自動車事故とモータリゼーション ~歴史・地理・世代の視点から~
最近、悲惨な自動車事故の報道が多いですよね…。「なんで免許返納しないのか」「なぜ右折で焦って曲がるのか」など、事故が起きてから、色々な議論が巻き起こります。この記事では、そもそもこの「自動車社会」がどう成り立ってきたのか、どんな状態になっているのか、地歴(地理と歴史)と世代の視点から考えてみます。
1、モータリゼーション
「モータリゼーション」という言葉を聞いたことはありますか? とりあえず百科事典マイペディアを検索して、引用してみましょう↓。
先進諸国などで自動車が単に輸送機関としてだけでなく,市民生活の中に入り込んできている文化的・社会的状態。自動車の大衆的普及は高度消費時代の象徴ともされているが,これにより旅行その他のレジャーから通勤に至るまで,自動車が活用され,〈マイカー〉という和製英語に端的に示されるように生活に密着する。個人の機動性が高まり活動範囲が拡大されるとともに,真の大量消費社会が出現する,とされる。これとともに道路交通をはじめとする都市問題,公害問題などが自動車を除外しては考えられなくなる。日本では1960年代からモータリゼーションの進行が著しいのに対し,環境整備の立遅れが目立っている。
一言で言うと、「自動車の大衆化」ですね。自動車をみんなが使えるようになる。便利です。それと同時に、課題も出てくる。先ほどの引用文から、要素を抜き出してみましょう。
◆モータリゼーションの長所
1、個人の機動性が高まる 2、活動範囲が拡大される 3、大量消費社会が出現する
つまり、「どこにでも買い物やレジャーに行けて便利!コストコでどっさり買い物しても、マイカーに載せて帰れるから大丈夫!」という感じです。
◆モータリゼーションの課題
1、道路交通などの都市問題 2、公害問題 3、環境整備の立ち遅れ
つまり、「渋滞はひどいし、騒音や排気ガスは出るし、そもそもこの道路、ガードレールが無いのに歩行者が多くて危ないよね…」という感じです。
鉄道網が発達している東京ではともかく、普段から自動車での生活が中心となっている地方に住む方には、とても実感があるのではないでしょうか?
2、歴史的な視点から
では、このモータリゼーションを、歴史的な視点から見てみましょう。つまり、「いつ頃から」進んできたか。最初の引用文にありましたね。
日本では1960年代からモータリゼーションの進行が著しいのに対し,環境整備の立遅れが目立っている。
1960年代と言えば、1964年に東京オリンピックが開催されたことからもわかるように、いわゆる「高度経済成長期」です。このあたりからモータリゼーションが進んでいった。ということは、逆に言うと、1960年代より前は、自動車は移動手段の主体ではなかった。では何が活躍していたかというと、「鉄道=汽車/電車」です。
日本初の鉄道と言えば、1872年(明治5年)の新橋~横浜間! 「汽笛一声新橋を~♪」の鉄道唱歌が有名ですが、上に挙げたひろやすさんのコラムによると、それ以前にも長崎で走らせたこともあるようです。ただ、いずれにしても明治時代から徐々に鉄道が発達してきた、と言えます。いわゆる「文明開化」で、西欧の良い技術はどんどん取り入れる。
では、江戸時代以前はどうだったのか。もちろん「駕籠」とか「牛車」とかの乗り物はありますが、基本は「徒歩」です。江戸時代には街道が発達して、「お伊勢参り」などもさかんで、みんなは徒歩で移動していた。関所などはありましたが…。
まとめてみましょう。陸上においては「主な移動手段の変遷」があった。
◆徒歩(自分の足で歩く)
↓(明治維新→文明開化)1870年代~
◆鉄道(公共の交通機関でみんなで移動する)
↓(高度経済成長→モータリゼーション)1960年代~
◆自動車(マイカーで個人的に移動する)
現代では、特に地方では「移動=自動車」という感覚ですが、歴史的には徒歩や鉄道が主体の時代が長かったんですね…。自動車主体=モータリゼーションが進んでから、まだ100年たっていないわけですから。ですので、解決されていない問題が多いのも、当たり前と言えば当たり前かもしれません。
当然、「どの段階でできた街か」によって、自動車の通りやすさとか、モータリゼーションへの対応などが変わってきます。
一例を挙げますと、江戸時代からの城下町の都市に行くと、やたらと通りにくい道路が出てきます。これは、敵から攻められないように、わざと曲がり角を多くして、通りにくくしているんですね。東京なども、江戸城中心の街づくりでしたから、とにかく通りにくい、渋滞が多い、事故も起こりやすい。
逆に、京都などは「碁盤目状の道路網」で最初から都市が設計されていますから、通りやすい。その代わり、自分がどこにいるのか、慣れてないと迷う。1960年代以降に建設された、茨城県つくば市の筑波研究学園都市などは、最初から電車に頼らない(そもそも最初は鉄道駅が無かった)街づくりを進めてきたので、道路が異様に広くなっています。最近では「つくばエクスプレス」が開通しましたが、どちらかというと駅が従で道路が主、という位置づけです。
このような話題は、実用地歴の達人、街歩きの達人のタモリさんが語る『ブラタモリ』で、たくさん聞くことができますのでぜひ↓。
3、地理的な視点から
