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スティーブン・ホーキング。
1942年~2018年。
「車椅子の物理学者」としても有名です。

1959年、17歳で地元の
オックスフォード大学に進学。
1962年、ケンブリッジ大学の
博士課程に進み、宇宙理論を研究します。
この頃、筋萎縮性側索硬化症を発症。
しかし彼は病気にひるむことなく、
1965年には「ブラックホールの特異点定理」
という研究結果を発表し、
有名な理論物理学者になりました。

すごい人。不撓不屈。

ただ、難しいことを難しく研究する、
というだけではないところもすごい。
一般の人向けに、難解な理論的宇宙論を
簡明に解説することもできた。
『ホーキング、宇宙を語る』
各国版に翻訳されています。

そんな彼の名言が、こちら!

◆「Intelligence is the ability to adapt to change.」

何と訳しますか?

◆intelligence=知性
◆ability=能力
◆change=変化


…『adapt』ってどんな意味?
アダプトと言えばアダプター?
コンセントを差し込んで使うやつ…?

はい、ここでは「適応させる」とか
「うまく状況に合うように順応させる」
という意味になります。
つまり、こういう意味の名言。

◆知性とは、変化に適応する能力のことです。

前置きが長くなりました。
本記事では「adapt」について
掘り下げて書いてみたいと思います。

そもそも「adapt」という英語は、
「aptus」というラテン語の形容詞が元。
「aptus」=適した、ふさわしい、フィット。
apとはつかむ、届く、の意味で、
「追い求めて届く」から変化したもの。

ここから「aptare」調整する、適合させる、
という言葉が生まれ、さらに
「ad」という「~に」という方向を表す
言葉がくっついて、adaptare、
「~に調整して適合させる」という言葉ができた。
これがフランス語のadapter、
英語のadaptへと変化したそうです。

「じゃあ、家庭の電気機器に使う
『ACアダプター』はどう生まれたんですか?」

…そもそも「AC」って何?
私は恥ずかしながらわかりませんでした。
わからなかったので調べてみた。

「AC」とは交流電気のことです。

電流には「交流」と「直流」がある。
電力会社から家庭に送られてくる電流は
「交流」です。
ところが、ほとんどの電気製品は
「直流」で動くようになっている。

「なぜ、直流のまま家庭に来ないの?」

そう思いましたか?
ここには「配電」に関する理由があります。

一言で言えば「電力のロスを少なくするため」

発電所~電線~家庭、
電気は電線を通してやってきます。
はるかに遠くから旅をしてくる。

電力(W)は、電圧(V)と電流(A)を
掛け合わせたものです。
電圧が高くなれば、電流は小さくて済む。

…問題なのが、電線に電流を流す時には
「電気抵抗」があって電力がロスすること。
電流が大きいと、失われる電力も大きい。

「…なるほど!
つまり、電気を運んでくる際には、
できるだけ電圧を高く、電流を小さくして、
ロスを少なくする
んですね!」

ご名答! いわゆる「高圧電線」です。
1000V×100A=100000Wで運ぶより、
10000V×10A=100000Wで運んだほうが、
A(電流)が少ない。
つまり、ロスが少ない。

ただ、高圧のままの電気だと
家庭機器につないだ時に超危険。
なので「変圧器」で変圧され、
日本の家庭に届く際には低圧に
「適合させられている」。

そう、電柱についている
灰色のバケツみたいな、あれです。
「柱上変圧器」「ポールトランス」。
ロスを防ぐために高圧で流れてきた電気を
低圧に変えているんです。
人知れず、黙々と、毎日。

…ただ、家に着いた段階では
電流は「交流」ですから、
「直流」の電子機器に使うには、
交流を直流に適合させる必要がある。

この役目を担うのがACアダプター。
ACは「交流」、アダプターは「適合」。
ですから「ACアダプター」を直訳すれば
「交流を(直流にして電気機器に)
適合させる装置」
なのです。

はい、ここまで、
「adapt」という言葉の語源と
「ACアダプター」について
書いてきました。

ただですね、adaptという言葉を
英語辞書などで引いてみると、
さらに色々な意味が書いてあります。

①「~に適合させる、調和させる」
②「~を改作する、脚色する、翻案する」

②の意味もある。
例えば、アメリカの映画界、
アカデミー賞には次のような賞があります。

◆Academy Award for Writing Adapted Screenplay
◆Academy Award for Writing Original Screenplay

「アカデミー『脚色』賞」と、
「アカデミー『脚本』賞」。
『Adapted』すなわち、
原作があって、それを「脚色」したものと、
『Original』すなわち、
オリジナルの脚本とが区別されている。

ちなみに明治の日本などでは、
「翻案小説」という
「外国の文学作品を日本風にアレンジした」
小説がありました。
例えば黒岩涙香が書いた『巌窟王』などは、
フランスのアレクサンドル・デュマが書いた
『モンテ・クリスト伯』の翻案小説。

原作そのままだと「高圧」で「交流」で
なかなか伝わらない。
他に接続できない…。
フランスの歴史と地理を踏まえて書かれた
原作の『モンテ・クリスト伯』のままでは
日本人にはうまく伝わらないと考えて、
『巌窟王』へと「変圧」して、
アダプトさせたのが黒岩涙香。

このように「調和させ」「適合させる」
「ACアダプター」のような人は
様々な世界、組織で必要かもしれません。
オリジナルをリスペクトする
強い圧の「愛」が、そこには不可欠ですが。


…最後に、無理やりまとめます。

本記事では「adapt」について、
語源、ACアダプター、文学の面から
掘り下げてみました。

ホーキング博士が言うように
「知性とは、変化に適応する能力」。
人も世の中も宇宙も生々流転、
諸行無常であるがゆえに、
人に受け入れられる形で無理なく
「アダプト」していく必要があります。

ただ、それと同時に、

変えてはいけないこと、
軸として大事なことを、第三者が
「勝手に」変えるのもよくない。
あくまで「調和させる」ことも
大事だ、と思いました。

人と交わって変化する「交流」。
自分を信じ突き詰める「直流」。

どちらも大事…。

「不易」と「流行」との調和
永遠の課題なのかもしれませんね。

ホーキング博士の名言を
もう一つ引用して終わります。

『However difficult life may seem,
there is always something
you can do and succeed at.』

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