音符に書けない音を求める ~野村雅美さんインタヴューVol.1~

 ギタリスト・作曲家・抽象画家の野村雅美さん。現代音楽、インプロヴィゼーション、ミニマルミュージック、絵画、社会制度、環境音楽など広範に語っていただいた。その内容を、Vol.1~3にわたってお届けする。毎月東京阿佐ヶ谷のクラシック喫茶ヴィオロンで行われている、野村さんと演奏家やダンサーとのコラボレーション企画であるComporovisationを通じて、野村さんのファンとなっている方は多い。人のやっていない音楽、と常に語る野生のミュージシャン。各種表現者を包み込むその音楽。

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即興演奏から生まれた独自音楽

————野村さんは各種の共演者と即興などを行うComporovisationの企画をされています。最近気づいたのが、音楽は一つのスタイルのゆったりなミニマルミュージックを弾かれていながら、100人以上の色々な表現者とコラボできてしまっていること。そこに包括性があるということです。そこが凄いなと思っていて。その音楽スタイルをどこでどう考え出されたのか、知りたいです。

 包括性があるかどうか毎月試しているのかもね。俺ああいう音楽やってるからミニマルと云われても仕方ないんだけど。俺自身はミニマル専門のミュージシャンだとは思ってないんだ。最初からミニマルを意識して音の少ない反復の多いのを作っている訳じゃないね。ああいう曲を作りはじめたきっかけが即興演奏。20代後半から30代前半の頃いまは高円寺にある「グッドマン」。昔は荻窪にあったんだけどそこで毎月即興演奏のライブをしていたんだ。そこはフリーインプロヴィゼーションやフリージャズのメッカと云える店でね。
 フリーと言うとフリーキーな感情でガー!ピー!ゴギャン!と演奏するのが多かったけど。俺はインプロやる度に何故か音数が少なくなっていったんだ。人と同じことやりたくなかったというのもあるんだけど。そしてこれ(即興)を曲として成立させてもいいんじゃないかと思ってね。で今のスタイルになったんだよね。ただやっぱミニマル的という面ではモートン・フェルドマンやケージやライヒの影響はあるよね。

————この現代音楽系ミニマル系のスタイルは、いつ頃からとられているんですか。

 アコースティック・ギター・ソロはヴィオロンでやってるComporovisationが来月(2020年9月)で150回で13年位続けてるね。アコースティック・ギターで生演奏でマイク向けないのは15年位前からかな。いま56才だけど40才辺りからかな。それまでは殆どエレキ専門のギタリストだったから。エレキのギター・ソロの頃も地方に呼ばれたりしていたね。ディレイ・ループ使ってリゲティ的なクラスターを表したり(俺はそれを独りリゲティと名付けてる)。あれはダンサーさんとかに受けていてね。地方に行っては一緒にやったりしたよ。エレキ・ソロではインプロ中心でアコースティックで今やっている様な曲を創ってと云うのではなかったね。

セッションギタリストになるまで

————10代の頃は?

 10代の頃は御多分に洩れずロック始まりで。ゼップやキッスやクイーンとか洋楽が好きだったね。日本では第3次?フォーク・ブームだったけどそっちはあまり聴こうとしてなかったかな。後から好きになったけど。俺にはギタリストになるきっかけがあってね。カシオペアというフュージョンのバンドのライヴを中野サンプラザで聴いてショック受けてね。俺もこうなりたいなと思ったんだよね。今でもカシオペアの皆さんには大感謝してる。

————大学の頃からセッションギタリストをされていたんですか。

 大学4年からやってたね。割と多いんだよね。在学中からミュージシャンになる人って。

————ギターはいつから始めたんですか。

 始めたのは13才なんだけど中学の時は野球小僧だったから。ちゃんと始めたのは18才の時。カシオペア・ショックの後ね。つまりちゃんと楽器始めてから3年位でセッション・プレーヤーになった訳だけどそう云う人達も多いんだけどね。何故か3年でプロになると云う道程がね。飯のとき以外1日14時間楽器を弾き続けていたってパット・メセーニが云ってたけど。俺もそんな時期があった。1日14時間練習の時期。色々聞くとそういう人達が楽器奏者になってる感じだね。

