地産地消の持続可能な音楽とオーケストラ ~近藤浩平口述シリーズ第1回~

 多くの作曲家や演奏家の活動は、作曲と演奏のみにとどまる傾向がある。その中で作曲家の近藤浩平氏は、地域の文化経済、オーケストラ運営、子どもの音楽教育に関しても、考えをめぐらしている人だ。現代音楽のマネジメントや教育上の停滞と限界を超えようとするかのような、先鞭をつける発想を述べられている。深い音楽史的知識もあわせもつ、日本作曲界における魅力の人。インタヴューで口述していただいた内容を、数回にわたって連載します。

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1 地産地消の持続可能な音楽

 近年、わたしは音楽と文化の地産地消、それによる持続可能な文化というものを考えている。
 音楽の地産地消の考え方の基本は、ローカルなものこそグローバル、グローカルなものこそ世界に通用する、というものだ。

その地を代表する地産の音楽

 ある場所に、その時代のそこで生まれその場所を代表する音楽があるとする。そのときその音楽を演奏するオーケストラは、その地のオーケストラがふさわしい。だから逆に、ある場所のオーケストラが演奏するにふさわしい音楽は、その地に代表の音楽があれば、それだともいえる。
 たとえば、ヘルシンキへ行くとシベリウス、プラハへ行くとドヴォルザークというように、自分たちの文化の音楽をやっている本場がある。そのため、われわれは、本場のものを聴きたいと聴きにいく。逆に、日本のオーケストラがヨーロッパでベートーヴェンやったとしても、あの極東のオーケストラも頑張って仲間に入ってきたけど、自分たちの世界、世界の音楽史に何かを加えたものがないよね、ということになりかねない。
 その地の代表の音楽とは、この2020年においてここにしかない、というもの。地域にとっての価値やアイデンティティを表現し、社会的文化的精神的な重要性をもち、これが世界に知ってもらうべき自分たちを代表する文化だ、というものだ。
 そのような代表の音楽が、その地の作曲家によりつくられ、その地のオーケストラにより世界的に演奏されるようになるのが理想だ。そうなれば、たとえば大阪の人にとっても、世界の中でのわれわれの街のオーケストラ、うちの街の作曲家、という誇りをもてる。地元の球団やサッカーチームみたいに、これが自分たちの代表だという思い入れのある文化的存在になれる。ウィーンフィルがなくなって、ウィーンの音楽を演奏しなくなると、ウィーンの文化は滅ぶはずだ。オーケストラはそのような存在意義をもっている。
 一方、地産ではなく、海外のオーケストラを呼んできて鑑賞すればよいという考えもある。しかし、クラシック音楽は、オーケストラも曲も、海外のものを借り物でやっている限りは、1%のクラシックファンのためにやっているだけになる。そのクラシックファンの鑑賞のためだけにどうして町全体でお金ださないといけないのか、好きな人同士でお金出せばいいということになってしまう。

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地産地消による経済循環

 その意味で地産の地域を代表する音楽、オーケストラが存在することが大事だ。地域を代表する世界的に活動するオーケストラの存在は、地域の経済循環ももたらす、経済的メリットももつ。これはオーケストラの存在意義だ。
 経済的には、地産地消というと、お金が他地域に流出せず地域循環するものだ。
 しかしたとえば、大阪の企業がベルリンフィルやウィーンフィルを1億円払って連れてきて、大阪のフェスティバルホールで聴かせ、金を払い、また次も来てくださいというのをしたとする。でもそのとき1億円はウィーンの音楽を育てるのに使ってしまい、大阪には金は残らない。お金がよそに流れていくわけだ。
 そこで逆に、1億円つぎ込んで大阪のオーケストラをよそからも人が聴きに来るオケにする。
 そうするとそのオケは、地元でお金を落とすオケにもなる。
 つまり、1億円で楽団員に給料払う。楽団員は関西で暮らすから、関西で消費し、お金がぐるぐるまわり、大阪の経済になる。これは公共投資と同じだ。
 地元の作曲家の新作上演に誰かが100万円出し、100万円が関西の作曲家に行くと、GDP100万円プラス。もらった音楽家が地元でまた使うと関西のGDPはさらに100万円プラス。音楽家が使った地元の店の店員が100万円得てまた使うとGDPが100万円プラス…というようにGDPが倍増していく。
 だから、演奏家や作曲家をふくめ、お金は地元で使う方がいい。地産地消により、音楽が生み出されるだけでなく、地域にお金を回すこともできるわけだ。
 外から呼んできて派手にお金を外に出して行う興行とかブランドイメージではなく、発想を変え、地産地消にする。他にないオーケストラや音楽を育て、そのうえで、音楽教育や地域社会への関わりを作っていく。

