「回る楽器職人」の子どものための音楽教育思想 ~近藤浩平口述シリーズ第2回~

「回る楽器職人」の子どものための音楽教育思想 ~近藤浩平口述シリーズ第2回~

北條立記

 第1回口述シリーズでは、作曲家近藤浩平氏の「地産地消の持続可能な音楽とオーケストラ」というお話をお届けした。第2回では、「回る楽器職人」「回るシンフォニー」という音楽プログラムを題材として、子どもに音楽に触れてもらう方法論について述べていただいた。「回る楽器職人」は近藤氏がベアリング会社NTNと共同開発した楽器で、「回るシンフォニー」は同じくNTNのために音楽教育学者の近藤真子氏と開発されたものである。

回る楽器職人 (2)

子どものための音楽教育思想

 「回る楽器職人」や「回るシンフォニー」は、これを学ばないと音楽を作ってはいけない、という旧来の音楽教育のタガをはずし、技術的障壁がない形で、子どもたちが自由に音楽を作れるようにするツールだ。
 ヨーロッパの現代音楽を子どもたちに啓蒙するという意味での、現代音楽教育ではない。
 いままでの音楽教育は、音楽はこういうルールでつくります、ギターならこういうコードがあり、それを使いましょう、と人に教えられたやり方を覚え、使えるようにするもの。合唱しましょう、みんなと間違わないように歌いましょう、ベートーヴェン、クレメンティを間違わないようになぞりましょう。と正解の方法があって、みんなで真似てやるのが主流だ。
 でも、作文とか、お絵描きは違う。作文は、自分で思ったことを書くのが普通だ。図工、美術、お絵描きは幼稚園、小学校でも、自分で好きな絵を描いていいもの。みんなで動物園などに行って描くが、公立の小学校でも、自分の絵を描いていい。小学校絵画コンクールがあり、みんなでこの絵いいね、面白いアイデアだね、と言い合って、応募して賞をもらったりする。
 しかし、子どもの音楽教育では自発的に作っていくという場面がない。音楽だけは、与えられた楽譜をなぞり、鑑賞するだけで、自分の音楽を作るということがない。作るのを教えるときも、過去の様式を覚えなければ、作ってはいけない、とする。ポピュラー音楽も、コードを覚えてそれを使うという発想になりがち。でも、楽器は、自分で押さえたところを鳴らせば和音になる。現在まで使われてきたルールにのっとらないとだめ、自分で勝手にやるのはNGとされている。本当には自分で作っていない。
 将来、伝統を継ぐ日本画家になりたいなら、小さい時から日本画の先生に習い、伝統を学び、美術館で絵を模写して身に付けることになる。しかし、一般の子どもに、そこまで要求する必要はない。一般の子どもには、お絵描きのように、好きなように作る、自己表現する、思ったときに絵を描くという形で自由にやらせるのが重要。それを普通の一般音楽教育に導入するというのが、わたしの考え。
 人から教えられたものではなく、自分から主体的に作るというのは、教育界で言われていて、一番教育界で話題になっているのは、「アクティブラーニング」だ。文科省でもその導入を言っている。教えられたことをやるのはコンピュータにやらせることができ、人間はそれに歯が立たないから、自分で考える主体的人間にならないと、人は今後役に立てなくなる。だから、教育界ではアクティブラーニングといっている。図工、絵画ではそれをやってきているのに、音楽ではやりきれていない。
 音楽というとき、西洋音楽を前提とすると、西洋音楽をマニュアル的に学ばないといけない。西洋の調性音楽は、和声法を長年学ばないと作れない。しかし、音楽は、調性音楽でなくても、あなたが好きな音を並べていいんだよとなれば、ソルフェージュも習っていない、楽譜が読めない、西洋音楽を聴いてきていない子供でも、自分の音楽が作れる。技術がなくても作れる。子どもは勉強しなくても絵が描ける。技術という障壁をとりのぞく。そのためには、ルールに従った調性音楽でないと音楽でないという考え方を突き崩す。そして、図形楽譜の「回るシンフォニー」とかも使う。作曲家の野村誠さんがやっているように、好きな音を鳴らしまくってというのも、音楽として間違えではない。好きな音を作ろうとする中で、どうやればそれが作れるの、となったときに方法を習うと、押し付けられた技術でなく、自分が必要な自己実現のための技術として学ぶことができる。

第1回口述シリーズ「地産地消の持続可能な音楽とオーケストラ」

◇回る楽器職人、回るシンフォニーについての情報:
「NTN回る学校」https://www.ntn.co.jp/japan/rotatingschool/

◇近藤浩平ホームページ
http://koheikondo.com/

◇本インタヴュー企画の主旨は、現代芸術活動のアイデア、現代芸術の魅力をどう表現できるか、また社会にあるとよいシステム等について、関係者から話を集めること。それを記事にして共有することにより、現代芸術活動のやり方の体系をつかみ、うまく社会の中で演奏家なり作曲家なり表現者が動くための素地をつくることにあります。引き続き各演奏家、作曲家等の方々にインタヴューをしていきます。


2020/8/22 茅ヶ崎にて
(聴き手:北條立記 作曲家、ライター)

この記事が気に入ったら、サポートをしてみませんか?
気軽にクリエイターの支援と、記事のオススメができます!
北條立記
現代芸術ライター