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いなお@『ミシェルとランプ』連載・小説PDF ココナラで販売中/実用地歴提案会ヒストジオ
2019年12月28日 06:03
20年以上たった今でも、キンはその部屋の情景を思い出すことができる。広さはわずかに2畳。2畳である。北向き。小さな窓。机を置けば残されたスペースは、ほとんどない。しかも独占できるわけではないのだ。その部屋には同居人がいた。2人で割ればたったの1畳。畳一枚分の生活。しかし、キンは何とも言えない自由な空気を満喫していた。生まれたときから波乱含みだった。母親は高齢出産。五男として生まれたキン
2019年12月8日 05:17
春はあけぼの。今期入社の若者たちが慣れぬネクタイやパンプスに身を包み、急ぎ小腹を満たさんと、駆け寄る先は立ち食いそば。常連の先達に恐縮しつつ、おそるおそるの食券出し。それを受け取るおばちゃんの、温かくもきびきびとした手先にセミプロの心意気を見る。今日も一日が始まる。あの先輩の課題は終わらず。あの上司の目線は気になる。朝の月が沈まぬ時間、早くもささくれだつ神経を、きつねそばのじゅわっとしたお
2019年12月7日 15:15
僕は、ある温泉街に来ていた。ここに来るのは二度目。少々凹むことがあり、人生に疲れていた。散策するうち、その立て看板を見かけた。「最新最後の記憶、あります」町の通りに先ほどまでいた人影は、いつのまにか消えていた。白昼のゴーストタウン。木戸を開くと、中には一人の老いた男が座っていた。「…待ってたよ」何を待っていたのだろうか。しかし僕はその言葉を聞き、磁石に引き寄せられる砂鉄のように、店