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現代音楽との出会いと衝撃

————現代音楽との出会いとか関心のきっかけはありますか。現代音楽の何に打たれたんでしょうか。

 現代音楽を聴いたぞ!って云う衝撃的な事が俺的にはあって。20才位の時なんだけど。車でどっかに行って帰って家の車庫に入れる時カー・ラジオを聴いていて。前田憲男さん(日本を代表するアレンジャー)がパーソナリティーのラジオ。前田さんは「僕はかっこいい音楽と云えばジャズしかないとそれ迄思っていたんだけど。武満徹さんを聴いてなんてかっこいい音楽だ。こんな作曲家が日本にいたんだと思いました」って語ってその後に武満徹さんの「地平線のドーリア」と云う曲を流した。俺もその頃はジャズに洗脳されててジャズこそ頂点なんて思っていたんだけど。「地平線のドーリア」を聴かされて。なんてかっこいいんだ!って身体に電気が走る感じがしてね。車庫入れしてからも聴いてたね。
 あの曲は音の少ない全音符だけの曲だけど他にはないスタイルだった。今では雅楽とかの影響で出来ている様な現代音楽とわかるけどその時は本当に聴いた事のない音楽で。これは凄いなと思ったね。それから武満さんを聴きだして。武満さんはアルバン・ベルクが好きだから。俺もベルクを聴き始めて。そしてベルクの前にシェーンベルクがいて後にウェーベルンがいて。新ウィーン派の3人がありそこから12音音楽が始まりと。そこから現代音楽に入った感じだね。
 12音と云えばそんな感じだけどジャズではフリー・ジャズが理屈からすると12音で。ドレミファでない音楽という意味では現代音楽に入る前からフリー・ジャズで慣れていたね。オーネット・コールマンやドン・チェリーやアンドリュー・ヒルとか好きで。音符的に12音になっている音楽には自然と接していたかもしれない。だからウェーベルンとか始めて聴いた時も自然に入れたね。

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ミニマルミュージックの良さ

———— 一般にミニマルは速目のテンポのものが多いですよね。

 日本の音楽好きの中で云うミニマルはそうだよね。フィリップ・グラス、スティーヴ・ライヒ、テリー・ライリー、ジョン・アダムスとかね。でもご当地のアメリカではジョン・ケージやモートン・フェルドマンなんかもミニマルと云われたりする。確かに「最小限な音楽」だしね。オレの曲では「パープル・リレイション」と云う曲で自らのライヒの影響を感じるね。

————グラス、ライヒとかもお好きですか。

 さっき云った通りライヒには影響受けたよ。「エレクトリック・カウンター・ポイント」と云うライヒがパット・メセーニのために書いた曲があってね。これはやられたな!こんな曲創る奴が既にいたんだ!畜生!と思って。それ迄はライヒを知らなかったんだけど。やられたなと思ったよ。

————電子音楽もミニマル多いと思うんですけど、アコースティックのミニマルのよさは、繰り返しているけど個々は揺れがあってヴァリエーションが出ているのがよさになるんでしょうか。

 オートマティックになって自分では制御出来ない感じになったり。音符では表せない要素があるね。繰り返している内に、ただ繰り返しているのではなく足されていく感じもあって。坊さんじゃないけど「無」になるとか「無の境地」と云う時間になっている方が凄い演奏が出来ている気がする。雑念が無いと云うかな。何も考えていないけど弾いていると云う時間ね。


音符に書けない音を求める~野村雅美さんインタヴューVol.2~

 音符に書けない音を求める~野村雅美さんインタヴューVol.3~


◇本インタヴューの主旨は、現代芸術活動のアイデア、現代芸術の魅力をどう表現できるか、また社会にあるとよいシステムについて、関係者から話を集めること。それを記事にして共有することにより、現代芸術活動のやり方の体系をつかみ、うまく社会の中で演奏家なり作曲家なり表現者が動くための素地をつくることにあります。引き続き各演奏家、作曲家等の方々にインタヴューをしていきます。


                   2020/8/29 渋谷ルノワールにて

           話し手:野村雅美 ギタリスト・作曲家・抽象画家
           聴き手:北條立記 チェロ奏者・ライター


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