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短編小説

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2019年12月の記事一覧

北向きの2畳部屋

北向きの2畳部屋

20年以上たった今でも、キンはその部屋の情景を思い出すことができる。

広さはわずかに2畳。2畳である。北向き。小さな窓。机を置けば残されたスペースは、ほとんどない。しかも独占できるわけではないのだ。その部屋には同居人がいた。2人で割ればたったの1畳。畳一枚分の生活。

しかし、キンは何とも言えない自由な空気を満喫していた。

生まれたときから波乱含みだった。母親は高齢出産。五男として生まれたキン

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月見て一杯

月見て一杯

春はあけぼの。

今期入社の若者たちが慣れぬネクタイやパンプスに身を包み、急ぎ小腹を満たさんと、駆け寄る先は立ち食いそば。常連の先達に恐縮しつつ、おそるおそるの食券出し。それを受け取るおばちゃんの、温かくもきびきびとした手先にセミプロの心意気を見る。

今日も一日が始まる。あの先輩の課題は終わらず。あの上司の目線は気になる。朝の月が沈まぬ時間、早くもささくれだつ神経を、きつねそばのじゅわっとしたお

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死人に脳は残る

死人に脳は残る

僕は、ある温泉街に来ていた。ここに来るのは二度目。少々凹むことがあり、人生に疲れていた。散策するうち、その立て看板を見かけた。

「最新最後の記憶、あります」

町の通りに先ほどまでいた人影は、いつのまにか消えていた。白昼のゴーストタウン。木戸を開くと、中には一人の老いた男が座っていた。

「…待ってたよ」

何を待っていたのだろうか。しかし僕はその言葉を聞き、磁石に引き寄せられる砂鉄のように、店

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