次に、地理的な視点から、このモータリゼーションを考えてみます。
「ドーナツ化現象」という言葉を聞いたことはありますか? もう一度百科事典マイペディアから引用してみましょう。
地価の高騰や生活環境の悪化は都市住民を郊外へと移動させる。そのため都心の夜間(居住)人口が減少し,都市郊外や衛星都市の人口や施設が増大する。その結果,都心部の居住コミュニティが空洞化し,都市がドーナツ状に郊外化する現象のことをドーナツ化現象という。この傾向は大都市のみならず,中小都市にも見ることができる。その際に生じる中心部,とりわけ都心の外周地域の〈ゴーストタウン〉化(インナー・シティ問題)など都市の衰退が問題となっている。
…?? わかるようなわからないような。かみ砕いていきましょう。
「地価が高い!」「不便!」だということで、都市の住民は郊外に移動する→都心に(夜は)人がいなくなる→周りの地域に人口が増える→都心は穴が開いた感じになる→上から見るとドーナツに見える。という感じですね。
確かに東京で考えると、確かに東京駅のあたりとか新宿都庁のあたりとか、人は多いですけど、そこに住んでいる人はあまりいなさそうですよね。地方で考えてみても、以前は鉄道の駅前を中心に都市が形成されていたのが、今では郊外のニュータウンや大型ショッピングモールなどに人が集まっていますよね。駅前は逆に閉店する店も多い。
こちらのブログ「地方で暮らしちゃえば? -新潟のポテンシャル-」の記事が、とても参考になります。ぜひお読みください↓。
これには、最初に挙げた「モータリゼーション」の影響も大きいのでしょう。それはそうです。車が移動手段の主体になれば、ごみごみした駅前よりも、広々とした郊外の方が使いやすい。駐車場の問題もあります。地価が高ければ駐車場代も高いため、コストがかさむ。ならば、無理して中心地に住むよりも、郊外で住んだ方が良い、となる。住民が減れば、店も減る。
これらの状況をひっくるめて、地理的な視点からモータリゼーションを考えると、「鉄道駅を中心とした街づくり→便利な道路を中心とした街づくり」に変わってきていると思われます。駅前の衰退、シャッター商店街などの問題が起きているのも、むしろ時代の必然ではないでしょうか。
4、世代的な視点から
ここで視点を変えて、「世代的な視点から」モータリゼーションを考えてみましょう。
自動車を自分で運転できるのは、当然、自動車免許を持っている人です。免許は何歳から? 取得できるのは18歳からですね。上限は? 最近は「免許返納」という問題が取り上げられていますが、基本的に年齢制限はありません。ですが、肉体的に衰えがくる80歳代からになると、徐々に運転は控えてくることが多い。
となると、「18歳未満」「18歳~80歳」「80歳代以上」の人口がどれくらいその地域にいるかによって、モータリゼーションの影響が異なるのではないでしょうか。言葉を変えると、多少の誤差はありますが、「未成年者」「働き盛り」「高齢者」の割合です。
一般に、都会に行けば行くほど若者が多くなる、地方に行けば行くほど若者は少なくなる、と言われます。地方では、未成年者と高齢者の割合が多い。当然、少子化が進んでいますから、高齢者しかいない地域もある。
その中で、マイカーを持つことが基本の街づくりが進められていてはどうなるか? 未成年者と高齢者にとっては、誠に不便になります。ローカル鉄道は廃線が多い。バスは採算が取れないから縮小される。不便だから、「おら、こんな村いやだ」と高校卒業と同時に都会に出てくる。不便だからマイカーに頼らざるを得ない高齢者は、80歳を超えても免許は返納できない。
モータリゼーション=自動車が無くては生活が成り立ちにくい、が進んだ現在では、ついつい自分の世代からだけの視点で考えてしまいがちですが、他の世代の視点に立って考える必要もありますね。
なお、ローカル鉄道は廃線が多い、と書きましたが、茨城県のひたちなか市では、赤字路線から延伸にまで業績を回復した鉄道もあります。あくまで地域密着がカギ。ご参考までに↓。
5、まとめにかえて
色々な視点から「モータリゼーション」について考えてみました。さて、あなたの住む地域はどうでしょうか? どの段階でできた街ですか? まだ駅前は賑わっていますか? シャッター商店街になっていませんか? 世代別の人口割合はどうですか? 高齢者ドライバーの割合はどうですか? そしてそれらのことを、どの程度まで住民は理解していますか?
今さら、自動車無しの社会に戻すことはできません。しかし、自動車事故などの悲惨な問題を防がなければならない。ならば、まずは自動車が当たり前の社会=その前提のモータリゼーションについて考えた上で、色々な問題を考えていくべきだと思います。
そのためには、自動車だけではなく「鉄道」をはじめ、他の交通手段についても、しっかり考える必要があります。「徒歩」「自転車」はもちろん、まだ実用化はされていませんが、空を飛ぶ「ドローンの乗り物版」の開発も進められていますので…。
終わりに、鉄道の可能性について考えさせられる、この漫画を紹介します。鉄オタ(鉄道オタク)の国会議員が、ひたすらに鉄道について熱く語る漫画です。鉄道を活用した観光や街づくりなどにも言及されています。読むだけで鉄オタ気分が味わえます!
ここまでお読みいただき、ありがとうございました。