音楽による、資源を消費しない経済成長

 そしてこれは、単なるお金の地域循環だけの話ではない。
 いまからはSDGs(持続可能な開発目標)的には、モノの贅沢な消費は避けないといけない。しかし経済成長はしないといけない。
 音楽での地産地消なら、資源を消費せずに経済成長ができる可能性がある。
 たとえば、陶器の焼き物、いい土が少ない。いままでは土がいっぱいあるから安物の皿を作って土を使い、売上50億円規模だった。しかし、土の消費量を減らして、でも100億円に売り上げをのばすには、高級な高い絵付きのいい皿にする必要がある。それは、資源の消費は減らして、文化的な商品価値がプラスされることで、文化経済としてのGDPは成長する。同じ土を使いながら3000円の皿を2万円の皿にできれば、土は大事に使える。いかに資源を使わずに大きな金を動かすかといったら、資源を使わなくて高付加価値で高いものをお互いに買っている、極論すれば資源使わないで贅沢しているお金持ちがいるという状態。
 これを音楽でやれるといい。こういうことを行える可能性というのも、音楽の地産地消を提唱する根拠だ。
 それには、音楽の市場を成長させるために、文化に金を出す文化を作る必要がある。

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観光資源としての独自の音楽文化とオーケストラ

 地産地消というと一見ローカルである。しかしそれで閉じるのではなく、ローカルなもので世界に通じる、というグローカルの戦略が必要だ。自分の所の文化を外に売っていくグローカルということを、日本はもっと考えるべきだ。
 われわれがウィーンにウィーンフィルを聴きにいってお金を落とすと、オーストリアが潤う。オーストリア政府は27億くらいかけてウィーンフィルのあのレベルを維持しているけど、それでどれだけ観光客が来るかを考えると黒字だろう。
 だから、関西もおなじようにインバウンド(訪日旅客)の観光資源として例えばオーケストラを位置付ける。インバウンドに対しては、単発人寄せイベントにお金をかけるよりも、外からのお客さんが継続的に聴きにくるオーケストラ公演などができればいいはずだ。
 オーケストラを観光資源にするには、まず地元のお客さんをひきつけるのが大事。そのために、自分らの町の誇り、代表となる音楽、地域代表のオーケストラをつくれればいいわけだ。
 しかし、同時代音楽は、エリートの上から目線で、聴きに来いよという感じで、一部の専門家とマニアが、自分にはこの曲が分かるというプライドに訴えかけるものになりがちである。しかし社会一般にそういうモチベーションはあまり起きるものではない。だから現代音楽は、そういう方法を取っている限り、浸透しない。

 音楽の地産地消は、その地の代表で町の人が誇りに思うような世界的な音楽やオーケストラを生み出し運営していくことと、地元での経済循環と、資源消費をしない持続的な経済成長と、インバウンドによる消費という、いくつものプラスの側面をあわせもちながら、文化と経済の発展を進行させられる可能性をもっている。

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2 地域を代表するオーケストラづくり―「会える演奏家」

 そして、例えば日本センチュリー交響楽団では、地域を代表する愛着もたれるオーケストラとなるための、具体的な取り組みとして、「顔の見える楽団員」をつくろうとしている。わたしもその関連のコンサートに関わっている。
 いままでのオケの楽団員は顔が見えない人たちだった。
 だから、センチュリーで意識してやろうと言っているのは、いかにオケの楽団員を順番に一人一人打席に立つみたいに目立たせて、お客さんに意識させるか。野球で順番に私は誰々選手、私は誰々選手が好き、みたいに、みんなが名前を知っている選手がいっぱいいるようにする。そういう風にオーケストラをしようとしている。
 そこで、センチュリーはリサイタルシリーズをやっている。オケの前にプレパフォーマンスとして、たとえばファゴット奏者のリサイタルをやる。その奏者の顔も立つ。ソロをやる。いままで聴衆が意識していなかったファゴットのソリストが、ファゴットのソナタをやる。そうするとオケのとき、ファゴットソロが出てきた、あの人だと、みんなわかる。そのようにして、一人一人が個性でそれが集まっているオケという見せ方をしている。
 楽団員のプレパフォーマンスもやっている。始めて1年以上になるが、毎回関西の作曲家に新作を頼んでいる。いろいろないい作曲家が地元にいる。大阪、豊中も「作曲家がいる街」なのだ。「作曲家に会える街」にしたい。けど今までオケと地元作曲家の関係が希薄だった。オケが知らなかった。なので順番に初演の機会を作っている。年間に10曲くらいの相当な新作初演をセンチュリーはやっている。
 それにより、地元の郷土作曲家がその地を代表し親近感を持たれる「会える作曲家」になっていくことを願いたい。

第2回口述シリーズ「「回る楽器職人」の子どものための音楽教育思想」

◇近藤浩平ホームページ
http://koheikondo.com/

◇本インタヴュー企画の主旨は、現代芸術活動のアイデア、現代芸術の魅力をどう表現できるか、また社会にあるとよいシステム等について、関係者から話を集めること。それを記事にして共有することにより、現代芸術活動のやり方の体系をつかみ、うまく社会の中で演奏家なり作曲家なり表現者が動くための素地をつくることにあります。引き続き各演奏家、作曲家等の方々にインタヴューをしていきます。


2020/8/22 茅ヶ崎にて
(聴き手:北條立記 作曲家、ライター)

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現代芸術ライター
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