の確認から。

①ファミリー
②コミュニティ
③チーム


この三つの言葉、概念を使います。

①ファミリーとは、家族的な関わり。
②コミュニティは、共同体的な関わり。
③チームは、機能、目的集団的な関わり。


そう仮に定義してみます。すると真っ先に
「③チーム」が、私には思い浮かびます。

と言いますのも、新選組は
①ファミリーと②コミュニティ全盛の
江戸時代の中、
(各藩は、〇〇家中と呼ばれています)、
恐ろしいほどの「尖った組織」、戦闘集団、
③チームとしての側面を持っていたから。

小説内では、その組織を作り上げたのが
副長の土方歳三、ということになっています。
そのままの文章を引用するのは憚られるので
要約して書いてみますと、

◆「藩」という組織がある
◆「藩主」という存在がある主従関係
◆これは、組織としては不合理な面が多い
◆独創的な体制を考案する必要がある

そこで歳三は、会津藩を通して
外国軍隊の制度などを聞き、
独自の新選組の「組織」を整備します。

…そう、新選組は、西洋流の
合理的な風味も加味している。
そりゃ、強いはずです。

ここで補足しておきたいのは、
歳三は元は農民兼薬屋の出であって、
純粋な武士の家の出ではない、ということ。

土方家には、家伝の薬「石田散薬」がある。
この薬を作るのに、歳三は小さい頃から
人を動かし、使った経験がある、と
司馬さんはその筆で紹介します。

要約して書きますと。

◆土方家では、この薬の原料となる
草の採集期や製剤のシーズンに、
村じゅうの人数を集めて作業を行っていた。
◆歳三には、この人数の採用、人事、運用、
すべてを行っていた経験がある。
◆だから、歳三は人を動かすのが巧み。

土方歳三には、人事経験があった。
その経験の上で、西洋流の組織論を踏まえ、
「新選組」を考案した…という流れ。

このあたりのキャラ設定や展開の巧みさ、
表現の仕方、もう唸るばかりですね。
読者の納得感が、半端ない。

話を戻しますと、新選組、かなり機能的。
③チーム色が、強い。

例えば、敵に相対するとき、
必ずしも一対一の戦いを奨励してはいない。
基本、「三人で一人の敵」に向かう。
卑怯な手も使う。暗殺っぽいことも行います。

生粋の武士なら「メンツ」もあるので
一対一の白昼堂々の戦いに
固執するかもしれません。
歳三のつくった新選組は、そうではない。

複数、集団の強みを、柔軟に引き出す。
だからこそ、新選組は幕末の京都で
その名を轟かした、とも言えます。

さて、その新選組の背骨とも言えるのが、
「局中法度」という「ルール」です。

新選組は、剣の腕に覚えのある人が
全国から集まってできた集団。
それだけだと、バラバラ、烏合の衆。
だから、歳三は厳しいルールを作った。

◎士道に背かないこと
◎局を脱することは許さないこと
◎このルールに反した者は死罪 …など。

この「鉄の掟」によって
新選組は「戦闘集団」になっていきます。

…はい、ここまでだけなら
「うん、新選組は、③チームだね!」
で終わり、なのですが。

さすがは司馬さん、そういう
ドライでサバサバな面だけを書くわけではない。
①ファミリー、②コミュニティにつきものの、
ウェットでディープでネチネチした側面も
新選組にはあったんだよ!

小説のストーリーを通して、表現していく。

◆新選組を牛耳っているのは、
天然理心流の同郷仲間たちだった。
近藤、土方、沖田、井上。
◆局の機密は彼ら「だけ」で握っている。
◆たとえ江戸以来の同志であっても、
コアな部分には接することができない。
◆実は、強烈な「郷党閥」
「流儀閥」の意識で新選組は動いていた。

…これ、組織あるある、ですよね。

合理的なシステム、ルールを作っても、
それを実際に運用し、働くのは
「心情を持った人間」。

そして、人間には、凸凹があります。
好き嫌いがあります。
それぞれに、地理と歴史を持っています。
ゆえに、人間の集団にはカルチャーがある。
にんげんだもの、です。

フラットで適材適所にドライに運用している、
と見せかけ、その裏の部分では、
代表者の思想、コネ、地縁血縁、情念、学閥、
心理的なあれこれが左右することも、多い。
ただの平隊士(従業員)と、
創業コアメンバーとでは、扱いが違う…。

②コミュニティが同じだった
「郷党閥」の仲間意識は強いものです。
他のコミュニティの人にわからない、
暗黙の了解、共通の記憶があります。

それは時には、ブラックボックスで排他的。
(ましてや、新選組は江戸時代のお話)

なお、ここで補足しておきます。
「流儀閥」という言葉が出てきますが、
「神道無念流」とか「北辰一刀流」とか、
剣術の流儀が、幕末には各藩の枠組みを超えた
選択可能なコミュニティを形成していました。
(それらに比べると「天然理心流」は無名)

近藤たちとは流派が違う人は、
機密には触れられないんですね。

局長の近藤勇の疑似父性を頂点とした
①ファミリー(ここでは家族というより
マフィア的な意味)のような面を持つ新選組。
②コミュニティも、③チーム的な要素も、
実は、混然一体となっていた集団!
そのカルチャーに合わない隊士は、消される。

…ただ、彼ら自身も、明治維新の激動の中で
時代の波に飲まれ、消えていきます。
新選組が活躍したのは、約六年に過ぎない。

そんな儚い隊士たちの生き様、ありようが
司馬さんの巧みな筆にかかって
(もちろん創作や虚像も交えて)蘇り、
現代、令和時代の私たちにも、
色々と考える材料を与えてくれる…。

最後に、まとめましょう。

本記事では、司馬さんの小説描写を題材に、
新選組という集団の諸側面を書きました。

さて、読者の皆様の「集団」、
「団体」「組織」はいかがでしょう?
どんなチーム、機能で動いていますか?
隠れた郷党閥や流儀閥は、ありますか?
「情実人事」は、ありますか?
どんな要素が、強い集団ですか?

…集団内のルールに背き、
「死罪」になることは、ないですか?

以上、SNSという集団、コミュニティ内の
「アカウント凍結」とは、ある意味、
「局中法度」に背いた「死罪」だよな…
という発想から、書いてみました。

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